企業と個人に新しい仕事文化をつくる──「他社留学」の可能性
腕試しへの願望と人材流出への不安が築く隔たりに、風穴を開ける挑戦
「企業と個人の新しい関係性を実現する」──エッセンスは、このビジョンを掲げて「新しい、仕事文化をつくる」というミッションに挑んでいます。
企業には「雇用から活用へ」という人材との関係性を、個人には「自立した生き方を」という新しい価値観を、10年間変わらずに伝え続けてきました。
プロフェッショナル人材の紹介サービス「プロパートナーズ」をはじめ、事業を通じて個人と企業に新しい関係性が生まれる機会を提供しています。2016年から取り組んでいる研修サービス「他社留学」も、そのひとつ。
企業研修の一環で社員に他社で働く機会を提供しています。たとえば、留学する社員が社外の人脈やノウハウなどを持ち帰ることは、導入企業のメリットに。また、社員にとっては実力を知る機会になり、受入先にとっても必要な人材の力を一時的に借りる手段となっているのです。
当社は、人材業界で長く挑戦する中で、時代の流れをつぶさに感じてきました。
年々、副業や兼業への注目が高まり、個人は勤務先以外でも活躍の場を求めています。一方で、企業は社外で活躍した社員が辞めてしまわないか、不安を抱えてしまうこともあるのです。また、情報管理の観点を含め、副業を承認しにくい状況の企業は少なくありません。
個人にとっては、就職後に希望職種へ就けないことや、周囲との関係性に苦しみ実力を発揮しづらいこともあります。その上、必要な人材の獲得に苦しむ企業も増えてきました。個人と企業が抱える不安や悩みも多様になっています。
それらを解決するのが他社留学です。この研修サービスは、「新しい、仕事文化をつくる」ことにまい進する、エッセンス代表取締役の米田 瑛紀が発案して事業化を踏み出しました。
しかし、決して順風満帆なスタートを切れたわけではありませんでした。
労災や労働法への懸念。事業化への課題解決に光を射した顧客の存在
知見を網羅して浮かび上がった新たな一手。日ごろのヒアリングを通じて、現場のニーズを熟知していた米田の発案で、他社留学は走り出します。
ビジョン、ミッションに共感してエッセンスで働く社員はみんな、新しい動きに興味津々。このプロジェクトも、注目を集める中、米田は最初の方針を固めます。
米田 「最初から誰もが知っている企業に導入してもらうしかない。企業間取引で新サービスを提供する際に、歴史を持つ大企業の導入事例をリリースすることは何よりもインパクトを持つと思いましたね」
企業リストをつくり、提案を繰り返す日々。
一筋の光を射したのは、導入実績のない中、1社目の導入企業になってくれた東京電力ホールディングス(以下、東京電力)の存在でした。人事担当者との縁で、他社留学に魅力を感じてもらい、共同開発に踏み出すことができたのです。
実際に東京電力で他社留学の導入を進めていくと、解決すべき課題がより明確に見えてきました。
たとえば、労災の観点から他社で社員が事故に遭った場合の対応方法について。あるいは東京電力から給与をもらう社員が他社に勤務した場合の労働法違反リスクについて。
契約する際に詰めた内容は、他社留学の礎を築く貴重な学びになりました。東京電力との共同開発は、後に、この研修サービスが初めてメディアに取り上げられる好機を生むことになります。
他社留学が事業基盤を固めていく過程を全社員が注目していました。
他社留学事業部マネージャーの赤嶺 秀美も、そのひとり。「新しい、仕事文化をつくる」というミッションの近道になるサービスだと期待して、他社留学の開発及び営業推進担当者に手を挙げる社員です。
社内の注目、普及の目処。プレッシャーに耐える期間を報ったスポットライト
新規事業には生みの苦しみが待つ。赤嶺が直面したプレッシャーはとても大きいものでした。
東京電力との共同開発に日の目を見たとはいえ、黒字化にはほど遠い現状……。エッセンスの他事業が残す利益を、予算に費やすことから早く抜け出したい。
はやる気持ちと裏腹に、赤嶺は苦戦を強いられます。そんな彼女に手を差し伸べたのは、起案者の米田でした。
赤嶺 「他社留学に取り組みやすくする体制を整えてくれたんです。新規事業に特化した組織づくりをしてくれたり、そのチームに外部のプロフェッショナルを加えてもらえたり。本来なら会社の利益は社員の給与に還元したいところを、他社留学に注いでくれていたことにも感謝していますね」
米田 「他の社員から新しい挑戦をうらやむ声がある中、赤嶺や他の他社留学メンバーはよく頑張ってくれていました。 1年が過ぎ、経営的に撤退が迫られているであろうことも視野で感じながら、それでも私が期待する他社留学の可能性を実現することに動いてくれたんです」
導入企業にとっても未経験の研修制度。1社、また1社と導入企業を増やしていけたのは、赤嶺をはじめとする他社留学チームの賜物です。多様な業種や職種、役職、年齢、性別がある中で、一つひとつの企業に見合った他社留学を提供することに力を注ぎ続けました。
この導入企業ごとにカスタムメイドするサービス展開は、魅力のひとつになり、2019年時点もサービス価値を高めています。そして、他社留学チームの献身的な取り組みは、新たに日の目を見る機会を生むことにもなりました。NHK「クローズアップ現代」に取り上げられたのです。
もとは他社留学を紹介するにとどまるはずでしたが、番組では、司会のアナウンサーが実際に他社留学を体験することになりました。
1社ずつ、そしてひとりずつ、他社留学が築く「新しい、仕事文化をつくる」取り組みへの共感が増えてつながった、この機会。それが、他社留学の普及を加速する契機になりました。
企業と個人の関係にワクワクできる未来へ向かって。他社留学の広げる可能性
「クローズアップ現代」の放送を境に、他社留学への注目は高まりました。
2019年、他社留学の導入を検討し、エッセンスへ問い合わせを寄せる企業は前年比の2倍を数えます。導入企業内にも変化は生まれ、他社留学を5名枠で募集すると50名が応募する倍率にもなりました。
営業としての数字も研修サービスの質を高めていける段階に入っています。それは、エッセンスが果たす社会への役割を高めることにもつながっています。
赤嶺 「以前と異なり、副業や兼業をする機会の必要性に賛同してくれる企業が増えました。社員がスキルを高める機会づくりが、企業に優秀な人材を残す結果につながるということを話しやすくなってきていると感じます」
米田 「たとえば、要員計画を立てる際、採用という選択肢だけだった企業に、他の選択肢を提案するという機会が増えています。他社留学だけでなく、プロパートナーズによってプロフェッショナル人材の導入を選ぶ企業も増えました」
他社留学という新規事業が、エッセンスの他事業にも好影響を生む。それは、「新しい、仕事文化をつくる」ことを加速させ、「企業と個人の新しい関係性を実現する」未来に近づいている証です。
米田 「経営計画や経営戦略と連動するのが人事です。担当者と話し、その担当者が進んで社内に提案してくれる。そして、人材の流動化に安心して踏み出せることを理解し、検討する企業が増えています」
結果、他社留学をはじめとした企業と個人のための新しい労働環境が広まっていく。そう遠くない未来に、働くことをワクワク感じられる関係性がきっと築かれていくことでしょう。
10年前、「副業」という言葉が耳慣れないころから新しい働き方への挑戦を続けてきた私たちも、感慨深い気持ちです。
エッセンスは、これからも「新しい、仕事文化をつくる」というミッションのもと、次の未来へと進んでいきます。それが、会社に依存せず、自信を持って元気良く働く個人と、その活躍を用する企業に溢れた社会への道のりだと信じて……。