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既成概念をぶっ壊す。「70歳でも現役」をかなえる定年延長制度の誕生秘話

株式会社 USEN-NEXT HOLDINGS
働き方改革を率先して進めていたUSEN-NEXT GROUPは2019年9月、70歳まで正社員として働ける「定年延長制度」をスタートさせました。年齢に関係なく、達成した仕事で評価するこの制度は、シニア社員の可能性を掘り起こしました。既成概念を壊し、新たなものさしをつくるまでの過程を執行役員の住谷 猛がご紹介します。

意欲あるシニア層に向け、新たな定年制度を提案

▲ 執行役員の住谷 猛

店舗向け音楽配信やインターネット光回線、映像配信サービスを中心に、ビジネスからエンターテインメントまで幅広くサービスを展開するUSEN-NEXT GROUP。コーポレート統括部では、2018年6月から「Work Style Innovation」という人事プロジェクトを実施してきました。

社員がエネルギッシュに働けるコミュニティづくりに向け、最初にコアタイムのないスーパーフレックスタイム制と、完全テレワーク制を導入。テレワークの際には、社内と同じようなセキュリティ環境を搭載したノートPCと携帯電話(スマートフォン)を支給しています。

これにより、好きな時間に自宅でもカフェでも仕事ができる環境を提供しました。これはただ決まった時間に会社で仕事をすればいいわけではないという、意識改革としての施策です。

さまざまな改革と並行して、新たな「定年延長制度」の立案にも取り組んできました。

60歳を迎えた後に再雇用を希望する社員の割合は85%を超え、そのほとんどが65歳まで働いているのが現状です。しかし、再雇用の場合は雇用形態が「正社員」から「契約社員」になるため、社員のモチベーションが低下していました。さらに、1年ごとに契約を更新する必要があり、社員と会社双方にとって手続きに関する事務・コスト負担も生じていました。

住谷 「最近では少子高齢化のために、優秀な人材の確保が難しくなっています。年齢に関係なく、 60歳以上の社員でも長年培った知識・経験を十分に生かして長く働いてほしい。
今のシニア層はとても元気で、長年 PC業務をしてきているので ITリテラシーも高いんです。彼ら彼女らの意欲のある限り、活躍し続ける環境を構築したいと考えました」

そこで住谷は、「60歳で一度定年を迎え、本人が希望すれば70歳まで正社員として雇用する」という制度を考えます。

最近では希望する高齢者が70歳まで働ける「高年齢者雇用安定法改正案」を政府が発表しており、定年の概念があらためて見直されている今、いち早く制度として取り入れようと住谷は動き出します。

年齢に関係なく、社員の“現在価値”を評価して報酬を支払う

▲勤続30周年を迎えた社員

住谷はまず、制度として成り立つか裏付けを取るためにリーガルチェックを入れました。また、日本の現状を踏まえてこの制度の必要性を証明するため、世論調査の情報収集を継続。チームでつくった制度設計図に基づき、グループ会社全体に定年延長制度に関して説明していきました。

説明する中で、「契約社員の場合は65歳で雇用を止めることができるので、正社員としての再雇用は人件費のコスト増になるのではないか」という意見が挙がります。

住谷 「それは絶対にならないんですよ、 65歳のひとりも 30歳のひとりも同じ “ひとり ”だから。全体の人員計画と人件費の予算をきちんとコントロールできれば、定年が 70歳になっても人件費が増えることはないんです。
多くの企業は年功序列で給料が変わっていきますが、そうではなく、今の貢献度に応じて給料を支払っていく考え方を採用しています。人材価値、つまり本人が持つ “現在価値 ”で評価して査定し、報酬を支払うということです」

60歳以降も正社員として継続雇用になるため、シニア社員は現役時代と変わらず同じ業務を担当することがほとんどです。2019年6月に制度の導入をリリースし、制度適用対象者への周知と意志確認を行っていきました。その結果、128名中124名(97%)が「正社員」としての新しい道を選択します。

