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これからの日本をつくる"働き方"のストーリー

社員の出社義務をなくした会社。最小限のルールで、最大限の働きやすさを生んだ仕組みとは

シックス・アパート株式会社
仕事をするためには、オフィスに行かなくてはいけない。これって本当に当たり前なのでしょうか? ウェブサイト構築・運用のためのCMSプラットフォーム「Movable Type」を提供するシックス・アパートは、オフィスに毎日出社しなくてよい働き方を実践することで、業務効率もQOLも向上させることができました。

「より良く生きるために働く。その逆ではありません」

▲代表取締役の古賀早

シックス・アパートは、創業当初からいつでもテレワークが可能な会社でした。

2001年にアメリカのカルフォルニア州サンフランシスコで設立したSix Apart 社の兄弟会社として、2003年に設立したのがシックス・アパート日本法人です。日本法人は、米国で生まれたブログツールMovable Type(ムーバブルタイプ)とその関連製品を提供することで、多くの個人や企業・団体の情報発信を支援し、国内のブログ文化の発展に寄与してきました。

創業当初は、基本は毎日全員がオフィスに集まっていましたが、必要に応じていつでもテレワークが可能。カリフォルニアの会社の兄弟会社であったため、創業当初よりカジュアルなワークスタイルでした。

2011年1月に米国Six Apart社から、Movable Type の権利とSix Apart ブランドの譲渡を受けて、2月に国内の上場企業のグループ会社になりました。

そんな矢先、東日本大震災が起こります。

震災の年、政府から15%を目標とした電力使用料節減要請がありました。シックス・アパートもこれを受けて、夏期のみ毎週水曜日にオフィスを閉じることで、20%の電力削減を実施。全社員に対して、水曜日は自宅やカフェなどオフィス外で働くことを推奨しました。

さまざまなテレワークを実現するためのシステムを整えたのは、この時期です。そのうちいくつかのシステムは、毎日出社義務をなくして自由な場所で働けるようになった2017年現在も利用しています。

そして2016年夏、当時国内の上場企業の子会社だったシックス・アパートは、経営・組織をスリム化し迅速な意思決定のもとで製品開発を進めていくために、親会社からの独立を決断。代表取締役の古賀早が声をかけると、多くの社員が賛同してくれました。

古賀 「社員にも出資を募ると、多くの社員が手を挙げてくれました。それで、EBO(従業員買収)による独立を果たすことができました」

新しい組織のもと製品開発に集中するために、これからの働き方を新しく考えました。それが、出社義務のない働き方「SAWS(サウス、Six Apart Work Style)」です。

2016年8月、私たちは赤坂の100坪超のオフィスから、神保町の30坪ほどのコンパクトなオフィスに移転しました。

このオフィスには、10席ほどのフリーアドレス席しかありません。オフィスが働きやすい人はこれまで通り出社していますが、社員の多くは、個人や業務の都合に合わせて、自宅・訪問先近くのカフェ・コワーキングスペースなど、自由な場所で働いています。

古賀 「人はより良く生きるために働く。その逆ではありません。だからQOL(生活の質)を高めていけば、生活の一部として仕事も生産性高く楽しめるはずだと考えていました」

テレワーク手当を支給、自分が働く環境は自分で作る

▲家族と帰省し、実家でリモートワークをする社員

テレワークのためのルールを作るのではなく、毎日オフィスに来る必要をなくし、働く時間・場所ともに自分の裁量で管理できるようにしたのがSAWSです。これを実現するために、私たちはいくつかの準備を行いました。

まず、毎日出社することがなくなったため定期代の支給を廃止しました。多くの社員は、会議などで月数回程度オフィスに来ており、この出社にかかる交通費は、出社した日数に応じて個別に精算しています。

一方で、少額の経費精算が増えることになるため、省力化とコスト削減を同時に進めました。省力化は、申請する社員にとっても経理スタッフにとっても使いやすい、クラウドサービスの導入です。コスト削減については、少額の精算でさえも毎回数百円かかる銀行振り込み手数料を削減するため、希望者は手数料のかからないAmazonギフト券を選択できるようにしました。

加えて、働く環境を自ら作るためにかかるコストを補填するために、全社員一律で月額15,000円のSAWS手当を導入しました。この手当は、自宅の業務環境作りや光熱費・通信費、カフェ代などに利用することを想定したもので、用途自由・申請不要です。自分が働く環境を自分で投資して整備することで、業務効率の改善にもつなげてほしいという意図も込めています。

