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WORKSTORYAWARD2018

これからの日本をつくる100の“働く”をみつけよう「Work Story Award 2018」の受賞ストーリー、
一次審査通過ストーリーを公開しています。

最後まで相手を信じ模索した、リーダーとスタッフが"共に育つ"指導

医療法人社団梅華会
2018年現在、約80名の従業員を抱える医療法人社団梅華会では、"人"を何よりの財産と考え、育成にも力を入れています。育成を強化することで、離職率の低下にもつなげているのです。1年半リーダーを経験するなかで壁にぶつかった飯田。彼女がどのように指導方法を変え、課題を乗り越えたのかをお伝えします。

ある日新人スタッフから言われた、「辞めたい」のひと言……

▲約1年半、医療事務のリーダーとしてスタッフのマネジメントをしていた飯田

事業が拡大していけば、人材の採用数も増え、人材育成の形も多様化していく必要があります。

医療法人社団梅華会は2018年11月現在、耳鼻咽喉科クリニック4院、小児科クリニック3院を経営。順調にクリニックが拡大するのに伴って、スタッフ数も増加し、約80人規模となっています。

当法人では、1クリニックに1名のリーダーを配置し、クリニック内の8~10名のスタッフをマネジメントする形を取っています。しかし人材が増えるほど、採用・育成面での課題も増えていきます。

2018年4月から人事部採用担当となった飯田は、クリニックで医療事務のリーダーをしていたころ、ある新人スタッフへの指導について悩みを抱えていました。

リーダーは月に1回、スタッフ一人ひとりと面談の場を設けていますが、飯田は、入職して3カ月の新人スタッフから、面談で「この仕事を辞めたい」と言われてしまったのでした。

飯田 「彼女は、人と接することが苦手なタイプのスタッフでした。しかし、人と接することが好きな私は、その気持ちが理解できず、自分がやりやすい指導をしていたんです。
そのときはわからなかったのですが、ある日面談で『辞めたいと思っています』と言われてしまって……。そこでやっと気づきましたね」

そのときの飯田は、とにかく現場で場数を踏ませるという指導をしていました。

しかし、初対面の人と話すことに対して緊張してしまう新人スタッフにとっては、その方法ではパニックになったり萎縮してしまったりして、成長につなげることができていなかったのです。

飯田 「辞めたいと言われたときは正直、『いろいろ考えてやってきたつもりなのに、なんでだろう?』という気持ちが大きかったんです。
ですが、彼女の気持ちを聞くと、自分が今までやってきたことは、彼女のためになっていなかったのかもしれないと思いました。
それを考え直すことができたので、そこからが本当の意味で彼女とのスタートだったのかなと思っています」

飯田は、「自分がやりやすい指導」から「相手がわかりやすい指導」への転換を求められていました。

同じミスを繰り返してしまうスタッフが成長を実感できる指導方法を実践

▲他のスタッフの提案により、ロールプレイングでの指導を実践。その際に使用した振り返りノート

その新人スタッフは懸命に改善を試みていましたが、同じミスを繰り返してしまう日々。彼女が悩んでいることを知ったものの、飯田はどうするべきなのかわからない状態に陥っていました。

飯田 「本当にささいなことなんですけれども、たとえば久しぶりに来られた患者さんなのに症状を聞いていないとか、初めての方に渡さなきゃいけないものを渡していないとか。
そういう小さなミスが繰り返されていて、本人も苦しかったんだろうなと思うんですね。
あとは彼女の性格的にどうしても厳しい言い方をされると、一気にパニックになってしまって。余計に患者さんも腹を立ててしまうというようなことも起こっていたんです」

そんなとき、飯田に声をかけたのが、他業界でも勤務した経験のあるパートスタッフでした。

飯田 「ベテランスタッフが、『どうしても患者さんを相手にすると緊張してしまうみたいだから、一度スタッフ同士で練習するのはどう?』と提案してくれたんです。
それではじめたのがロールプレイングによる指導です。
また、その新人スタッフは『日々の振り返りができていない 』と言っていたので、それなら毎日振り返りができるようにしようと。
その日にできたこと・できなかったことをメールで報告してもらうことにしました」

