"家族感"でつながるグローバル企業を増やす。森興産流「働き方開国のすゝめ」
視野に入れているのは、企業や都道府県の枠を越えた全国的な支援
森興産は、外国籍の人財を採用することで日本人の価値観を変え、働き方と働く場を変えていこうと、YOSHUグループ内における自社事業として外国人留学生の就職を支援してきました。
(留学生支援事業のこれまで)
2014年には、インターンシップ生として受け入れた中国とタイからの留学生を正社員として採用し、その後、社内での外国人採用を拡大。
自社での経験と実績をもとに、日本での外国人留学生の就職を支援するため、インターンシップのサポートや、自己分析を指導するセミナー、企業説明会といったイベントの開催などをしています。
2018年からはJET(語学指導等を行なう外国青年招致事業)のプログラム生やインターナショナルスクールの高校生、海外からのインターンシップ生の受け入れもはじめました。
イベントやセミナーといった目に見える支援を行なうことで、多方面から関心を寄せられていると、代表取締役の森隼人は語ります。
森 「採用する側の企業だけでなく、留学生を送り出す立場である専門学校などの教育機関、企業と留学生のマッチングの場づくりを担う行政など、各地からセミナー講師やイベント運営のご依頼をいただいています。
『外国人を採用するにはどうすればいいのか』といった初歩的な質問から、『外国人を雇用することで、会社にはどのような変化が起こるのか』といった具体的な質問も寄せられるようになりました。
政府の積極的な政策もあり、留学生を雇用することへの関心の高まりを感じています」
一方で実際の雇用事例は、企業や都道府県の枠を越えて共有されることがまだ少ないのが現状です。
地方では留学生の数も少なく、行政機関の担当者には、「サポートしたいが、どうすればいいのかわからない」といった戸惑いの声が。
また民間、言葉や文化の違いから、これまで受け入れたことのない外国籍人財の採用に、大きな不安を抱えている企業も少なくありません。
大阪を拠点とし、西日本を中心に活動を広げてきた森興産は、全国規模での支援事業が急務であると感じています。
希望や想いを日本語にする。磨くのは、留学生の自己表現力
2018年現在、森興産では、留学生の就職支援として、インターンシップの支援・企業説明会・留学生の生活や就職活動の支援を目的としたWebサイトの運営などをしています。
なかでも正式採用に向けた大きなチャンスとなるインターンシップでは、留学生の精神的なサポートも含め、多面的から支援を行なっています。
森 「留学生が日本に対して抱いているイメージは、製品の質がよい、サービスやおもてなしが充実しているということ。
しかし、自分が日本の企業に就職し、それを提供する側に立つことには、ときに恐怖と言っていいくらいの不安を感じています。
時間を守ることや厳しい品質管理基準を受け入れ、やっていく自信が持てない学生が多いんです」
また事例が増えるにつれ、留学生の多くが母国では非常に優秀な人財であることも、日本での就職のハードルになっていることがわかってきました。
これまであまり大きな失敗をしてこなかった留学生は、新しい挑戦ばかりになる日本での就職を避ける傾向にあります。言葉への不安も大きく、日本語での電話対応や訪問営業は、多くの留学生が敬遠します。
企業側もまた、社内での意思疎通や、これまで日本人が担当してきた業務を、外国籍の人財に任せることに不安を感じていました。
そこでお互いの不安を解消するため、留学生を対象としたセミナーでは、自己分析や人生チャートの作成を指導し、自分自身の想いや能力を日本語で表現する力の育成に注力しています。
森 「日本はいまだに終身雇用制度の影響が大きく、10年後や 20年後の自分をイメージしやすい環境です。
しかし、海外は違います。たとえば中国。 2008年と 2018年を比較すると、経済も大きく成長しています。ベトナムであれば成長スピードはもっとはやい。
こうした変化の激しい国で生活してきた留学生に、『未来を描け』というのはとても難しい注文です。
