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これからの日本をつくる"働き方"のストーリー

シニア活躍が会社全体の活性化に──生きがいを言語化し、自ら役割をつくれる人材開発

株式会社ライフワークス
勤続年数や年齢に応じた評価から、成果や組織の貢献に対する評価へと舵が切られています。しかし、長年会社に貢献してきたシニア層のモチベーションを削いでしまう可能性も。そんな危機感から生まれた、ライフワークス、日清食品による50代以降のキャリア開発「役割創造(※)」の取り組みをご紹介します。

「せっかくなら、生きがいを持って働いてほしい」シニア層への想いに共鳴

▲日清食品人事部、大西 剣之介氏(左)とライフワークス営業課、佐々木 淳(右)

50代以上のシニア層の割合が増えてくると、これまで年功序列を基本としてきた大企業では人件費が大きく上昇。そのため、役職定年を設けたり、定年近くの社員に対し、少しずつ給与を減額したりする企業もあります。

その一方で、50代人材が活躍できるような職場となれば、企業としても、本人のキャリアにとっても、良い循環を生むことができるのではないでしょうか。

株式会社ライフワークスは、設立以降19年間、大企業で働くミドル・シニアを対象に、キャリア研修を通して活躍を支援してきました。自分の強みを知り、役割を自らつくり出すことが、シニアにとって今後充実した人生を送るカギとなることを「役割創造」として定義し、推進しています。

また、日清食品株式会社では、50代シニア層の働き方に課題を感じていました。同社では、「管理職への昇格・登用」や「社内公募制度」に年齢制限を設けていましたが、人事部の大西 剣之介氏は、若手活躍はもちろんですが、シニア層にももっと活躍してほしいと考えていました。

大西 「意欲があり優秀な若手に活躍してもらおうという意図で、数年前から年齢によらない昇格や昇給を取り入れています。その結果、 30代前半などで営業所長を務めるメンバーも出ていますし、それ自体は良い試みだと思っています。
ですが、非管理職で 52歳以上になると給与が減ってしまう制度があり、昇格も見込めません。それによるシニア層のモチベーションの低下を感じていたんです。
そのまま会社に決められたレールに乗っていくだけになるのはもったいない。そう考えて、あらためて自分の生きがいなどを考えてもらう機会を設けたいなと思い、ライフワークスさんにご相談をしました」

ライフワークス営業課の佐々木 淳は、大西氏と面談し、現状の課題感を把握。シニア層が感じる「停滞感」がパフォーマンスの低下につながっているのではないかと考えます。

佐々木 「『この先、なんとなく 65歳まで働き続けることになってしまうとしたら、会社にとってもご本人にとっても良くない』と、大西さんはおっしゃいました。
そして、『せっかく働くのだから、生きがいを持って働いてほしい』という想いが、当社の考えに非常に近いなと共感しましたね。そこでわれわれのコンセプト『役割創造』を生かして支援できることがあると考え、ご提案させていただきました」

こうして、ライフワークスと日清食品の、シニア層活躍に向けた共働が始まりました。

社内公募の年齢制限撤廃 × 本来の自分の価値観に立ち返る研修

▲実際の研修の様子

取り組みとして行ったことは大きくふたつ。ひとつは、日清食品の社内制度改革です。

今回、日清食品では、従来は49歳までしか応募できなかった「社内公募制度」の年齢制限を撤廃しました。50代の社員でも、新たに管理職に手を挙げられるようになったのです。

ふたつ目は、手を挙げるチャンスを自分事として捉え、考える時間をライフワークスのキャリア研修という形で設けることでした。その第一回目として、52歳以上の非管理職に限定してキャリア研修を実施しました。

会社という枠組みに入ると、多くの人は、その中で求められているものを発揮しようとして、本来の自分の価値観や欲求が隠れてしまいがちです。とくに50代社員が若かった時代には、会社の決定に従って懸命に働くスタイルが世の中の主流でした。

そうした時代を経てこられた今の50代社員が、自ら管理職に手を挙げる制度を活用し、さらなる活躍につなげてもらうためには、その制度実施の前にあらためて自分と向き合う時間が必要でした。そのための今回のキャリア研修では、自分が本当は何をしていきたいのかを考え、新たなスタートラインに立ってもらうことを目的として実施しました。

佐々木 「キャリア研修では、さまざまなワークを通して、自分の役割をどこで発揮するのか、自分と向き合いながら考えていきます。まずは、自分のキャリア資産といわれるものを把握していただくんです。たとえば、自分の価値観、動機、強みなどを、仕事人生だけではなく、幼少期まで立ち戻り、どんな人に憧れていたか、どんな人が周りにいたのか。徹底的に内省いただきます」

この研修は、52歳以上の社員を対象として希望する人が参加する形で実施しました。大西氏と佐々木は、その中でも「自燃(じねん)型」と「可燃型」の社員を研修のターゲットとして見据えていたのです。