そんなSAWSを開始して約1年3ヶ月(2017年12月現在)。実践して、はじめて気づいた課題もありました。

SAWSの課題も含め、積極的に情報発信

▲変わった場所での打ち合わせも

SAWSを開始した当初は、想定と違うこともありました。

そのひとつが、もっともSAWSを活用できるだろうと思った小さな子どもがいる社員が、毎日出社していたことです。その社員は、保育園に子どもを預けた後、駅に向かうのではなく自宅に戻る姿をまわりの方に見られることを気にしていました。

他にも、自宅で働いていた社員が、平日の昼間にご近所を出歩かないように気をつけていたという話もありました。どちらも、毎日出社していた人が毎日家で働くようになったことで、まわりからどう見られるのかを気にするようになった、ということです。

これらは、それぞれの社員がまわりの方に今の働き方を話したことに加えて、政府の働き方改革推進活動の結果としてテレワークの認知が高まったことで解消されてきました。

また、リモートワークになることで業務内容や時間などを「管理されない」ことに不安を覚える社員もいましたが、オフィスに上司がいる環境でなくとも、自分でやるべきことを決めて実行するよう促しました。

もともとシックス・アパートでは、震災の年以降、毎夏の水曜はリモート勤務を行ってきたため、オンラインの業務ツールやコミュニケーションツールには全員が慣れていました。これまで週1回やってきたことを、週5回にするだけだということを互いに確認し、最終的には全員が、問題なくSAWSに移行できました。

実践してから気づいた課題をクリアするたびに、SAWSの取り組みは進化してきました。

新入社員を採用した際、最初の1ヶ月は本人とチームリーダーが毎日出社してOJTで研修を実施。しかし所属するチームのメンバーは全員リモートにいるため、オフィスにいてもリモートチームの働き方を学ぶことができました。1ヶ月毎日出社していたことによって、ほぼ全社員と顔を合わせることができた、というのも実践から学べたことです。

このようなシックス・アパートのSAWSの取り組みについては、広報ブログやメディア取材を通して積極的に発信しています。

シックス・アパートはMovable Typeなどの製品を提供することで、企業や団体の情報発信を支えている会社です。シックス・アパート自身も、社内にあるストーリーやノウハウを外に発信していく文化が根付いています。

「実は、移住してました」テレワークは、実家の家族とのつながりも強める

SAWSを実践してきたなかで、さまざまな変化がありました。そのひとつが、業務開始時間が早まったことです。通勤の必要が無いため8時台に、チャットに書き込む社員も珍しくありません。早い時間に業務開始した分、夕方ごろにその日の業務を終えることや、日中に自分の時間を作ることもできるようになりました。

午前半休する社員も減りました。以前は、悪天候や家庭の事情、一時的な体調不良などで、朝の混雑する通勤電車に乗るのが大変で午前半休……ということがたまにありましたが、今は、無理に出社せずとも、自分のペースで好きな場所で業務開始できるため、わざわざ午前半休を取る必要がなくなりました。午前半休にしてしまうとそのまま午前中は仕事ができませんが、SAWSでは、そのような無駄はありません。

SAWSを実践したことで生まれた成果のひとつは、地方在住者を採用できたことです。業務委託契約を結んでいた長野県在住のエンジニアを、正社員として迎え入れることができました。

毎日出社する必要が無くなったので、都内にあった自宅を離れて、北関東のご実家の別宅から働いていた社員もいます。その社員が担当している業務は滞りなく進んでいたため、報告を受けていた同じチームのメンバー以外は、誰も移住したことを知りませんでした。いつどこで働いてもいいのがSAWSなので、これも何の問題もありません。

関西に住むご両親の入退院の世話をするために、月の半分帰省している社員もいます。以前は帰省している間は有給休暇を使っていました。しかしSAWSでは、家族の世話をしている時間以外はリモートで業務を遂行できるため、有給休暇の消費は最小限で済みます。そのため有給休暇は、趣味の時間やリフレッシュなど、本来の目的のために活用できています。

このようなSAWSの取り組みを発信してきたことで、企業や地方自治体からテレワークの活用についてお問い合わせをいただくことも増えました。

地方在住のまま都内企業の正社員になった事例や、働く場所が自由になったので地方に移動した事例、また頻繁に実家に帰りながらも業務を滞りなく進めている事例など、私たちの取り組みからの学びを企業の人材獲得と地方活性化の両者に役立てたいと考えています。

これは、自分たちが率先してSAWSに取り組み発信してきたからこそ見えてきた次の一手です。これまで通りMovable Typeをはじめとした製品・サービスを進化させていくことに加えて、賛同いただける会社と協力しながらテレワークの推進についても進めていきます。

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