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これからの日本をつくる"働き方"のストーリー
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"ラクガキ"のワクワク感でつながるチームが、社内外のコミュニケーションをはぐくむ

グラフィックカタリスト・ビオトープ
  • これぞ本質だ賞
ペンでイラストを描きながら、コミュニケーションを創造するーーそんなユニークな活動に取り組むのは、グラフィックカタリスト・ビオトープのタムラカイ。彼は、個人的な活動を通じて発見したラクガキの価値を会社に持ち込むことで、インパクトを生み出しています。タムラが辿った軌跡には、会社と社員の新たな関係が垣間見えます。

コミュニケーションの“触媒”となる「グラフィックカタリスト」集団

▲メンバーの松本が描いた、社内外にまたがるGCBの活動内容

「グラフィックレコーディング」というファシリテーションの手法をご存知でしょうか?ミーティングや議論の内容を、イラストを使って記録することにより、言葉にできない概念や想いを可視化したり、議論の全体を俯瞰したりといったことを可能とするものです。

このグラフィックレコーディングを用いて「かいてつたえる、かいてはぐくむ」というテーマを掲げ活動をしているグループが、「グラフィックカタリスト・ビオトープ」(以下「GCB」)です。富士通デザイン株式会社の社員であるタムラカイは、2017年2月にこのGCBを立ち上げました。

タムラ「わたしたちが、『レコーダー』(記録者)ではなく、あえて『カタリスト』(触媒)と名乗っているのは、グラフィックを使って“記録する”ということから、さらに一歩踏み出して、コミュニケーションを“創造”していきたいと考えているからです」

2017年12月現在、GBCのメンバーは15名で、いずれも富士通グループの社員です。しかし、GCBは富士通の新規事業としてスタートしたわけではありません。タムラをはじめとした、メンバーそれぞれの活動が重なったことで、自然と生まれたグループです。

タムラ 「GCBの名前は、グラフィックカタリストが、『ビオトープ』(生態系)をつくって、それぞれが自由に動きながらも調和するチームにしたいという想いからつけました。ですから、私がリーダーというわけではなく、いわば目立ち担当なんです(笑)」

GCBが生まれる最初の大きなきっかけは、2008年まで遡ります。2003年の入社以来、WEB制作に携わってきたタムラは、携帯電話をデザインする部署への異動という、”望まぬ”指示を受けました。ブランクによりWEB制作のスキルが落ちることを懸念したタムラは、上司に抗議することに……。

タムラ 「WEBの仕事を続けた方が、自分のためにも、会社のためにもいいと思って抗議しました。ところが、上司からは、『お前がいなくても会社はまわるんだぞ』」と言われてしまい……。怒りも悲しみもなかったんですが、『これまで自分は“会社の名前”で仕事をしてきたに過ぎないんだな』と認識しましたね」

結局タムラは異動を受け入れます。しかし、この異動こそが、タムラにとって未来を開く扉となったのです。

社外に広げた活動がもたらした、“個人としての”自信

▲タムラカイ・水玉模様のシャツは彼のトレードマーク

新たな部署に移ったタムラは、業務に関連して、多くの読者を抱える有名ブロガーと知り合うことになります。当時の富士通は、携帯電話をブロガーに使ってもらう、ブロガーマーケティングにいちはやく取り組んでいました。

タムラ 「個人としての無力さを感じていただけに、個人でも会社と対等に付き合っているブロガーさんたちと話をしていて、単純にすごいと思ったんです。とにかく彼らの友達になりたいな、と思って自分でもブログをはじめることにしました」

2009年にスタートしたタムラのブログは、徐々に読者数を伸ばしていきます。ブログを通じて社外の人と知り合う機会も増えるなか、ある男性の言葉が、後のGCBの活動につながる気付きを与えてくれました。

タムラ 「彼と飲んでいるときに、『絵を描くのを楽しいと思ったことがないから、タムラさんのように楽しめるようになりたい』と言われました。その言葉を聞いて、ピンとくるものがあって、自分にもできることがあるんじゃないか、と思ったんです」

このできごとをきっかけにして、2014年にタムラがはじめたのが、絵を描くことの楽しさを教える「ラクガキ講座」でした。コワーキングスペースのイベントとしてスタートしたラクガキ講座は、口コミから受講者を増やしていきます。こうした社外の活動は、タムラの気持ちに変化を起こしていました。

