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これからの日本をつくる"働き方"のストーリー
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ポイントは社員の長所の掛け算!雇用環境と顧客満足を同時に向上させた独自の分業体制

株式会社ペンシル  PENCIL INNOVATION CENTRAL
  • テーマ別部門賞
  • 多様でジザイなセカンドキャリア賞
前職のスキルを次も生かしたい。これは結婚、出産、介護など、ライフステージの変化に合わせた転職希望者の願望です。この願望と、社員がプライドを持つ業務内容の掛け算に取り組んだ結果、株式会社ペンシルは雇用環境と顧客満足の両方を向上させることができました。それを実現させた独自の部署「PIC」をご紹介します。

ペンシルの職場環境が直面していた個人裁量のメリットとデメリット

▲倉橋が所属していた2011年当時のR&D事業部、メイト制度導入前。

顧客を最も理解する人材は、実際に顧客と対面する担当者です。福岡市に本社を構え、Webコンサルティングに取り組むペンシルでは、一人ひとりのコンサルタントがその役割を担います。しかし、当のコンサルタント自身は、ある課題を抱えていました。

PIC(Pencil Innovation Central)の設立以前、コンサルティング業務とオペレーション業務の分業を実現できていなかったペンシルでは、すべての顧客業務に担当コンサルタントがひとりで一気通貫して取り組んでいました。レポートや提案資料の作成、サイト運用など、コンサルティングの主業務以外も受け持つことがペンシルの特徴だったからです。

結果、コンサルタントは担当者としてのプライドを持ち、顧客に貢献できていました。それゆえに一気貫通のシステムは好評を得ていましたが、一方で、コンサルタントの業務負担は重くなる傾向に。労働時間は長引くうえ、コンサルタントの数だけ属人的なコンサルティングが増えてしまい、担当者ごとに成果のバラつきが生まれていったのです。

2011年時点でR&D事業部マネージャーだった倉橋美佳は、この様子を見て、打開策を立てられないかと思案しました。

倉橋 「人によってノウハウがまったく異なる。コンサルティングに集中しづらいことはミスを生む可能性も高めます。プライドを持って働くことはできていても、クライアントに安定して高品質の業務・成果を提供しづらい状況に陥ってしまっているように見えました。
実際のところ私自身は、企画書づくりが得意で、レポート作成は苦手。だから周りにいるオペレーションが得意なメンバーと業務を交換して、得意なコンサルティング業務に集中していたんです。それを社内でもう少し広げられないかと考えました」

社員の長所を生かし合う、新しいペンシルへの第一歩はこうして踏み出されたのです。

オペレーション業務のスペシャリスト3名のチーム「メイト」結成

仕事に持ったプライドは働き手に何をもたらすのか。ひとつはやりがい、あるいは活力など。業務経験で身につけたスキルを生かすことでメリットを得る人材は、社員以外にもいます。倉橋が目の当たりにした、出産や介護を境に転職を希望した人々もそのひとりです。

倉橋 「家族との時間を優先したい。でも、前職の経験を生かしたい。そういう気持ちを持った内勤経験者に多く出会いました。その人たちはライフステージにあった労働時間の職を求めるも、前職の経験を生かせる求人は見つけ難く、職業選択の狭い幅に悩まされていたんです」

倉橋は、ライフステージの変化に際して転職活動中の人材から、時短勤務を可能にして、内勤業務の豊かな経験を持つ3名を雇用します。その3名が、オペレーション業務に特化したチーム「メイト」です。手始めに取り掛かったことは、各部署の業務観察でした。

一部署1〜2週間、社員の業務を見て回り、メイトが担える内容を判断。新設チーム特有の実績を持たない状況から前進するため、多少、無理強いしたとしても協力できる業務を回してもらうことに徹しました。

倉橋 「担当者から業務を預けてもらうことは一番大変でした。部署を一巡するまで、半信半疑だった社員もいましたが、分業を体験すると効果は実感できる。仕事が楽になり、ミスもなく確実な成果を残せていったことで、相互の信頼関係を築くことができました」

メイトによって、資料作成やレポートの計算式などにフォーマットが生まれ、顧客訪問の時期に合わせたスケジューリングも確立。仕事が非属人的になり、勤務時間の縮小と、コンサルタントとして満足度の高い仕事を行える社員が増えました。そして、メイト自身がやりがいを感じる機会も増したのです。

倉橋 「分業した社員に褒められたことを喜んでいたり、『助かっています』という声が掛かる瞬間を目にしたり。分業する人同士や会社、顧客のためにより良い成果を残そうとする状況が築かれていきました。メイトのメンバーが満足度を感じて働く様子を見ることができ、もっと広がればいいなと感じたんです」

人生に合わせて特別な時間を費やすなら、磨いたスキルを生かせる仕事に就きたいと願う転職希望者と、主業務に集中して顧客満足とやりがいの充実を実感したいコンサルタント。双方の希望をマッチングしてきたメイトの活動が、いよいよPICの新設に向かいます。

