私たちの"指針"。社内報『COMPASS』がつないだ社員の絆
立地・職種・言語・世代のギャップが生んだ、負のスパイラル
この海を環境破壊で失いたくない。次世代の子どもたちに残すことはできないか。
自然電力グループ(以下、自然電力)は、その思いを抱いた3人が2011年6月に創業しました。創業者を含む、自然電力で「クルー」と呼ばれるすべてのスタッフが、目的意識やそれぞれの思いを持って参画しています。
その思いと価値観を共有することで事業を成長させてきた自然電力。バブル期に建設・土木業界を支えた中高年の「マスター」をはじめ、国籍を問わずプロフェッショナルなクルーが結集し、各地に発電所を開発していきました。
小規模事業者だった自然電力は、次第に中規模事業者へと成長。結果、クルー間のコミュニケーションに不具合が生じる状況が生まれてしまいました。
その要因のひとつは“立地の差異”。発電所は原則、地方に築くため、現場で任務にあたるクルーは、プロジェクトチームを組むクルー以外と顔を合わせる機会が少なくなります。
また“職種の差異”による課題も浮上。建設予定地の調査・確保から建設・運用まで多様な職種のクルーが関係しているため、同じプロジェクトを担当していても、顔を合わせる機会がほとんどない状況になることもあります。
そのほか、中途採用により国籍や世代を問わずにプロフェッショナルを迎え入れたことから、異なるバックグラウンドのクルーが混在する状況にも見舞われました。
結果、複数の職種・部署間でプロジェクトを進める際の情報共有にむらができ、コミュニケーションが円滑に進まないという事態が生じました。
発電所の建設には、たくさんの関係者との調整に加えて、不動産や土木、電気にまつわる法律など、さまざまな情報に配慮する必要があります。その情報を網羅するために欠かせない“密なコミュニケーション”がうまく取れなくなっていきました。
一体どのようにすれば、バックグラウンドの異なるクルー同士が良好な関係で働いていけるのかーーそう考えた結果、思いや価値観をベースにしたコミュニケーションを成長後の自然電力の姿に合わせて再構築することにしたのです。
ストーリーや目的意識をオープンに。孤立感を払拭するための社内報
その再構築の手段となったのが、“社内報”でした。
ここで、社内報を選んだ理由や背景を、もう少し詳しくお伝えしましょう。
自然電力では、発電所の建設現場を「サイト」と呼んでいます。建設担当者は、ひとつの発電所を建てるのに1〜2年間はサイトで働かなければなりません。近隣にアパートを借りて、赴任する場合もあります。
そのような環境のなか、インターネットが不慣れなことも相まって孤立感を抱いてしまうマスターもいました。
なかには、技術だけでなく、これまでの経験を自然電力という若い会社やクルーに伝えたいと入社したマスターも少なくありません。社内報を立ち上げたのは、そんなマスターの目的意識やストーリーを共有していくためでもありました。
この社内報はただの情報共有を目的にしていたわけではありません。情報共有自体は、各サイトで行なわれている月1回のミーティングでも可能です。
社内報は、現場で起きていることをオフィスに、オフィスで起きていることを現場に“浸透”させ、個を浮かび上がらせていくことが目的。
結果として、中規模事業者に成長した自然電力のクルー同士が、その人柄と興味関心や考えを知り、人間的なコミュニケーションを豊かにしていくというゴールを目指すことにしたのです。
人となりを知ることは、自然電力が創業時から大切にしていたクルー同士の接点をつくるキーポイント。人間としての魅力が通じ合うことで、信頼感を醸成し直し、プロジェクトを円滑に進めやすくします。
そのための場として社内報『COMPASS』の創刊が決まりました。
COMPASSという名前には、自然電力の指針を示すという思いが込められています。そんな『COMPASS』は、A3用紙1枚からスタートし、少しずつ姿を変えていきました。
紙からWebへ、そしてBOOKも。クルーが主体的に参加する社内報へ成長
2018年11月時点の『COMPASS』は、Webを通じてさまざまな記事をクルー同士が共有しています。
たとえば「Chotto My Team」では各クルーが部署の日常を紹介し、「Happy News!」では結婚や出産といったクルーのハッピーなお知らせをランダムに公開。記事はすべて英語・日本語それぞれに翻訳されて公開されます。
このようにバックグラウンドの異なるクルーが主体的に参加する社内報になったのは、『COMPASS』創刊から5年間、PR部が改良を重ねていった成果です。
2013年の創刊時、『COMPASS』はA3用紙に両面刷りしたものでした。各サイトに配布する、インターネットに親しみがないクルーの目にも留まる社内報としてスタートします。
しかし発行を重ねていくなか、全クルーが目にできないのでは?という疑問が浮かびました。