タムラ「もともと絵を描くことは好きだったんですけど、人に教えるほどの実力はないと思っていたんですよね。でも、ラクガキ講座では、お客さんに喜んでもらえて、しかもビジネスになっているわけですから、それはもう大きな自信になりました」

こうしたタムラの活動に注目が集まった結果、2015年にはラクガキをテーマにした書籍を出版するまでに至ります。個人としての独立も十分に可能性がありましたが、彼が進んだ方向は、意外なものでした。

グラフィックの価値を感じる仲間と、偶然に導かれて出会う

▲GCBのメンバー

「子どもの頃から、あまのじゃくなところがあるんですよ」ーーそのように話すタムラは、周りが独立を勧めるなか、一歩引いて今後の活動について考えます。その結果、これまでやってきた“ラクガキ“を、グラフィックレコーディングやワークショップの手法として社内に取り入れることに価値を見出しました。

タムラ 「会社の規模はすごく大きいので、これを生かさない手はないと思ったんです。絵を描くことの楽しさであったり、コミュニケーションを円滑にしたりというのは、会社でも使えるものなので、個人として独立せず会社を利用して活動を広げていこうと決めました」

活動の手始めに、タムラは、社内のWEBメディア「あしたのコミュニティーラボ」をとおして、グラフィックレコーディングにかける想いを広く公開します。これを見て強く反応したのが、富士通株式会社の小針美紀でした。彼女は、グラフィックレコーディングの手法を社内の人材育成に活用すべく、独自に取り組んでいました。

タムラ「小針は、グラフィックを描ける人を周りに育てていこうと働きかけていたようですが、色々と難しいこともあったそうです。一生懸命やっても、『仕事なんだから描いて当然』と言われることもあり、活動を止めることも考えていたそうです」

そうしたタイミングでタムラの活動を知った彼女は、「私と同じ想いの人がいる!」と感動し、すぐさま社内メディアの担当者を通じ、タムラと知り合うことに。お互いのこれまでの活動や、グラフィックにかける想いを共有したふたりは、チームとして活動することにしました。

タムラ「ムーブメントを起こすには、二人目が大切だって言いますよね。社内で活動するには、ひとりでは限界があると感じていたので、『仲間を見つけたい』とぼんやりと考えていました。そんなタイミングで小針と出会えたのは、とてもラッキーでしたね」

メンバーそれぞれの想いが重なったとき、最高のチームが生まれる

▲グラフィックレコーディングはこう進められていく

GCBがチームとしてはじめて活動したのが、2017年2月に一般社団法人at Will Workにより開催された「働き方を考えるカンファレンス2017」。きっかけは、このイベントでグラフィックレコーディングをしてほしいという依頼が、タムラのもとに舞い込んだことにあります。

タムラ「内容を聞くと、登壇者54人で参加者約600人という大規模なものでした。それまでのように私ひとりでこなせる規模ではないな、と思い、小針などを加えたチームでやってみることにしました」

そうしたタイミングで、新たな仲間も加わります。2016年12月、タムラは富士通デザインに中途入社したばかりの松本花澄のことを知ります。松本は、自身のウェブサイトでグラフィックを使った活動について公開していたため、たまたまタムラは松本の存在を知っていました。

タムラ 「なんとなく新入社員のお知らせを見ていたんですけど、松本を見たときに、『あのサイトの人だ!』と気づきました。これはなんとしても仲間に誘い込もうと思って、彼女の歓迎ランチ会では、まっさきに目の前の席をキープしました(笑)」

松本が加わり5人となったチームは、GCBという名をつけ、イベント当日を迎えました。グラフィックレコーディングを公開した催しは順調に運び、参加者に活動を印象づけます。イベント終了後、タムラは手応えを感じていました。

タムラ 「一日をみんなで乗り切ったあとに、すごく達成感があったんです。それぞれに反省点もあったんですが、誰が押し付けるわけでもなく、自然とみんなから、『もっとよくするためにはどうしたらいいだろう?』という話ができていて、それはすごくよかったなあと思いました」

その後、2017年5月に参加した「富士通フォーラム2017」で大きな反響を受けたり、富士通本社の役員から高く評価されたりと、GCBの活動は結成から1年足らずで、存在感を飛躍的に増しています。そうしたなか、タムラがもっとも喜びを感じるのは、”メンバーの成長”を目にするときです。

GCBという”生態系”がどのように育ち、価値を生み出していくのかーータムラは未来に思いを馳せています。

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