雇用環境と顧客満足をより高めた、働く多様性と業務体系化の獲得

3名で始動したメイトも既に15名に。倉橋自身、メイトを推進する過程で取締役になり、さらにこの活動を広げる機運は高まります。こうして2016年にメイトを部署化したPIC(Pencil Innovation Central)が誕生しました。

PICを拡大するにあたり、ふたつ改善した内容があります。ひとつはPICメンバーのワークスタイル。もうひとつは分業に伴う業務体系の効率化です。ワークスタイルの改善は、PIC既存メンバーの労働環境に注目した結果でした。

倉橋 「たとえば、3〜 4時間の時短勤務に片道 30〜 40分の通勤が必要になっていました。すごく無駄な時間です。オフィスを郊外に設けたり、在宅勤務を組み合わせたり。実現すれば、PICをもっと広げていけると思いました」

一方、業務体系の効率化には、あるベテラン社員が活躍します。勤続20年以上で、ペンシルの労働環境が整う過程をすべて見届けてきた、当時のシステムソリューション部マネージャー 梅門啓二です。

倉橋 「彼しかいない。会社の成長を一緒に体験してきた梅門なら、働き方や働く場所、年齢層も多様にしていく PICの効率化を任せることができました」

ふたつ改善した結果、2016年にサテライトオフィス「PIC愛宕」を新設。テレワーク勤務も導入し、場所にとらわれない雇用環境を実現します。シニア層の雇用を推進することにも取り組み、あらゆるライフステージの働き手がペンシルの仕事に従事できるようになりました。

その背景には、梅門を中心に結成した業務効率化の専門チームによる功績があります。工数管理の徹底や業務の制度化、透明化がさらに社内に浸透し、誰がどこで働いても高品質のオペレーション業務を実現することが可能に。結果、コンサルティングの品質向上にも寄与したのです。

なぜなら、業務効率化の専門チームは、PICメンバーへのフィードバック制度も確立したから。梅門が加わってからすぐに取り組んだ社員満足度調査は、PICメンバーの自発性とやりがいをより高めて、スキルの向上を意識できる環境を築きました。

ところが、ふたつの改善がもたらした結果は、業務の非属人化だけに止まりません。非属人化によって属人的な業務が持つ魅力にあらためて気づかされることになったのです。

希望通りに働く人の付加価値と新たな顧客満足を生む強みの樹立という功績

▲夏休みに開催するペンシルファミリーデイの壱岐オフィス。シニアと子どもたちが楽しく交流。

人生にとって、仕事とは欠くことのできない営みです。ライフステージの変化で、好きな仕事を諦めるのなら悲しむ人が増えます。PICが築いたのは、多様な人材が無理なく働ける環境です。そして、働き手の多様性は新しい企業価値を築く一助になりました。

たとえば、PICによって実現したシニア雇用。ペンシルにとって、未知の領域だった60代以上の雇用は、新サービスの提供につながりました。それが、シニアの目線でサイト最適化を図る「シニア対応サイト診断サービス」です。シニア層にサービスを提供する顧客企業への新しい付加価値を築くことができています。

2019年時点で代表取締役社長COOとなった倉橋も、この結果には学ぶことが多くありました。

倉橋 「ライフステージに合わせた雇用が新しいサービスを生んだ。経営者をしていると、人材を労働力として見てしまいがちですが、その人にしかできない仕事が生み出す価値にあらためて気づくことができたんです。お互いの成長を目指した先で、組織の力を変えることにつながりました。
シニア世代だけでなく、子育て中や介護中、いろんなスタッフがいるため、顧客に提供できる改善案も質が高まりました。ときには部署を超えて世代が連携を組み、顧客のために働いています。まさか、属人的なことがデメリットからメリットに変わるなんて。このような属人化なら推進したいと思うほどです」

PICの開設は、新規雇用だけでなく在職中の社員にもメリットを生んでいます。産休から復帰する社員の希望に合わせて、PICメンバーとしての復帰を選ぶことはひとつの選択肢になりました。キャリアプランを豊かにしたのです。

サテライトオフィスも増え、長崎県の壱岐島にも構えました。結婚を機に、移住する人たちにも業務経験を生かして働く機会の提供につながっています。

倉橋 「 2015年にペンシルはダイバーシティ経営を掲げました。社員がやる気になる、より良い環境を築くことは業績にも通じるという体感を得たから、その可能性を地域に広めていきたい。そして、地方でご苦労なさっている中小企業のみなさんにも浸透していけたらと、強く思っています」

勤務時間の縮小と顧客への成果を品質改善することが目的で始まったPICへの取り組みは、多様な人材に働く機会を届け、この先、中小企業や地方企業に未来を示す段階へと成長を遂げました。

働き方が多様になる過程で、一般社員から経営者になった倉橋を中心に、ペンシルはこれからも一人ひとりの長所を発揮してもらえる会社として、社会に貢献していきます。

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