「幸せな町」女川プロジェクトーー社員や社会に還元するはじまりの物語
女川町で出会った、会社のビジョンとの親和性
gCストーリーでは、社員が幸せに働きながらも、社会に貢献するために成長ができる環境づくりを常に模索しています。組織そのものを全社員の主体的な判断を促進する運営方法に切り替えたのも、そのための一つの取り組み。社内では新しい運営方法に適応するための変化が起こり、新しい課題とも直面する日々が続きました。
ちょうどそのころ、代表の西坂勇人はある町との出会いについて社員に興奮して伝えるようになります。それが、宮城県女川町。
西坂に連れられるかたちで女川町にはじめて足を踏み入れた執行役員の安部孝之は、実際にそこで時を過ごしたことによって、西坂の伝えようとしていたことを漠然と理解しました。
安部 「西坂の興奮を受けて女川町で役員合宿をやることになって。何故か町役場の皆さんと顔合わせしました。そのまま夕飯を一緒に食べましたね。1日を経て、女川町はgCストーリーと“何か”が似ているのだと、気がつきました。親和性を感じたんです」
宮城県の小さな町と、東京の企業。
2つの全く違った組織が、“何か”によって親和性を感じた。その“何か”とはいったい何なのか?その疑問を胸に、社長秘書の甘利友紀も女川町を訪れます。
甘利 「女川町の第一印象は、“衝撃”です。当時、私たちの会社では新しい働き方を模索しはじめたばかりで、社内の動きやお互いの役割は混乱している状態でした。そんな中、女川町で感じたものは『まさにこれだ!』という感覚です」
gCストーリーがより良い働き方を目指してつくろうとしている、組織の在り方や働き方のヒントが、女川町にあった。それは、当時葛藤していた甘利に新しい物語をもたらします。
甘利 「女川町にはエネルギーがあった。一緒にいるだけで、やる気が溢れてきました」
甘利は以降、女川町のNPOが企画する「お試し移住プログラム」を利用して長期滞在を始めます。それは、女川町とgCストーリーの物語のはじまりでもありました。
女川町に滞在して作り上げたプログラム
甘利は女川町のコワーキングスペースで働きながら、住民とコミュニケーションを重ねていきます。その生活には受け継がれてきた女川町の歴史や文化があり、それを守る人々の想いがありました。滞在期間の中で甘利は第一印象で語った“衝撃”が何なのかの答え合わせをしていきます。
甘利 「外に出れば誰かと会える。そんなコンパクトな町ですから、話し合いもスムーズで、自然と連携が取れていく環境でした」全体意識ーーそれが、女川町を支え、育てている根幹にあるものでした。
利益を重視するのではなく、お互いの幸福を尊重した意思決定が、各人の連携を通じて行われている。gCストーリーが目指す組織の在り方は、まさに女川町の中で完成されており、システムとして活きていることに甘利は気付きます。
甘利 「どうしたらこの女川町の魅力を、まだこの町を知らない人たちに伝えられるだろうと、真剣に考えました。責任を持って女川町と連携していきたいと思ったんです」甘利は女川町が持つエネルギーやコミュニティを体感する機会をつくるべく、ゲストを招致するプログラム制作をはじめます。
女川町の人々はメディアに町のことを発信する機会もあったことから、発信方法や協力体制の地盤が整っており、gCストーリーが何をしたいのかを理解した上でプログラムづくりに協力してくれました。
甘利 「プログラムでは女川町がどういう設計の町なのか、そこに住まう人々はどんな想いで生きているのかに触れられる内容を作ろうと意識しました。『町の全体意識』について伝えるというテーマは、意外と難しかったです」2018年7月に行われた「第1回RETREAT Program @女川」では、経営者をターゲットにプログラムを実施。女川町長の講演をはじめ、町内散策や懇親会など女川町の魅力を体で感じる時間も設けました。プログラム参加者からは好評が寄せられ、「他の人に教えたい」とアンケートで答えた人が約9割という結果に。続けて社員向けのプログラムも実施し、外部の女川町の魅力を発信することの意義や方法を確立することができました。
甘利 「約6,500人が住む町で自然な全体意識を作ることができるという事例は、言葉で説明してもなかなか伝わりません。