それまでなかったロールプレイングのマニュアルをイチから作成したり、報告メールにフィードバックをしたり、飯田自身の仕事量は一時的に増加しました。

ですが、これらの努力によって少しずつ状況は改善され、スタッフも自信が持てるようになっていったのです。

日常業務をマスターし、得意分野の仕事も任せられるように

▲スタッフとの集合写真。オンとオフのメリハリをつけ、コミュニケーションを大切にしてきた

ロールプレイングの指導を行なうにあたっては、クリニック内の他のスタッフにも協力を仰ぎました。この協力なくして、新人スタッフの成長はなかったと飯田は振り返ります。

飯田 「チェック表をつくって、基本的な対応から、クレーム対応ができるところまでをゴールにしてスモールステップで進めました。
他のスタッフが楽しんで患者さん役をやってくれていたので、どんどん彼女も楽しくできるようになっていったようでした。
私ひとりじゃここまでできなかったと思いますし、何よりみんなが楽しみながら手伝ってくれたのがありがたかったですね。
ロールプレイングという手法自体が初めてだったので、最初はうまくいくかなという懸念もありましたが、クリニックみんなの空気感のおかげで成功できたんだとすごく感じています」

日々の報告からは、1日1日のスタッフの成長が目に見えてわかります。ふたつの方法を3カ月間続けていくことで、スタッフ自身もできることが増えていく喜びを感じるようになっていました。

飯田 「毎日書くのは本人もしんどかったんじゃないかなと思います。私はこれに関しては、自然にメールが来なくなったらやめようと思ってたんですけれど、きっちり送ってきてくれました」

数カ月後には、日常業務はほぼ問題なくこなせるようになりました。そして、そのスタッフは、医療事務の仕事にとどまらず、自分の得意な領域で力を発揮しはじめます。

飯田 「彼女の能力を生かせることを任せて、結果を残すことができれば、自信につながるはず。
そう思って、日常業務ができるようになったあとは、彼女の得意な “デザイン”の仕事を任せはじめました。
名刺のデザインをお願いしたり、院内で飾る POPをお願いしたり。イラストを用いたマニュアルもつくってくれましたね。
それによって会社にとっての彼女の価値が高まったことは、リーダーとしてすごくうれしいなと思います」

他クリニックからの「成長したね」という報告がうれしかった

▲「スタッフに対してあきらめず、最後まで信じることが大切」と飯田は語る。マネジメントを通して“共に育つ”環境が梅華会にはある

梅華会で月1回行なっているリーダーミーティングの場でも、これらの指導方法とその成果を共有。ロールプレイングは実際に他のクリニックでも取り入れられています。

飯田が一番指導の成果を実感したのは、その新人スタッフがヘルプで他のクリニックに行ったときのことでした。

飯田 「そのクリニックのリーダーに、『彼女はすごく変わったね、成長したね』と言ってもらえたんです。
他のクリニックだと患者層も違いますし、気づかなきゃいけないことも違ったりして臨機応変さが求められます。
なので、そこでもちゃんと働けているというのは、成長以外の何物でもないかなって。
私たちも彼女が成長しているとは思っていたんですが、他のクリニックから客観的な報告をもらったときに、改めて一緒にやってきてよかったなと感じましたね」

この経験を通して飯田は、手法だけでなく、指導にあたっての心構えが大切だということに気づいたのです。

飯田 「最初は自分が先輩から受けてきた指導をそのままやってしまっていたので、そこが反省点です。
あとリーダーとしての学びとなったのは、スタッフに対して絶対にあきらめずに、最後まで信じてあげるということ。
その想いの方がすごく大事で、手法は付属的なところである、ということを学びましたね」

梅華会は、教育ではなく“共育”と表現して人材を育成しています。指導される側はもちろん、指導する側も共に育つことができるような教育。

リーダーとスタッフが信頼関係を築くことで、今回のような成功事例はより増えていくと私たちは考えています。

今後も梅華会では、一人ひとりと向き合う指導を大切にして、スタッフやクリニック数が増えても常に共に育つことができる環境であり続けます。

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