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これからの日本をつくる"働き方"のストーリー
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"創ることで生きる人を増やす" すべてのクリエイターに新しい働き方を提案

株式会社MUGENUP
すべてのクリエイターがもっと自分らしく働くことができるように、やりたい仕事を通して生きていけるように、そんな環境作りを目指して分業制とシステム化を導入したのが株式会社MUGENUPです。エンジニア出身の代表だからこそ、仕組みづくりを通して実現した新しい働き方と、これからの思い描く未来をご紹介します。

やりたい仕事で働いて生きられる環境を作ろうと思った

▲新宿に初オフィス。ここからMUGENUPの取り組みがはじまりました

2017年現在、日本は少子化と言われ、地域格差も目立ち、経済的に厳しい家庭も増えています。そんな中で、自分らしく生きるためにはどうすればいいのか。やりたい仕事で働いて生きていくためにはどうすればいいのか。MUGENUP代表取締役の伊藤勝悟は、“生きる”ということについてずっと考えていました。

ネットワークについて研究する学生だった伊藤が、知人に誘われてMUGENUPの創業メンバーに加わるのは2011年のこと。これからの時代を生きていくために、まずは自分自身の力でしっかり稼がないといけないと考え、まだ学生でありながら卒業を待たずにMUGENUPの設立に参画しました。

伊藤 「最初はエンジニアとしてMUGENUPに参加しました。創業当初、MUGENUPとしてゲームアプリをリリースしていましたが、当時は実際に自分がプログラムを書いて開発していたんです。そのときに最も大変だったことが、大量のイラスト制作でした。
当時は、ゲーム業界全体でイラスト制作の需要が大きく伸びていた時期。あちこちでイラストが必要とされており、さまざまな場所でイラスト制作の依頼が飛び交っていました。その圧倒的な需要により、量が足りないとか、人が見つからないといった声があちこちから上がっていたんです。
はじめて仕事を受けるクリエイターもたくさんいましたし、初めてイラストの仕事を依頼する企業も多くあり、トラブルにつながるケースや、ゲームイラストの仕事を敬遠するクリエイターも出はじめていました。
その一方で、日本を代表するような美術系大学を卒業したとしても、なかなか思うように働けないというケースも見ていました。
クリエイティブを仕事にして働くことは本当に難しい。片や需給が逼迫してイラストの制作が間に合わず、片や働きたくても働けないクリエイターがいる。
そんなクリエイティブ制作の現場を見ているうちに、『仕事を依頼したい人がこんなにたくさんいて、仕事をしたい人がこんなにたくさんいるのにもったいない!』と思いました。この需要を上手く仕事につなげる仕組みを作ることができれば、クライアントにはもちろん喜んでもらえますし、クリエイターにとっても自分の望む仕事で生きていく環境を作れるはずです」

“生きる”ということと、自分の仕事として何をすべきか。目指すゴールと道筋が繋がった瞬間でした。

イラスト制作の分業制とシステム化によって、効率的な働く仕組み作り

▲業務管理ツールを自社で開発するなど、工夫を重ねてイラスト制作をシステム化

クライアントの需要に応えつつ、多くのクリエイターが仕事をできる環境づくり。鍵になったのは、イラスト制作における発想の転換でした。

それまでのイラスト制作は、イラストレーター個人が最初から最後までをひとりで仕上げていました。しかしMUGENUPは後発参入だったため、ひとりで最初から最後まで担当できるクリエイターはすでにスケジュールが埋まっており、制作の依頼ができない状況でした。

それなら、最初から最後まで担当するのは難しいけれど、線画が得意な人、彩色が得意な人、背景が得意な人……。そういった得意なスキルのある人に分散して制作を依頼する、そして、作る過程でアートディレクターが全体の品質を管理する。これなら、質を保ったままクライアントの求めるものを作れるのではないかと考え、イラストの分業制をスタート。それは結果として、多くのクリエイターが働ける環境を作ることにも繋がりました。

実際に、イラストの制作工程をラフや線画、彩色、背景などに分解し、それぞれの部分ごとにクリエイターに依頼してみたところ、クリエイターの側からは「ここだけですか?」と驚きの反応が返ってきました。

伊藤 「もちろん『自分で全部描きたい』という方も多くいらっしゃいました。ですが、そういう方ばかりではなく、特定のスキルに秀でている方や、全ての工程を一人で仕上げるには経験や時間が足りないという方もいらっしゃいます。そういう方は、『一部分だけでもお仕事ができて、イラストでお金がもらえるのは嬉しい』と喜んでくださいましたね」

分業による制作体制を確立するために、日本各地や世界中からクリエイターを集めました。

伊藤 「分業でイラストを制作するためには、多くのクリエイターの方々に協力していただく必要があります。さらにクリエイターそれぞれの特徴やスケジュール、実績など、多くの情報を管理しなければなりません。しかし、メールや電話でのコミュニケーションや表計算ツールを中心とした進捗管理など、従来のやり方では、分業制によって増えたクリエイターとのコミュニケーションコストや制作物の管理コストに耐えられないのは目に見えていました」

そこで伊藤自らが、業務管理システムの開発に取り組みました。クリエイターやアートディレクターにヒアリングし、細かい点までひとつひとつ検証して、独自のイラスト制作フローとその管理のためのシステムを作りました。

