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これからの日本をつくる"働き方"のストーリー

「フィードバックなんですが......」は魔法の言葉? 高め合う文化で変わる社員と会社

株式会社コンカー
株式会社コンカーは2011年、米コンカーの日本法人として、株式会社サンブリッジの出資を受け、ジョイントベンチャー方式で創業。日本における出張・経費管理クラウドのリーディングカンパニーとして、順調に成長しています。急激な組織拡大の中でも、自由闊達にコミュニケーションしあえる企業風土を支えていたのは、「高め合う文化」と呼ばれる独自の企業文化でした。

急激な環境変化で離れる、社員のココロ

▲左から、柿野拓、金澤千亜紀、間⼤之

クラウド型出張・経費管理サービス「Concur Travel & Expense」を提供するコンカーは、業務システムのクラウド化が急速に進む中、2015年から3年連続、国内経費精算市場におけるベンダー別売上金額でトップシェアを記録。日本国内では600社以上に採用され、バックオフィスでの業務効率化ソリューションとして大きく支持を伸ばしています(2017年現在)。

社員数も2013年時点で28名だったのが、わずか3年で100名を突破。組織が拡大する中、好調な業績とは裏腹に危機感を感じはじめた、と振り返るのは、管理部部長の金澤千亜紀(かなざわ・ちあき)です。

金澤 「当社は2013年から『バディ制度』という仕組みが展開され、2カ月ごとに普段接点のない社員同士でグループを組み、ランチやアクティビティなどの交流イベントを活発に行ってきました。社内コミュニケーションの活性化がコンカーの競争力に直結するという意識があり、コミュニケーション施策も積極的にできている自負があったのですが、社員数が50名を超えてきたあたりから『誰が何をやっているのかわからない』『社内で起きていることが見えない』などの声が上がりはじめ、今までとは違ったアプローチが必要と感じていました」

急速な成長を続ける中、コンカーに激震が走ります。独大手IT企業SAPによるコンカー本社の買収です。独立系クラウドベンダーから大手SAPグループ傘下の子会社となることで、社内に混乱が走り、特に採用活動には大きな変化が生じました。

金澤 「企業が中長期の視点で安定的に成長するには、企業の成熟度に応じた人材採用と適切な施策の展開が必要です。ビジネスの立ち上げ期にはヒト・モノ・カネが不足する中でも自立的に動ける社員が求められ、成長期・成熟期には社内外に広がる複雑な利益関係や関係性を尊重しながら業務を遂行できる社員が求められます。

小規模なベンチャー気質に溢れたコンカーが突然、大手グループ企業に変化することで、就業観の違いに戸惑いを感じる社員や、そもそもコンカー自身がどうなってしまうのか?という不安を持つ社員も現れ、私自身も当時は社内でマイナスのエネルギーを感じていました」

「ダメ出し」ではない双方向からのフィードバック

この急激な環境変化を乗り切るべく、コンカーが導き出した答えは企業理念である「Concur Japan Belief」を見つめ直し、再構築することでした。

創業時に制定されていましたが、2015年に社員全員で新しい「Concur Japan Belief」を作り直すことにしました。年に1度、全社員が集まるオフサイトミーティングの場で5、6名ほどのグループを複数作り、全員からの発言を求める形で、ミッション、ビジョン、価値観を明文化し、新しい環境下で自らを律する者として、再定義しました。

~Concur Japan Belief~
▼私たちのミッション……Concur Japanは出張・経費管理(Travel & Expense) の改革を通じて日本企業の競争力強化に貢献します。
▼私たちのビジョン……私たちの製品・サービスの日本企業への普及に努め、私たち自身の事業を拡大させ、私たち自身も成長します。
▼私たちの価値観……私たちは3つのスピリット(お客様の観点から/自身の観点から/仲間の観点から)を社員全員で共有、行動指針としています。

Concur Japan Beliefは名刺サイズにカード化され、いつもでも振り返れるようにしました。

また、業界内で最高クラスの人材となるべく、良いことも悪いことも相互にフィードバックし、成長し合う「高め合う文化」と呼ばれる新しい文化形成へのチャレンジを進めることになりました。自分自身/同僚/上司の観点から双方向にフィードバックを継続的、かつ積極的に行うことで、お互いのスキルや考え方を高め合う文化です。

金澤 「そもそも外資系IT企業でのキャリアを重ねる社員は、『定年まで勤めあげる』というよりは、『この会社で、どれだけ成長できるか』という思いを持って入社する社員が多いんです。