実際に足を運んでいただいた方には、大きな反響をいただいています。今後もプログラムを継続していき、女川町との連携を通じて良い影響をお互いもたらしていくことが、今の私にできることです」
拠点を増やすことで変化する働き方、そして自分自身
gCストーリーは、こうしたプログラムの継続的な実施を現実的なものにするために、女川町にサテライトオフィスを設立しました。
この物語がはじまる足掛かりとなった女川町との出会いは、大きな組織改革を機に社員たちみずからが判断できる場をつくれるよう、代表の西坂が会社から距離を置くために東北への旅に出たことがきっかけです。
こうした偶然の出会いは、一人ひとりの人生や判断に大きな変化をもたらします。会社と違った人々が生き、エネルギーに満ち溢れる女川町にサテライトオフィスが生まれることで、gCストーリーの社員の働き方やライフスタイルの選択肢が今後増えていくでしょう。
ふるさとだと思える場所が増えること。その大切さを印象付けるエピソードは、女川町で一番嬉しかった体験と紐づいて残っていました。
甘利 「少し個人的な話にはなりますが、私の生まれ育った場所は居心地の良い、お互いのつながりが強い地域でした。ふるさとはひとつ、いつか帰るのはここしかないと思っていました。けれど、女川町は1ヶ月住んでみて同じようなあたたかさを感じられたんです」
甘利 「私が東京に帰る時、町の皆さんが駅まで見送りに来てくれたんです。そして、次に女川町に戻ったときには『おかえり』と言ってくれました。それがとても嬉しかったんです」gCストーリーの取り組みを通じてできた、女川町との絆は社員の心にひとつのふるさとを生み出すことにもつながっていました。また、甘利は女川町との出会いを自分自身と向き合う契機としてもとらえています。
甘利 「私はみずから選択して女川町に来ています。指示されたから動いたのではなく、自らの意志で何かを生み出していった。その経験は、女川町の全体意識やエネルギーによって支えられ、確実に人生の糧として積み重なっています。
その中で、『おまえがやりたいなら、協力するよ』と女川町の皆さんが応援してくださっているんです。だから、常に自分が何者であるのか、何をしたいのかを女川町の生活を通じて問われている気がします」
女川町が教えてくれた「幸せ」と、これから
女川町とgCストーリーの連携はまだはじまったばかり。
社内のメンバーや他社の経営者を巻き込むイベントについても、改善を加えながら繰り返し実践していくことが大切です。さらに、長期的に女川町と関係性を構築していきたいと考えている甘利は、今後の展望について考えていました。
甘利 「女川町の活動人口をいかに増やすかが、ひとつの課題ですね。女川町と短期的に関わるだけでなく、移住も含めて継続的に女川町に効果をもたらしていく人を今後増やしていけたらいいな、と」地域活性化を目指して都心からの集客をもたらすイベントを実施する事例は決して珍しいものではありません。しかし、その地域を守っていくための人口のひとりとして、継続的に関わっていくことは、企業や組織の理解と支援がなくては難しいものでしょう。
女川町へ良い影響をもたらしたいと考えている甘利は、町内の祭りを盛り上げたりラジオ出演を依頼されたりと、女川町の一員としての活動も広く行っています。責任感と意志を持って生活し、行動してきたからこそ、女川町の人々との間にお互いの幸せを想う関係性が育っているのです。
こうしたgCストーリーの女川町に対する連携の姿勢と、ひとりの社員である甘利がもたらした関係性構築には、一貫した想いがありました。
甘利 「幸せって、だれかを想う範囲が広がっていくことだと思うんです。自分だけのことを考えているうちは苦しみが多くて、それが家族、友人、会社の人、もっと広い誰かへと広がっていくと、幸せになっていきます。ひとつの町との出会いが企業にもたらした変化は、まだ小さな種かもしれません。
女川町はそういう大切なことを生活の中から教えてくれる場所で、gCストーリーもそういう幸せを広げていきたいと思っているところが共通しているんだと思います」
言語化すると難しい、心が感じるその変化は、想い続けながら広げようと行動する人が一人ずつ増えていくことで広がっていくことでしょう。