エンジニアとしての本領発揮。分業制を始めてから約1年半がたち、新しい業務管理システムで全社が動き出しました。

伊藤 「開発した業務管理システムによって案件の制作工程をスムーズに分業化し、それまでに比べて大量のイラストを制作することができるようになりました。制作物や進捗の管理だけではなく、仕事内容と支払い金額がシステム上で明確になり、発注の依頼から毎月の支払いまで、システム上で全て確認できるようになったのも大きなポイントです。そのおかげで、制作部分以外も含めた管理業務のコストを大幅に削減でき、ヒューマンエラーも圧倒的に減少しました」

業務がスムーズになる環境を整えたことで、仕事を依頼するクリエイターの数も、制作するイラストの案件もどんどん増えていきました。

クリエイターとして働くチャンスの拡大と、自分らしい働き方が実現

▲遠隔地にお住まいのクリエイターをシステムでつなぎ、いっしょにイラストを制作

分業制とシステム化は、イラスト制作の効率化にとどまらず、クリエイターの働く可能性を大きく広げるものでした。

フリーのイラストレーターとして働くのは、とても大変なことです。たとえば、趣味でイラストを描いていても実績はこれからという方や、お仕事としてイラストを描くには苦手な部分がある、自信がないという方にとって、いきなりプロとして第一歩を踏み出すのは大きなハードルがあるでしょう。

しかしMUGENUPの場合は、分業制によって得意な部分を活かすことができ、アートディレクターがそれぞれの工程を監修するため、未経験の方でも働くチャンスが飛躍的に増えました。

伊藤 「弊社に登録しているクリエイターの中には、それまでお仕事をしたことがなかった方もいらっしゃいます。そういう方から、『趣味では描いていたけど、はじめて仕事としてイラストを描きました』『ゲームをやっていると自分が納品したイラストが出てきて新鮮でした』といったコメントをいただきました。私たちの仕事が、クリエイターのキャリアの最初のステップを創り出すことができたかと思うと、とても嬉しく思います」

また、自社システム上での制作フローが出来上がったことにより、電話や直接のミーティングなどをせずともスムーズに仕事ができるようになったため、地方在住のクリエイターやオフィス勤務が難しい方に対しても、積極的にクリエイティブな仕事を依頼できるようになりました。

伊藤 「イラストなど、クリエイティブを制作するお仕事は、難易度が高く単価の高い仕事ほど、クライアントのイメージをくみとるためのコミュニケーションが重要となり、さらに制作期間を想定しづらいことから、発注企業のオフィスが多く存在する大都市に仕事が集中していました。そのため、地方在住のクリエイターは、仕事を受注するチャンスも限られていたんです。
日本中のクリエイターをシステムでつなぐことで、住む場所にとらわれずに働いていただけるようになりました。実際に登録されているクリエイターは日本だけではなく世界中にいらっしゃいますし、また、在宅勤務という形で、MUGENUPの従業員も北海道から九州まで広がっています。
結婚を機にお引越しされた方や、育児や出産、病気や介護など、一般的なオフィス勤務が難しくなってしまったクリエイターの方にも、在宅勤務としてクリエイティブなお仕事をしていただいています。中には、普通にオフィス勤務しているのと同じように稼いでいるという方もいらっしゃるんですよ」

4名で創業したMUGENUPも、分業制とシステム化を原動力に大きく成長。7期目となる2017年には、従業員も200名近くまで増えました。会社の大きさだけではなく、関わる案件の規模や幅も広がり、今ではTVのCMで見かけるようなビッグタイトルのイラストを制作している他、キングコング西野亮廣さんの絵本『えんとつ町のプペル』は、MUGENUPがイラスト制作に全面協力しています。

これからのデジタルクリエイターを支える環境づくりを目指して

▲事業の拡大は続き、2017年現在、ここまで大きなオフィスに移転しました

2017年現在、MUGENUPは、2Dイラストの制作だけでなく、3DCGや映像の制作にも事業を拡大。さらには人材事業やクリエイター育成にもチャレンジをはじめています。

伊藤 「クリエイターの中には、在宅勤務だけではなくオフィス勤務を望む方もいらっしゃいます。それならば、オフィスで働ける機会を弊社が作ればいい。そもそもMUGENUPのミッションは“創ることで生きる人を増やす”ですから、すべてのクリエイターに働いて生きる選択肢を提案していきたい。そう思って、人材派遣などにも取り組んでいます。
これからの将来、デジタル分野の発展につれて、デジタルコンテンツに関わる仕事はますます増えていくでしょう。MUGENUPでは、将来を担うクリエイターをサポートすべく、イラストの描き方を学べる学習メディアも作り、クリエイターが成長するための環境もサポートしています。
MUGENUPで学び、MUGENUPではじめての仕事をして、経験を積んで、好きな仕事で活躍するプロになってくれれば……。クリエイターに新しい働き方を提案するだけでなく、将来のクリエイターを目指す人に、“クリエイターとしての生き方”というビジョンも提案していきたいと考えています」

“創ることで生きる人を増やす” ――それは、伊藤の根底にあった“生きる”ことへの想いとつながっています。

それは国内に留まらず、海外へも発展させていきたいと考えています。2017年現在、すでに中国や台湾、韓国などのクリエイターにも仕事を依頼し、アジア圏のクライアントの仕事も頂いています。

伊藤 「これから先は、世界のどこででも仕事ができる環境になっていくと思っています。その基盤になる部分をMUGENUPが作っていきたいですね」

そのシステムを自分たちで作れるところもまた、私たちMUGENUPの強みです。クリエイターではなく、エンジニア社長だからこそできることを――。それが伊藤にとっての“生きる”なのかもしれません。

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