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これからの日本をつくる"働き方"のストーリー

"シブヤ"から発信する新しい働き方改革----渋谷をつなげる30人の挑戦

渋谷をつなげる30人「シブヤ働き方改革推進室」
働き方改革が声高に叫ばれる時代、働き方そのものが生活とは切っても切れないより密接な関係になっています。「それならファッション・音楽、常に新しい文化の発信地である渋谷区から、"新しいライフスタイル"を提案できないだろうか」----。 「渋谷区」というキーワードで、企業、NPO、行政機関から集まった30人。

働き方に対する先入観=想像の壁を取り壊すことから最初の一歩ははじまった

▲2016年シブヤ働き方改革推進室のメンバー(左から2番目が加生健太朗、1番右が安東直美)

安東 「まずは1社だけでは取り組めないこと、それぞれのリソースをシェアしたり連携したりできる土台をつくりたいと考えました」

渋谷をつなげる30人(以下、渋30)事務局の安東直美は、そのように振り返ります。

渋30は、2016年にスタートした株式会社フューチャーセッションズ主催の行政・企業・NPO・市民連携のプロジェクト。とはいえ、もともとこのプロジェクトにはゴールは用意されていません。偶然集まったメンバーが企業やNPOというセクターの壁を越えて、お互いのリソースを活用し、様々な社会や企業の課題を解決していこうという取り組みです。このプロジェクトの1つとして、渋谷らしい新しい働き方を発信していこうという「シブヤ働き方改革推進室」が生まれました。

当時、NPO・二枚目の名刺でディレクターをつとめていた安東は、本業・本職以外に自分のアイデンティティを表現する名刺をもつことが、自分の成長の糧やネットワークの拡大につながり、本業や所属する組織の成長につながるのではないかと考え、渋30のメンバーと「新しい働き方とは」という議論を続けていました。

ターニングポイントなったのは、株式会社ビームスで実施されたラウンドテーブル。これを起点に活動は大きく動きはじめます。渋30のメンバーであったビームス人事本部 人材開発部の原田謙太郎は、「仕事の時間以外に何かしたいと思っても、店舗をもつ接客業であるがゆえに、シフト制勤務が基本だからそもそも“柔軟な働き方”に抵抗があるのではないか」と考えていました。

安東 「そこで実際はみんなどう思っているのだろうとラウンドテーブルを実施したんです。わかったのは、みんな「仕事以外でも自己実現すること」に興味をもっているし、それを会社が応援してくれたら嬉しいという肯定的な意見でした」

柔軟な働き方は、現場では理解されづらいのではないか。この先入観が「大きな壁になっていた」と安東。実際に対話してみることの重要性を感じました。それは、事務局メンバーの加生(かしょう)健太朗も同様です。

加生「一般論ですが、社員の立場で働き方改革や副業なんて、自分たちから会社にはなかなか提案しにくいと思うんです。たとえばオフタイムで考えた事を、会社でパブリックな発言として表明できたのは大きな機会だったようです」

このビームスの事例は、働き方に関する本音のコミュニケーションを取ることで、実際に話してみると相互理解が深まりました。「聞いてみると想像と現実はちがう」——。

次にヒアリングを行った渋谷区でも、この実感は増していきます。

ちがいを“柔軟に”そして“どんどん”受け入れていく。そこから広がる働き

▲渋谷区副区長も参加した働き方セッション

ビームスの次に話を聞いたのは、渋谷区の副区長、澤田伸氏でした。役所の働き方改革とはどういうものなのかーー。渋谷区自体は、2015年に区長が新任され「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」というビジョンを打ち立て、それに向けて動き始めたところでした。

加生「副区長のお話から、互いに違いを認め、インスピレーションを受けあいながら、タイアップしていくという流れが自然とできました。

つまり、働き方改革として実際に行う施策はそれぞれに異なって当然。なんのために自分たちはどのような改革をしたいのか。どのように進めるか。そのために、どのようなコラボレーションが可能なのか。本質を共有してつながるということです。これは、このコミュニティの強みになっています」

渋谷区との話は進み、2017年4月には東京カルチャーカルチャーで、澤田副区長とともに区長の長谷部健氏もゲストに招き、Shibuya Life & Culture lab.というコミュニティイベントを開催します。