大西 「これは 50代に限ったことではありませんが、本人として何をやりたいのかをきちんと語れる方を『自燃型』、『自燃型』の人の行動などを見て、自分も頑張らなきゃと思える方々を『可燃型』と考えています。もちろん、自分は別に関係ないや、という『不燃型』の人もいらっしゃいます」
佐々木 「自分がどんな人間で、何ができて、何にやりがいを感じるかわかっている人は自燃型のことが多いです。一方で可燃型の人は、それがわかれば頑張れる人。
この研修では、まずは自燃型の方が新しい一歩を踏み出すことを狙いました。なぜなら、そうすることで、可燃型の人も動き出す可能性があるからです。
丸 2日間の研修で自分の価値観や強みを洗い出すことで、社内業務でも社外活動においても、どんな役割を担えるのか自分で考え、さらに周りからのフィードバックを受ける機会を経ることによって、可能性の幅をどんどん広げていけます。
最終的には、キャリアコンセプト(今後の人生におけるありたい姿)をひとつの言葉にし、具体的な役割に落とし込んで、生きていく指針とするような研修です」

そして、初回のキャリア研修を受講した社員28名のうち、5名が公募制度に応募し、2名が合格。2019年4月から、新ポストで活躍し始めています。

シニア層が変われば、若手や中堅に波及し、会社全体に好循環が生まれる

▲2019年4月から異動した、日清食品 営業本部東京営業部 業務課係長 阿部 悟さん

シニア層の活躍に力を入れるというと、若手活躍促進の視点と食い違うもののように感じるかもしれません。しかし、日清食品の場合は、「年齢に関係なく、ふさわしい社員を登用する」という意味で、若手も中堅もベテランも、フラットな土俵に立たせたということです。

ですが、それでも、これまでの時代背景や価値観の違いから、シニア層のキャリア観やモチベーションを変えていく難しさも感じています。

佐々木 「背景はふたつほどあります。
ひとつは、日本の大企業によくある、昇進や役職の年齢制限、 60歳で自動的に再雇用になるなど、ネガティブな捉え方をされがちなキャリア転換が発生することです。そうなると多くの方は、『自分のキャリアは一区切りついちゃったな』といった感覚を持たれます。
ふたつ目の背景には、この世代の特徴があります。バブル期に入社して、『会社の命令に忠実に従っていれば、ある程度の雇用と給料がもらえる』という時代の中で生きてこられている。だから、『自分自身でキャリアオーナーシップを持って、キャリアを開発していかなければ』というような危機感は、これまではなかなか持ち得なかったと思います」

このように世代としての傾向を分析した上で、佐々木は、シニア層を動機づけしていくことの意味があると考えています。

佐々木 「これから多くの大企業で、 50代がボリュームゾーンになっていきます。その方々が意識変革をして、自分たちで自らの役割を考え、実行していくようになると、会社としては非常に大きなメリットになります。
彼らには長年の経験値もありますから。
そして、若手や中堅の社員は、そういう年齢が上の方々の働き方をすごく見ています。ある意味、自分の将来像なので。その意味で、シニア層が変われば若手をはじめ、会社全体に好循環が生まれるのではないでしょうか」
大西 「研修を受けて変わることはやっぱり難しいんです。ですが、今回は結果的に公募に 2名が受かって、新部署で『変わった』という声も聞いています。実際に研修後に社員本人から『自分も頑張ろうと感じた』などと声をかけてもらったのは嬉しかったですね。
当初は社内でも、シニア層に時間とコストをかけることへの懐疑的な声もあったのですが、実施後はポジティブな反応が多かったのは収穫でした」

研修と社内改革との連動が相乗効果を生み、メディア掲載につながるほどに

大西氏は、現在の課題感として、50代のより多くの社員に生き生きと働いてもらう制度や環境をつくるということを挙げます。

大西 「欲を言えば、 50代全員に生き生きと働いてもらいたいです。若手も中堅もそれは同じですね。ただ、それはハードルが高すぎるので、少しでも多くの社員にどうすれば生き生きと働いてもらえるかは課題感としてあります」
佐々木 「大西さんのおっしゃる通り、研修だけで物事が変わることはないと思います。本気で気持ちを変えて、役割を継続して発揮し続けられるためには、たとえば制度の見直しなど、研修にひもづけた前後施策による役割発揮するための環境づくりが重要です」

そして、日清食品では今まさに、キャリア研修との相乗効果を最大化するための人事制度の改革を行っています。

大西 「年齢に関わらず、発揮した能力をしっかり評価できるように、人事制度を大きく変えようとしています。経営サイドとしては、企業価値向上につながる成果・行動をする社員により多くのお金を払いたいし、より多くの機会を得ていただきたい。一方で、なかなか成果につながる行動が起こせない社員にどうやって能力発揮してもらうか、なども考えていかなければなりません」
佐々木 「日清食品さんは本当に共働しやすかったんです。その理由は、シニア層に対する考えがフィットしたこと。つまり、キャリアのオーナーシップは個人にあって、所属している組織でどう活躍するかを、それぞれが考えられるようになってほしいということ。その想いが一致したことが、スムーズに進んだ要因だと思います」

ライフワークスと日清食品のこの取り組みは、メディア取材などにもつながっており、シニアが活躍するひとつの好事例になりました。また、日清食品社内でも、実際に管理職に昇格したシニア層の姿に、若手や中堅、そして同期たちが感化されていい影響を与えています。

今後も日清食品との取り組みは継続し、さらに質の高いものにすると同時に、初回では試験的に営業部門のみにしていた対象者を、他部門にも展開予定です。

そしてライフワークスは、「いくつになっても活躍し続けるためのヒント」を、事例として社会に発信していきます。

(※)役割創造はライフワークスの登録商標です。

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