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「昔の自分たちを反面教師に」 新卒離職率50%の会社はなぜ生まれ変われたのか?

ALH株式会社
2000年に設立されたALH社は、社員の平均年齢が29.9歳と若い会社であり、スタッフの90%をシステムエンジニアやプログラマーが占め、極端な売上先行型でした。しかしその方針はうまくいかず、採用しても社員の離職が続きます。企業成長できた理由には、これまで多くの企業に取材をしてきたなかでも、珍しいほどの極端な方向転換にありました。

顧客第一、売上至上主義で、離職率は上がるいっぽうだった

▲ALHでは、IT企業としては珍しい農業事業も展開している

私たちの仕事は国や官公庁、都道府県自治体、金融、不動産や流通、小売りなどさまざまな業界の業務管理システムや基幹システムを構築することであり、アプリケーション開発やインフラ構築といったITソリューション、また、コンサルフェーズから入り、お客様の経営課題のひとつであるIT戦略化についての課題解決やシステムを一から作りあげるITコンサルティング事業もしています。

そのほかにも「農業事業」といった、IT企業としては珍しい事業もしており、鳥取県で東京ドーム3つ分くらいの敷地面積を使って、アグリテックとよばれる「農業×IT」をかけあわせた有機野菜の生産に取り組んでいます。2018年2月時点では、鳥取県内の有機野菜の生産規模として、第一位の規模まで成長。この計画がうまくいったことで、現在岡山県にも提携農業があります。

一般的に経営資源というと「人」「モノ「金」「情報」の4つと言われ、これらを充実させていくことが、経営の基本とされていますが、私たちはその中でも「人」を最も重要視している会社です。

農業事業のスタートは「何をやるのか」よりも「誰がやるのか」という考え方を重視しており、マーケット情報や市場の規模、競合他社がどうであるかはもちろん大切です。でも、このプロジェクトに関しても発起人が「鳥取に行って、本気で農業をやりたい。農業で世界を変えたい!」と、とんでもない熱量を持って訴えてきました。だからその姿勢が評価されて、事業計画にGOサインが出たのです。

ALHはこのように、新しいチャレンジができる風土があり、斬新な企画が産み出されていく会社でした。けれども、2012年春ごろまでは3年以内の新卒離職率が50%を超えるほど、人材の定着率が悪かったのです。

今となっては、理由は明確に分かっています。経営理念と現場の実態に乖離があることが原因でした。

当時は「売上至上主義」を押しだして、結果を出した社員だけを評価する仕組みでした。どの程度の評価かというと、新卒で入社した社員でも、2年目には70〜80万円の給与を得ているイメージです。それも提供している内容やサービスの価値、売り上げの方法はまったく問わず、個人の売上数字だけを見ていました。

そのような状況でありながら、会社のリクルート用WEBページや入社時の説明では、「人づくり」「ものづくり」「トライ&エラー」などの柔らかい言葉を並べていたのです。社会貢献や自分を成長させることを夢みて入社しても、価値観よりも成果を出すことを求められる環境では人材が定着しないのが当たり前でした。

状況はドロ沼化。出口も解決策も見えない日々

やがて社員たちは、吐きだすことのできない不満をため込むようになります。

その頃の私たちは、業務への改善案であっても現場からの意見を受けつけることはありませんでした。結局は混乱のあまり、副社長的な立ち位置だった社のナンバー2が血栓のような存在となり、会社の血流を止めてしまう存在に変わってしまったのです。

トップからの指示が歪められて伝わる、社員たちのささいな愚痴が不本意な形で経営陣につつ抜けになる……など、当時は全員が疑心暗鬼の状態でした。

環境が悪すぎて、経営に加わったはずの会社の社長さんが、元社員をそっくり連れて辞めてしまったことも。これほどまでに問題があっても、当時は感覚がマヒしていたのでしょう。短絡的な視野だけしか持たずに、対処療法だけを繰り返して臭いものに蓋をしていました。こうした方法は、今では「塩漬けにする」と表現して、社内で最もしてはいけないことにあげています。

このような職場環境では業績があがっていくはずはありません。どんな対策をしても、業績が伸び悩む時期が続きました。社員の離職も止まらず、打つ手も思い浮かばず、経営陣一同で途方に暮れました。

経営理念を変え、会社が生まれ変わった日

▲経営理念の再策定には多大な議論の時間が費やされた

ALHは2017年4月にグループ会社と新しい会社を統合するにあたり、統合する前に経営理念と行動指針を再策定するプロジェクトをスタート、その後、6月に全社員を集めたキックオフを総会を行い、新しい経営理念と行動指針を発表しました。