たとえばクルーのなかには、発電所の建設地となる土地を開発するクルーもいます。彼らは、まだサイトの立ち上がっていない土地から土地へ絶えず出張を重ねているため、紙の社内報を目にする機会が少なかったのです。
そこで、2015年に紙からWebへと掲載先を変更することに決めました。
その際、インターネットが苦手なクルー向けにWebの使い方講習会を開いたうえ、Webサイトのデザインも、文字サイズなどの細部にまでこだわって使い方に迷わない仕様にしました。
結果、世代や勤務場所を問わず、誰でも利用できるWeb社内報として『COMPASS』は生まれ変わります。
こうして全員が閲覧できる状態になったものの、PR部には別の疑問が浮かびました。それは、情報共有が一方通行になってしまっているのでは?というWeb化を果たしたからこそ浮かぶ、社内報の根幹に関わる課題でした。
『COMPASS』は人となりを共有して、信頼感を醸成する場を目指した社内報です。そのために、クルーの些細な日常も共有されていく相互間のやりとりが行なわれるようにしていきたいと考えました。そこで、さまざまな機能を追加していきます。
それがコメントやイイネボタンの実装、記事の読了数を見える化するといったバージョンアップです。これにより、クルー自身の投稿意欲を高めていきました。
結果、クルーが記事を投稿すると、約180名のクルーのうち1記事当たり60〜80名が閲覧するほどになり、主体的な参加が促進されました。
また、PR部は「社員紹介」や「突撃レポート」というコーナーを設けて、クルー個人やサイトを深掘りした情報をインタビュー記事で共有することも開始。クルー主体の投稿では得られにくい、人となりの底にある目的意識やストーリーの伝達も実現しました。
それらのインタビュー記事は、半年に1度、『COMPASS Book』に製本して、クルーの家族やサイトの地域関係者にも配布しています。それは、人となりを通じて醸成する信頼関係の構築を、社外にも広げていく試みです。
人となりをベースにした信頼関係で、自然エネルギーを世界に広げていく
2018年現在、自然電力は、juwi自然電力やjuwi自然電力オペレーション、自然電力ファームといったグループ会社の23カ国から集まった180名のクルーとともに、約800メガワットの自然エネルギー発電事業に携わっています。
また、「日本語スピーカーでないクルーがミーティングに参加する場合は英語を使用する」などの配慮が自然に行なえるコミュニケーション環境が醸成されていきました。
それは、数々の施策と合わせて『COMPASS』がクルー間の信頼関係を再構築できた結果でもあります。
『COMPASS』の創刊前に悩まされたコミュニケーションの不足は払拭され、より風通しの良い職場へと変化を続けています。
月平均500セッション、5000ページビューを保つ『COMPASS』へのクルーの反響も、認知度100%、満足度80%以上を計測しています。
PR部の竹田千裕は、クルーから寄せられる『COMPASS』への要望の変化をこう話します。
竹田 「最近は、経営者が考えている事業の方向性を知りたいという声が届きはじめました。隣の部署やサイトで働いている人の顔がわかる、というフェーズの次に来ていると感じます」
同じくPR部の杉山ちひろは、『COMPASS』に対する社内の接し方に“ある変化”を見いだしました。
杉山 「『これはコンパスに投稿しよう!』というフレーズをよく耳にするようになりました。
クルー同士の洋服がかぶってしまったというような些細なことも、写真を撮影して投稿してくれる人が増えています。このような小さな共通の話題が、コミュニケーションのきっかけにつながります」
また、『COMPASS Book』は、2017年末で約800部を配布。ベンチャー中規模企業の自然電力に勤務するクルーの家族が感じやすい不安感や、サイトの地域関係者が抱きやすい電力事業者という業態にまつわるネガティブなイメージを和らげるといった成果も残してきました。
杉山 「ご家族や、地権者のみなさんには、クルーの目的意識やストーリーに共感していただける場合が非常に多いです。人となりを伝えるツールとして、『COMPASS』を発行し続けられていて、本当によかったです」
結果、各プロジェクトの関係者は、人となりをベースにした信頼関係によって、以前にも増してプロフェッショナルな仕事を納めていけるようになっています。
自然電力グループは、今後、事業を世界中に羽ばたかせていきたいと考えています。
各国にはまだまだ電力が不安定な地域が少なくありません。そんな地域に、太陽、風、水といった自然エネルギーで電力を供給し、豊かで健やかな暮らしを届けることは自然電力グループの使命です。
人となりを大切にした信頼関係のうえで、国籍や年齢の壁を越え、「エネルギーから世界を変える。」というビジョンのもと、これからも自然エネルギーを広めていきます。