けれど日本の企業に就職して日本のサービスを売っていくためには、そのサービスがお客さまの未来をどう変えるのかを日本語で説明する必要があります。
そのためにはまず、日本語で自分のビジョンを説明できなければならないと留学生には伝えています」
セミナーでは強い言葉で達成すべき目標を示しながらも、まずは慣れ親しんだ母国語で、自分の考えを言葉にする指導からスタートします。
企業における“高度人材”採用の意義
森興産ではさまざまな支援活動のなかで、日本企業における外国人採用のハードルは、日本人の持つ固定概念であることを感じてきました。
近年、幅広い業界の人手不足を補うため、外国人労働者の雇用に注目が集まっています。しかしその多くは、複雑なコミュニケーションを必要としない単純な労働力を期待されています。
「高い知識や技術を持つ留学生の採用は、会社の成長につながる大きな可能性を秘めている」という認識は、まだ低いのが現状です。
森興産では数々の採用現場で、「日本語が流ちょうであるか」を基準に留学生の能力が判断されるのを目の当たりにするたび、企業側の認識を変えることが重要であることを感じてきました。
森 「留学生の多くは、母国語・英語・日本語の 3カ国語が話せます。日本ではこの 3カ国語を話せる人財に、どれほどの価値があるかが十分に認知されていません。
たとえば日本ではいま以上の需要が期待できない製品でも、海外ではまだまだ売れる可能性がある。
彼らを介せば取引としてはメジャーな英語圏だけでなく、中国やベトナム、タイといった成長中のアジア圏にも販路が拡大できるんです」
また「異なる文化と考え方を持った人財を採用することで、企業のなかに新しい文化を育てる」という企業側の姿勢が、成功のカギを握っていることも明らかになってきました。
森 「人手不足を外国人で補おうという考え方で留学生を採用した会社は、失敗する傾向にあります。自分たちを労働力としてしか見ていない会社に対して、未来を託したいとは思えないですよね。
反対に、日本人だけでなく外国人を採用することで、会社のなかに新しい考えを取り入れていきたい、採用した留学生についても、自分たちの会社でたくさんのことを学んでほしいと考えて育てていく会社では、雇用の形を変えることがあっても、長く信頼関係が築けています」
グローバル化に必要な“家族感”を育てる
外国人留学生の受け入れを促進する「外国人留学生30万人計画」が2008年からはじまり、専門学校や日本語学校の留学生の数は飛躍的に増加しています。
(※出典:日本学生支援機構「平成29年度 外国人留学生在籍状況調査結果」)
しかし、大学の留学生の数には大きな変化はありません。いわゆる“高度人材”は、日本を留学先に選ばない傾向にあると森は語ります。
森 「海外では、外国籍採用は珍しいことではありません。法律も整備されていて、企業の抵抗もほぼない状態です。
しかし日本は広い活躍の場を期待できる英語圏でもなく、制度も整備されていません。
だから高いスキルを持った学生は、アメリカやヨーロッパ諸国を留学先に選びます。そこで就職した方が、将来設計が立てやすいからです」
この事実に直面し、日本で就職することの意義を探すなかで、森興産では企業と留学生とが“家族感”を育くんでいくことを大切にしてきました。
森 「留学生と日本の企業とが、ずっと一緒に仕事をしていけるパートナーであり続けるためには、日本にいるあいだにどれだけ想いを共有し、家族のような感覚を育てられるかが大切だと考えています。
彼らの多くは、いつか母国に帰る人財です。けれど帰国後も家族のように想い合えることができれば、その企業の海外拠点の責任者や、パートナー提携などの未来がひらけます。
彼らと日々の仕事を通して接しているあいだ、日本人が積極的に外国や外国人に対する考えを変えていけば、その後の人生においても、ずっとつながっていくことができます。
そうして切り開いた新しい企業のあり方は、日本人が自由に働き方や働く場所を選べる未来にもつながるはずです」
こうした未来の実現に向けて、私たちは支援の輪を“全国”に広げることを目指しています。留学生を受け入れることの少ない地方にこそ、彼らによってもたらされる変化は必要であると信じているからです。