会社として、彼らにどれだけの成長機会を提供できるか?を考えたとき、フィードバックし合うことで、自分では気づかない示唆を生み、自身の成長につながると考えました。それが『上司から部下へ』というものだけでは、単なる『ダメ出し』になりかねない。

部下から上司、あるいは社長へ、下から上へ、または他の部門の役職者などの斜めの関係性など、多方向からみんなで互いにフィードバック、高め合うことで、結果的に会社全体を高めることになります」

「耳の痛い言葉」も素直に受け入れられる姿勢

▲社員でディスカッションしたポジティブ・ネガティブフィードバ ックをポストイットに記載し、「フィードバックの樹」として社内に掲示。解決された葉は落ち、新しい課題の葉は日々生まれている

どんなフィードバックが効果的で、そのフィードバックを受ける側にはどんな姿勢が必要かなど、具体的な手法を学ぶ場として、全社員参加必須の「フィードバック研修」を実施しています。

「コンストラクティブ・フィードバック」として年1回、自部門、他部門、全社へのポジティブ/ネガティブ両面のフィードバックを匿名でアンケート調査。見えてきたさまざまな課題を全社合宿で共有し、改善策を建設的に議論します。

全社員がフィードバック手法を習得したことで、部下と上司との心理的な壁に変化が見られた。マーケティング本部本部長の柿野拓は、そのように感じています。

柿野 「自分がプレイヤーだった頃は仕事終わりに社員同士で飲み会などを通じて、会社や上司の良いことも、悪いことも耳に入りやすい環境だと思いますが、マネジメントの立場になると、とたんに悪い話が聞こえてこなくなる。マネジメントが変調のきっかけに気づきにくくなるのは大きな経営リスクだと思います。

コンカーでは教育研修などで、『フィードバックは互いの成長のため』というコンセンサスがある。言いにくいことも『ちょっとフィードバックなんですが……』と魔法の言葉を枕詞にすることで、ポジティブにフィードバックできる。自分自身に対する耳の痛い言葉も拾えるようになったと思います」

マーケティング本部インサイドセールス部⻑の間⼤之も、フィードバックがチームに好影響を与えていると実感しています。

間 「私たちのチームは中途入社が多く、年齢も、経験も、社歴もバラバラ。今までは先輩社員に若手はなんとなく遠慮があったんです。けれどもフィードバックが定着化したことで、パフォーマンスを出している若手がミーティングで『ちょっと時間いいですか』と、自分のセールス手法を積極的にフィードバックするようになりました。

長年、営業に携わっていると、営業手法が定型化しがちですが、ベテラン社員も過去の成功体験に縛られることなく、新しいことを取り入れるようになりました。おかげさまでチーム成績も上向き、年間目標は期末を待たずに達成できました」

高め合い、成長しつづける「強いチーム」に

▲「ありがとうボード」にはたくさんの感謝の気持ちが綴られている

フィードバックは普段の会話内だけでなく、多面的、かつ継続的に実施されるような工夫が込められています。

自部門の上司と部下のフィードバックを促進する「コミュニケーションランチ」、他部門の上司からフィードバックを受けられる「タコランチ」(いずれもランチ代を会社が負担)、日頃の感謝の気持ちを伝え合う「ありがとうボード」(コミュニケーションボード)を設置し、感謝の心の見える化など、社員の創意工夫が至る所に見られます。

また、全社員の年間⽬標に「フィードバックスキルの定着と⾼め合う⽂化の醸成」という項目を入れ、定期的にアンケート調査を行うなど、フィードバックを会社の文化として定着させる施策を展開しています。

金澤 「管理部には具体的な数値目標があるわけではなく、成果が見にくいという特性があります。『ありがとうボード』は縁の下の力持ちの役割である私たちへの感謝の言葉が可視化され、想像以上に励みになっています」

柿野 「さまざまな社員がそれぞれの視点でフィードバックしてくれるので、自分の価値観が多様化してきます。新しいアイデアやモチベーションを高める意味でも、多様性はとても重要。このフィードバックの仕組みは、コンカーだからできるというわけではなく、再現性のある有効な手法だと思います。是非、ベストプラクティスとして他社さんにも展開してみたいと個人的に本気で思っています」

これまでは多くの企業で、個人のがんばりや努力が会社の成長を支えていたことは確かでしょう。けれども「多様な働き方」を許容する過程で、お互いが作用し合い、高め合うこと。チーム全体としてパフォーマンスを上げることが、これからの企業の最適解なのかもしれません。

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