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これからの日本をつくる"働き方"のストーリー

"働き方は選べる"をカタチに。「採用アウトソーシング」の仕組み

株式会社アールナイン
育児や介護などの事情で「働きたくても働けない」女性たち。失業者としてもカウントされないという社会でも宙ぶらりんな状態のまま、本人だけがもがき苦しんでいるという現状があります。そんな彼女たちが生き生きと働ける場所づくりとは?その問いにワークシェアリングという仕組みで応えているのが、私たちアールナインです。

「ワークシェアリング」で「自由な働き方」を実現できる?!

▲代表取締役社長・長井亮

もともとはリクルートキャリアという人材支援の会社に籍を置いていたアールナイン代表取締役社長・長井亮。そこで彼が見たものは「女性が活躍できる企業」とは程遠い現実でした。

長井 「能力も、働く意欲も高い女性たちが、結婚や出産などのライフイベントによって、バタバタと退職していきました。彼女たちの送別会をするたびに、正社員ではない、別の働き方かあればいいのに……と、もったいなく思っていて」

そんな問題意識を持ちつつ、長井は2009年に人材育成や採用サポートの会社・アールナインを起業。

それから3年ほど経った2012年、アールナインは新しいサービスをはじめます。それが「採用アウトソーシング」。企業は採用にまつわる業務をアウトソーシングし、担い手である「パートナー」は振り分けられた仕事を在宅もしくは出向してこなす、というものです。

そのパートナーとして想定していたのは、まさに仕事をする意志があっても家庭の事情で働けない“彼女たち”でした。

長井 「前職では主に新規事業を立ち上げていたのですが、そのひとつに“正社員以外のアルバイトやパート、契約社員なども活躍できる仕組みづくり”がミッションとなっている時期がありまして。

パソコンをまったく使ったことがない人、まだ学生で社会人スキルのない人などをどのように活かしていけばよいのか?……当然ながら、人には得意、不得意があります。なので、まずそこを把握してから、業務を分断し、得意な人に割り当て、連結させるようなプロセスにしたんです。

いわゆるワークシェアリングですね。そうしたらものすごく作業効率が上がりまして。リーマンショック直後のタイミングだったにもかかわらず、売上も伸びたんです」

そうした経験もあって「ワークシェアリングの仕組みづくりをしたい」、そして「多様な働き方を個人が選べるようにしたい」というふたつの想いが生まれました。

それが実現できる機会になったのは、業務案件として「採用アウトソーシング」を依頼されたこと。依頼された採用業務を通常の常駐型ではなく単発で、そして業務を細かく分けて担当を割り振り、遂行したのです。

採用業務をアウトソーシングして得られることとは?

「パートナー」とは可能な範囲での稼働を前提とした、業務委託契約者のこと。

さまざまな都合で「週に1回、3時間だけなら」「週に3回、在宅で」など限られた時間で働きたい女性たちの希望や個々のスキルに沿って、細分化した業務を割り当てていきます。つまり、ワークシェアリングという方法で、空いている時間を活用しながら個々のスキルを活かしてもらうのが狙いです。

「ワークシェアリングを活用した採用のアウトソーシング」といっても、一体どのように分けていくのでしょうか……? 新卒採用業務を例にとると、

(1)応募者対応

(2)会社説明会でのプレゼンテーション

(3)面接

(4)入社までのフォロー

という4つのステップごとに、担当者を割り当てていきます。

たとえば、在宅勤務を希望するAさんに「応募者対応」を、子どもが幼稚園に行っている間は動けるというBさんに「会社説明会」を、採用に特化したキャリアを希望しているCさんに「面接」を、学生とのコミュニケーションが得意だというDさんに「入社までのフォロー」をお願いする、というイメージです。

長井 「おかげさまでリピートしてくださる企業が非常に多いです。採用業務を代行することで、人事担当者は空いた時間を別のコア業務に充てられますし、当社が関わることで、あらためて採用のフローを採用基準や質問項目など細部から見直し、再設計することもできます。例えば面接。実はみなさん、項目など立てずに“印象”で決めてしまうケースが多いのです」