住谷 「ある営業社員が再雇用後は 1年更新にとどまり評価対象にならないことから、自分が取った契約を評価対象の部下に付与していたそうです。『今後取った契約は、自分の成果として計上していいんだよね』という質問がありました。
今後は正社員としての評価になるので、頑張って獲得した分はご自身の成果としてくださいとお伝えしました。人事の気付かないところで、そういう配慮もしてくれていたんだと驚きました」

定年延長制度は大きな反響を呼び、多くのニュースメディアに取り上げられました。

住谷 「この取り組みが、社内だけでなく社外にも広がり、日本社会全体の働き方改革に少しでも貢献できれば嬉しいですね」

制度の導入をすばやく実現するための「3 SOKU」

▲2018年60歳定年を迎えた長坂 佳彦

毎月定年を迎える社員がいる中、すばやく制度を導入し、会社にとって貴重な人材を確保できたことは大きな成果でした。このプロジェクトに限らず、人事関連の制度を進める上で心がけてきたのは、何よりもスピード感です。

住谷 「スピードが正義だというのは以前からメンバーにも伝えていて、わかりやすく『 3 SOKU』で仕事をしてほしいと言っています。1つ目は速度の “速 ”、スピードですね。2つ目は即やるの  “即 ”、思ったらすぐやるんだと。 3つ目が規則の “則 ”、チームで決めたルールに沿って進めようというものです。これを言い続けることで、スピードは維持され続けてきました」

制度がスタートしてから、「定年後も働きたいと思っていたので、引き続き一線で仕事するモチベーションアップにつながった」という声が出始めてきました。

住谷 「オフィスの環境整備や施設の管理をしている社員や、経営管理室でグループ全体の商事法務を担当する社員などが活躍しています。ほかにも営業職で、長年にわたって各地域のお客様と関係を築いてきた社員も多くいます。地域とのつながりが重要な事業を展開する当社にとって、精通しているベテラン社員がいることはとても心強いです」

幅広い年代の社員が働く環境は、社員たちにとっても良い刺激になっているようです。

「定年を迎えた社員が1番大きな声であいさつしています。年齢的に若い私たちが負けないよう、元気良く働きたいです」「新卒で人事をしていて、グループの実情を知れていない部分も先輩社員が細かく教えてくれて、とても勉強になっています」といった声が若手社員から挙がっています。

経験もあり、新入社員から見ると親よりも年上の社員が同じオフィスでイキイキと働く姿は、若い社員の模範になっています。

先輩社員と働く中で、社員たちは「自分たちも先輩みたいに頑張れるんだ」と、会社に対する信頼感が高まっています。

eラーニングを採用し、研修の概念も変えていきたい

▲今年の新入社員研修の様子

今後も、この定年延長制度に関して「絵に描いた餅」で終わらず、約束したことは守り、社員の成果を健全に評価へ反映していきたいと考えています。評価は給与だけでなく、管理職として重要な立場にある部長職や課長職を任せることも方法のひとつです。

制度の導入に合わせて、会社全体の教育体制も随時整えていく予定です。今期に計画しているのが、eラーニングを社内トレーニングの中に入れていくこと。定年延長のように、研修においても既成概念をぶっ壊したいと考えています。

住谷 「研修って、入社年数や役職に分けて受動的に参加することが多いですよね。でも、これって意味がないんじゃないかと思っているんです。こちらが学びの機会を用意しても、スキルは自発性がないと身に付きません。そこで、いわゆる一般的な対面式の研修だけではなく、eラーニングの導入を考えています。
eラーニングで研修を受けると履歴が記録されていきます。人事側は社員の受講状況を把握できるので、たとえば、新規事業立ち上げの人員配置を考えるときに、必要となるスキルセットや興味関心のある人を探しやすくなる。『この人は、こんなに勉強しているんだ』というのが可視化されるので、研修体系としてとても有効だと思います」

いくつになっても働けて、学べる場を──将来的には定年の年齢そのものをなくし、意欲あるシニア層の社員が可能な限り働き続けられる環境を構築していきたいと考えています。

優秀な人材には、会社の中核として生涯現役で活躍してほしい。今後も社員一人ひとりがイキイキと働けるよう、コーポレート統括部ではより柔軟で生産性の高い働き方の実現を目指していきます。

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