Be Yourselfを掲げ、キャリア自律をサポートするトレンドマイクロの挑戦
「キャリアの自律」は自社だけにとどまらずに考えてほしい
当社が掲げる「Be Yourself 」は、創業者であるSteve Chang(現、代表取締役会長)の座右の銘でもあります。
1988年に創業し、30年が経った今、勤続年数の長い社員も増えていくなかで、社員一人ひとりのやりたいことやチャレンジは当然変化していきます。
当社では社員の「キャリア自律」を応援したいと考えているものの、社内だけでは彼らの情熱や能力を発揮するには限界があると感じていました。
それを物語るのが入社4〜7年目の若手社員の退職理由でした。新たなチャレンジをしたいという情熱を受け止められる仕組みや制度が足りず、それを求めて他社に転職していることがわかったのです。
人生100年時代が到来するといわれる昨今、ひとつの会社で定年まで勤め上げるというケースは減少しつつあります。
転職はもちろん、大学で学び直したり、海外に留学したりと、キャリアにおける選択肢も多様化しています。
当社が掲げる「キャリア自律」とは、単にトレンドマイクロにおけるキャリアだけでなく、同時並行で築くキャリアや、その先に描くキャリアも含まれます。
もちろん、当社で充実したキャリアを形成していく社員も多くいますが、なかには別の場所でのチャレンジを選択する社員もいるでしょう。
この変化の時代、当社だけでの成長・成功のみを目指してもらうだけで十分なのか。この課題に対し、経営陣・人事部門で議論を重ねてきました。
当社の理念に基づき社員一人ひとりが、より自分らしさ=Be Yourselfを追求できるよう、会社が多様な働き方のできる環境を用意すべきではないか――そうして生まれたのが新たな4つの制度だったのです。
副業で得た知見や知識を本業に還流させるパラレルキャリア制度
当社では、個人のキャリアの幅や選択肢を広げる機会を創出するため、以下の4つの制度を新たに設けることになりました。
1. 社外での活躍を認める――パラレルキャリア(副業許可制度)
2. 社外での経験を生かす――トランスバウンダリー(社外出向制度)
3. 仲間を再び受け入れる――ウェルカムバック(再入社制度)
4. 社員の起業ネクストチャレンジを経済的にサポート――キャリアチャレンジファンド(退職金加算制度)
1つ目のパラレルキャリアに関して、これまでもセミナーなどでの講演や本の執筆などの副業は部分的に認めてきました。
今回の新制度ではその範囲を大きく広げ、業務時間外かつ当社と競合しないビジネスであれば、原則認めることにしました。
制度開始から半年ほどで15名からの許可申請がありました。
細川 「なかには、部長クラスの社員が英語の参考書を執筆するというケースもありました。
もともと強みだった英語を自分のキャリアに生かしたいという想いをずっと持っていたものの、社内ではなかなかその機会がなかったとのこと。
それが今回の制度によってチャレンジすることができて感謝していると聞きました。
この経験によって、社内外に対するコミュニケーションの取り方や見方を、あらためて客観的に見直すことができたと話しています。
個人のチャレンジを応援するだけでなく、普段の仕事にも生かせていると思います」
副業というと本業に差し障りが出るのではという懸念もありますが、トレンドマイクロでは「性善説」を前提に考えます。
やる前からできない、懸念があるからやらせないのではなく、個人がチャレンジできる環境を整えたうえで、何か問題があったときにどう対処するか一緒に考えていく――健康管理や本業に影響しないことに関しては、個人の裁量に任せているのです。
会社に依存しすぎることなく、社員一人ひとりが自らのキャリアを選択する。
それによって強い社員を育てることにもなり、副業で得た知見や知識は本業にも生かせます。そうやって還流していくことでのメリットも期待しています。
辞めても関係性が続くことを明示し、社員のチャレンジを応援
2つ目の「トランスバウンダリー(社外出向制度)」は、社外の組織へ一時的に出向することで、当社では得られない経験を積み、それを今後のキャリアに生かしてもらうというものです。
すでに4名の社員が利用しており、うち2名は新卒入社でずっと同じ部署で働いてきた社員です。大手企業ではなく、経営者に近いベンチャーのような環境で働きたいという声が上がり、実現に至りました。
異なる企業規模での経験を積むことで、また得られる知見も変わるのではと期待しています。
3つ目の「ウェルカムバック」とは、かつて当社に在籍し、再び戻りたいと考えている元社員を仲間として迎え入れる制度。
再入社そのものは以前からあり20名ほど戻ってきていますが、これまでは制度として明文化されていませんでした。
堀川 「再入社歓迎の意志を正式に制度化することで、社員もより多様なチャレンジがしやすくなるのではと考えました。
もちろん、再入社した社員が他の場所で学んだ経験を生かすことで、社内にイノベーションを起こすことも期待しています」
今後はアルムナイ制度(卒業生ネットワーク)も、つくっていきたいと考えています。
どのような形で再び一緒にビジネスをやることになるかはケースバイケースですが、当社を辞めても関係性が続くことは明示していきたいと考えています。
4つ目の「キャリアチャレンジファンド」は、勤続年数が長ければ長いほど高額の退職金が支給されるという、一般的な退職金制度が果たしてトレンドマイクロに最適な形なのか?という疑問から生まれました。
定年を迎える前に他のステージで新たなチャレンジをしたいと考えても、将来や家族のことを考えると定年まで勤め上げてより多くの退職金を得た方が良いのではないか――そう考えてチャレンジをためらってしまう可能性は十分にあります。
経済的な理由だけで社員にチャレンジを諦めてほしくないと考えて生まれたのがこの制度。規定条件を満たせば、退職金に一定額の加算金を支給しています。
社員からは前向きな反応。これからも「キャリアの自律」を後押ししていく
今回の新制度は、全社員に対して説明会を実施しました。
導入から日が浅く、制度の評価はこれからですが、多くの社員から前向きなフィードバックをもらい、社員のモチベーション向上につながっていることを実感しています。
説明会後のアンケートでは、次のような回答が得られました。
エンジニア職 「時代の流れによる働き方の変化が必然となるなか、会社がさまざまな人事制度を実施していることが社員としては大変幸せです」
事業開発(管理職) 「(今回の新人事制度は)オープンで非常に前向きな制度だと思います。
この制度に管理職自身が対応していくために、管理職自身のマインドセットやスキルを高めていくべきであると痛感しました。
トレンドマイクロの文化である性善説の考え方をベースに今後、よりチームメンバーとのコミュニケーションを行なっていきたいと思います」
今後は制度の浸透も含め、社員に「キャリア自律」の意識を促すためのワークショップも計画しています。
他にも社員の有志がファシリテーターを務め、「Be Yourself」を含めた企業文化を学ぶ「TLC(トレンド・ラーニング・サークル)」と呼ばれるワークショップも実施しています。
堀川 「どの制度を使うかは、社員一人ひとりのキャリアによって異なります。でも、その根本となる『キャリア自律』という考え方は、全社員に持っていてほしいんです」
新制度を運用するにあたって、最初の1〜2カ月は活発に手が挙がりましたが、数カ月すると勢いも落ち着いてきました。
もちろん、全員に利用してもらうのがゴールではありませんが、選択肢のひとつとして当たり前に捉えてもらうために、そして「キャリア自律」をより浸透させていくにはどうすれば良いかは今後の課題です。
自分らしさの観点からも、キャリアは会社に依存するものではなく、自律して勝ち取ってほしい――トレンドマイクロでは、今後もこの文化を大切にしていきたいと考えています。