正直なところ実際に伝えるまでは、社員の反応がどうなるか分かりませんでした。けれども、実際にコメントを聞いた社員は「ここの代表って、やっぱりいいな」「この会社で働いていてよかった」とおおむね良いリアクションを返してくれました。この一件があったことで、会社への信頼度がぐっとあがった実感がありました。

もちろん総会での発表までは、簡単な道のりではありませんでした。「このままでは会社が大きくなっていかない」と、幹部層が何度も集まり、話し合いを重ねました。全員共通の意識として、それまでおざなりになっていた、経営理念を作り直さねばいけないと覚悟を決めました。

そして会社として付き合いのあった、「リンクアンドモチベーション社」へ組織的に相談をしました。経営だけでなく社員をマネージメントすることについて、本当にゼロからいろはを教えてもらったのです。

次に会社に関することを3C分析にかけ、幹部社員すべてが集まって会社の強みと弱みについて、とことんブレストしました。ただの会議としてではなく、必ずファシリテーターを立て、書記係を入れて記録もとります。その場では、自分たちがこれまで何を大切にしてきて、今後どういった面で勝負していきたいのかを確認しあいました。

結局、私たちが持っていなかった組織としての考え方は、『チェスターバーナードの組織構成の3要素』を取り入れることにしました。この要素を取り入れた理由は、弊社がそもそも「この組織である理由」を持っていなかったからです。

その地点から、私たちには何が必要かを考えたときに、一番フィットしたのがこの考え方でした。他社さんで成功している法則も検証しましたが、弊社とはビジネスモデル、ターゲット、マーケットともに異なるためしっくりきませんでした。

それまでも経営理念を社員に伝えてはいたのですが、その裏にある背景や目的がまったくない、言葉だけのものでした。さらに売り上げ目標の数字を強調して伝えていたので、社員たちの納得や腹落ちにはいたらなかったのです。

一連の経験をしたことで、これまで他責思考型の社員が多いように感じていたのが、会社で起こるすべてのことに当事者意識を持つ社員が増えました。社風や組織図も変わり、部署や役職が違うから関係ないと思わずに、「自分たちが協力できることはないか」と自主的に動くことを当たり前と考えるように変化してきています。

これから2018年度の新入社員を迎える予定ですが、去年入社した若手たちが率先して、どうやって面倒を見て育てていくかを話しあってくれています。そんな光景はこれまでは考えられなかったことで、会社としてとても誇らしく感じています。

懸念だった離職率も下がってきて、今では20%ほどでしょうか。さらなる従業員満足度の向上を目指した2018年現在は急な方針変更による慌ただしさが少し残っていますが、今後はこの数字もさらに下がっていくはずです。

働く人に憎まれる会社から、愛される会社へ

▲ROU責任者の米川弦樹(写真左)と代表取締役の畠山 奨二(右)

この一連の社内改革に、“人事”に近い立場で関わってきたのが、ROU(Resource Optimize Unit)責任者の米川弦樹です。彼は2008年に新卒としてALHに入社し、法人営業を経て、2014年からROUに配属されました。

米川 「正直な感想を言うと、昔は『現場からトップまで意見もスムーズに届かず、血が通っていない会社だな』と思ったことを覚えています。しばらくの間は結果のみを評価する社風に慣れず苦しみましたが、今ではVOE(Voice Of Employee)という新しい部署も立ち上げ、社員ひとりずつと顔を合わせて話を聞く活動をしています。人を大切にする方針を打ち出したことで、半期に一度測定する従業員満足度が飛躍的に向上しました」

生まれ変わった私たちは、改めて「人」で勝負していくと決めています。一般的な経営理念とは、何か価値を生み出すことや社会貢献の類が多い。けれど私たちはそこを目指すのではなく、「みんなに愛されるチームを目指す」ことを経営理念にしています。

米川 「お客様からよく、『ALHさんって、あまりエンジニアっぽくない人が多いよね』と言われます。これはいくら技術力が高くても、人柄や誠実さがないと新しい社風に適さないと考えているから。その価値観は、IT業界やマーケットとは真逆になるのかもしれません。ですが今後は、未経験でも資格の有無ではなく人間力と潜在能力を信じて、時間とコストとお金もかけて徹底的に人材育成に投資していきます」

ALHは、今までダメな会社だったかもしれません。けれども、この記事を見てくれた人が「こんな働きやすい環境を作った会社があるんだ!」と思ってくれたり、反面教師としてでも人事の方たちの参考になることがあったりしたら嬉しいです。

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