加生「自治体も変わろうとしている姿勢は、他の企業にポジティブな影響を与えています」

共通の思いを抱く企業を、巻き込むように拡大していきました。

地域、会社、自分、その3つの主語がひとつになったとき何よりも強くなる

▲WILLカード発案者の関口冬樹氏

4月に開催したイベントで、加生がファシリテートしたセッションから生まれた企画に「渋谷グリーンカード(現 Willカードプロジェクト)」があります。発案者の関口冬樹氏は東急不動産に勤め、神宮前の再開発事業を担当しています。

加生「渋谷にオフィスを構える企業とつながって、このカードを持つ人は自由に空きスペースを使えるなど優先的な資格が与えられる。そんなカードがあると面白いよねというアイデアです」

Willカードは、渋谷に拠点をおき、これから100年先の未来をつくるプロジェクトを支援するという、パナソニックとロフトワーク、カフェ・カンパニー協賛の100BANCHというアクセラレーションプログラムにも採用されました。今では、渋谷での様々な企業や区、取り組みに派生し、その流れは加速しています。

加生と安東がこのプロジェクトのすごいのは「3つの主語でなりたっている」ことだといいます。

安東「関口さんの本業は渋谷区内の再開発事業。地元の方、関係者、あらゆる方と関係を作りながら、長い目で魅力的な街を作っています。その結果は、10年20年、あるいはそれ以上の期間を経て、価値が明らかになります。

一方、彼が自主的に進めているWillカードは、街のコミュニティづくりを一番の目的としています。カードを通じて人がつながり、目の前でコミュニティが生まれる。

ある意味結果がその場で見える、これは本業とは大きな違いです。一方、このプロジェクトでできた「人のつながり」は結果的に彼の一枚目の名刺の街づくりに生きてくる。

さらには「渋谷区」をいう街も、コミュニティを強めていきたいと思っているし、関口さん自身も共感している。お互いが相互に活かしあえているんですね。これって働き方、生き方の本質だなと」

本業とのマッチング、これが働き方改革の重要なポイント。地域がもつビジョン、所属する企業がもつビジョン、そして自分の生き方ともいえるビジョン、その3つに自分ごととして心から共感している人はそう多くないでしょう。

それを結びつけようとしているのが、渋30の試みです。

加生「関口さんは、渋谷区はこういう街になるんだ、会社としてはこういうことを達成したいんだ、そして自分はこうやりたいんだという3つが串刺しになっている。まさに地域、会社、自分の3つの主語でビジョンがひとつになっている。こうなったとき人間はいちばんパワフルに活動できるんじゃないでしょうか。」

働き方改革に、決まったゴールはありません。活動する一人ひとりに違ったゴールがあるはず。一人ひとりがゴールを見つけ、地域や会社を巻き込み、コミュニティをつくっていく。

そして、関口さんのような“ローカルヒーロー”をどんどん出していきたいーー。

それが渋30から生まれた「シブヤ働き方改革推進室」の目指すところなのです。

街づくりの主人公になるとは思ってもみなかった人たちを、主人公に!

▲2016年の渋30のメンバーたち

結果的に、“想定外の”望ましい方向へ進んでいると安東はみています。

安東「私たちのチームは、たまたまテーマが多くの人の共通テーマである「働き方」でした。でも、他の課題でも一緒だと思っています。

最初は渋谷が軸ですが、はじまってみるとテーマもどんどんつながって広がっていく。地域という面でも、渋谷でのスモールスタートが、他の地域での挑戦のハードルを下げ、広がるきっかけになるのでは、と感じています。」

渋30の役割は、この成長し続けるプラットフォーム、コミュニティを継続すること。コミュニティの活性力が弱まったときには、あたかも焚き火の番人のように火を起こす。そして、その火同士がお互いに競い合ったり、刺激を受け合ったりする場もつくっていくーー。

活動がスタートしたのは、2016年9月から1年以上が経ちましたが、個人にとどまらず、社会の働き方、在り方という大きなムーブメントに変貌し、渋谷区の挑戦は続いています。

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