綿密な採用フローを作り上げ、欲しい人材を獲得できる。時間の効率化だけでなく、実利があるのが、リピート企業の多い理由です。

しかし、多くの人が関与するこの採用アウトソーシングは、開始直後は足並みが揃わず、まさに「働き方」に関する問題が発生することになります。

企業・パートナーの双方の意識を変える粘り強さが必須

サービスのローンチ後に起きたのは「パートナー自身の自覚」による問題でした。

長井 「仕事の穴をあけたり、遅刻をする人が出てきてしまったんです。特に会社員からフリーランスに転身したパートナーに多かったのですが、スキルはあっても“換えのきかないフリーランス”という自身の立場を見誤ってしまっていて。

パートナー自身の事情でクライアントに迷惑をかけるなんて言語道断。それを防ぐべく、業務委託者としての意識改革をおこないました」

具体的には、フリーランスの働き方とはどういうものか、1回の遅刻でどのくらい信用が落ちるのかを過去の事例を交えて説明。その一方で、パートナーサポート部の担当者がニーズを吸い上げ、パートナー自身の話を聞き、活かすという姿勢も大切にしました。

くわえて、パートナー各々の自覚や緊張感を保つべく、定期的にクライアントから仕事ぶりの評価をしてもらい、それを本人に伝えています。

また、これと並行して行ってきたのがこのサービスそのものの啓蒙活動です。

長井 「“採用業務は社内で行うもの”という意識が根強く、特に当初は厳しい反応ばかりでした。しかし当然ながら“採用アウトソーシングをやる”という意思決定をしてもらわなければ、パートナーが活躍できる場を生み出すことができません。

それにはまず、企業の経営者にサービスの意義を理解してもらうことが第一です」

長井や営業担当者は企業に訪問したり、イベントやセミナーを定期的に行うなどして「採用アウトソーシング」のメリットを説き続けてきました。

そうした努力が実を結び、5年前に比べ、売上高は4.5倍に。そして、パートナーの稼働率は97%と、企業とパートナーのニーズマッチが定着しつつあります(2017年現在)。

2024年には2万人の笑顔を!「選べる働き方」に映る未来とは

2017年現在、200名いるパートナー。さまざまな事情で一度は働くことをあきらめた人々が、あらゆるシーンで活躍し、輝きを取り戻しています。

長井 「多くのパートナーが今の暮らしに満足されているようですが、中でも私はアールナインの採用やバックオフィス業務を在宅でこなしてくれている方のエピソードが印象的です」

彼女はもともと大手企業で広報業務をこなし、管理職まで打診されたほどの人物。それが義理のお兄さんの急逝、自分自身の妊娠が発覚したことで一気に人間の生死を実感させられ、家族を守りたいと一度は専業主婦に。

夫の転勤がきっかけで、仕事を再開するも、今度は仕事へのプレッシャーから「子どもが体調を崩しても、休めない」という状況になったというのです。

長井 「子どもが体調を崩したときに、子どもの心配ではなく“仕事の心配”をしてしまうことに息苦しさを感じるようになり、当社での在宅ワークに変えたようです。

全般的に、ワークシェアリングのよさは、仕事を集中特化できることだと思うんです。会社員だといろんなことをやらなければならなかったり、その中には苦手なことも含まれている。

彼女のまわりには“ブランクがあって仕事を再開する自信がない”という理由で職探しすらできない仲間もいるそうですが、そういう方々にこそ、得意なことが活かせる働き方もあるよ、と声を大にして伝えていきたいですね」

啓蒙活動や口コミで、じわじわと認知が広がりつつある「採用アウトソーシング」。その、けん引役である長井が思い描く展望は何なのでしょうか。

長井 「これまではパートナーの登録数の多さを売りにするのではなく、“確実にパートナーに仕事を渡せること”がベストな状態としてきました。しかし、これからはもっとキャリア形成をしたい、自分の可能性を試してみたいという人もパートナーとして加わってもらい、登録数を増やしていきたいと思っています。

国がキャリアコンサルタントを“2024年までに10万人にする”ことを掲げているので、同じ年までにその20%、すなわち2万人の雇用を創出したいと思っています」

仕事をする中で励みとなっているのは、このワークシェアリングのおかげで「より育児に集中できるようになった」、「ライフスタイルを変えることができた」というパートナー自身の言葉だという長井。

真の働き方改革とは何か?ワークシェアリングとは?――それを問いかけながら、まずは7年後の2024年を見据え、さらに多くの女性を笑顔にしていきたいと考えています。

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