大人の夢を応援する会社から子どもが夢みれる社会へ──Animoが描く女性活躍の未来
ママ友の不安や悩みを聞き、Wワークのまま起業に踏み切った
働き方改革が進み、産休・育休が取りやすくなったり、その後の職場環境が整ったりしています。しかし、女性の多くはまた、結婚、出産を期にいったん社会から離れることで、そのブランクに不安が募り、なかなか一歩を踏み出せない心理的状況があります。
Animo株式会社は、マナースクール運営や人材紹介や派遣サービス、保育施設運営などを通して、女性の社会参加・復帰を支援しています。創業者であり、代表取締役の橋本典子は起業家としては、異色の経歴の持ち主。事業内容も、彼女の経歴や環境や、危機感から生まれたものでした。
橋本 「私自身が、いわゆる企業で正社員として働いた経験がなかったんです。救急救命士からキャリアをスタートして、 3人の子どもを産んで。子育てが落ち着いてくると、やっぱり社会に関わっていきたくなるのですが、子どもの教育にも時間を費やしたいなとも感じました。
そこで、竹を使った照明をつくる仕事を始めました。店舗の内装やイルミネーションをつくるんです。その仕事が軌道に乗っていたころ、周りのママ友などから、『これからどういう風に社会に関わっていけばいいのか』といった悩みを聞くことが増えました。そして、そういう環境がないなら、つくればいいと思い、事業を始めることにしたのです」
「結婚したら子どもを産むのか」「いつまで主婦を続けるのか」など、社会復帰までの道のりを考えたときに「本当に大丈夫なのか」という不安を、多くの女性が持っています。それらを解消できる社会をつくるべく、Animoはスタートしました。
ヒントとしたのは、橋本自身の働き方。
照明の仕事は、Animoの起業から3年以上たった今でも続けています。Wワークを可能にしているのは、仕事のしくみを自分でつくったこと、そして、コミュニケーションを大切にしていることです。
橋本 「私には社会経験が少なかったので、なぜ会社経営なんてことができるの?と聞かれますが、その理由はコミュニケーションでしかありませんでした。『 B to B』という言葉を知ったのも最近、というくらいでしたから(笑)。
ですが、日本の会社の “当たり前 ”を知らなかったからこそできたこともあり、働き方の多様化は、その視点がもとになって進んでいると思います」
このような考えがベースにあるからこそ、事業内容も社内制度も、専門スキルというよりはコミュニケーションを大切にしたマナー研修や、資格取得を支援しているのです。
「子どもを預けられなければ、意思や能力があっても働けない」女性が多い
たとえばAnimoが運営している保育園では、保育士が子どもたちの成長や行動を褒める社内アプリがあり、その内容を保護者の方にお伝えするというしくみを取り入れています。それについて家庭の費用負担は一切ありません。
橋本 「これは、自分の体験がきっかけになっています。母親って、仕事が忙しいと、子どもがいつ寝返りをうったのか、いつ歩いたのか、いつ話したのか、そういうことに気づきにくくなります。日々に追われて子どもに対して申し訳なく思い、自分自身がなんのために頑張っているんだろうと悲しくなってしまうこともあります。
だからこのアプリでは、そういう当たり前のことを褒めるんです。とにもかくにも、『この子を愛しています』とただ伝えるだけのアプリですが、これが保護者の方にとってすごく大事なことだと思っています」
また、認可保育園ではおむつや布団など、保護者にとって毎日の負担が大きい。そのママ目線を大事にし、Animoの保育園では、すべての園でおむつや布団を用意しています。
考えてみれば当たり前だけれど、実際に多くの現場では行われていない取り組みを、率先して実施してきました。
子どもを預けられなければ、働く意思や能力があっても働けないということも、女性を取り巻く課題のひとつでした。そこで当社は社内制度として、自社の保育園に子どもを預けて運営委託先で就労したり、1日に3時間、4時間という短時間労働も可能にしたりして、職場復帰に不安な人や家庭を重視したい方にも働きやすい職場環境を提供しています。
橋本 「一般企業側から見れば、やはり子どものことで急な呼び出しがあるなど、安定して勤務できるかわからない方に内定を出すことは難しいですよね。ですが、女性は男性に比べてマルチタスクの能力が高いですし、目標が明確なときの生産性が高いんです。
それなのに、女性が家庭生活を切り詰めて我慢することが当たり前というのが今の世の中です。その障壁を外していこうと思って、採用面接のときにも子連れで来るのを許可していますし、それにともなういろいろな施策も行っています」
ママ目線に立った制度などは、社内でも好評。とくに、パート社員から正社員への社内キャリアアップ制度は非常に多くのスタッフが活用しています。キャリアコンサルタントが一緒に目標設定などを行うことで、彼女たちの自信やモチベーションアップにつながっているのではないかと考えています。
何があってもやりきる!強い意思を支える、母として、女性としての「想い」
橋本が苦労した点として挙げるのは、やはり自身の「企業勤務経験の不足」でした。
橋本 「企業という組織を知らないので、そもそも『ルールを設けなければならない』ことがもどかしく感じました。採用についても、本当に初期は明確な判断基準もなく、その人が『できます』といったら採用、みたいな(笑)。やっていくうちに、これは自分ではできないと思ったら、人にお願いするようにしました。そういう意味で、一番に採用したのは秘書でしたね」
企業体の前提を知らないことが、事業としてはプラスに働く一方で、経営面ではハードルになることも多々あったのです。基本的なPCスキルもなかった橋本は、手書きでやるべきことを書き出し、それを他のスタッフが実現していくという形で組織をつくってきました。
橋本 「しくみは本当に一つひとつつくっています。後は、とにかく “想い ”です。もともと女性からの相談を、毎晩毎晩聞いていたことがきっかけで始めた事業なので。そのためにはお金が必要で、お客様も増えないといけないし、社会に認められないといけない。その『世の中を変えたい』という想いを伝え続けています」
ただ、何もかも想いだけでうまくいくわけではありません。なかなか前に進まないこともある中で、橋本は、自らの「母としての強さ」を生かして事業を推進しています。
橋本 「心が折れそうになることってあまりないんです。女性はとくに、目的があるときにはとても強いと思います。たとえば、子どもに何かあったときに、自分の内臓を渡すくらい平気と言えるほど肝が据わっているというか。
だから何かネガティブなことがあっても、『何言ってんの!やりきるんだよ、私たちは!』というような気持ちですね。行政ができないことを民間の私たちで変えていく。その先にどんな未来が待っているんだろうと前向きに考えます。ただの主婦だったらできなかった単位のお金を動かすという意味でも、覚悟を持って経営していますね」
橋本の熱く強い想いに引っ張られ、創業時5名だった従業員は3年で250名まで急速に伸び、今も成長を続けています。
女性が最初から諦めてしまうのではなく、可能性を探せる環境をつくる
社会としての課題は、国の制度などのハード面に加え、女性自身のマインドというソフト面も大きいと橋本は考えています。
橋本 「最初から諦めてしまうことが多いんですよね。たとえば、月 100万円稼げるのがわかっていても、『月に何十時間、何万円以内という扶養範囲で働けばいいや』とか、『私なんてそんな能力ないし』といったものです。
ですが、自分で思っているよりも女性の能力は高いんです。とくに子どもを育てる経験ってすごく大きくて、ご飯をつくりながら明日の予定を考えて、なおかつそこにいる子どもの行動や具合がわかっている。それらすべてを同時にタスクとして管理できる。こんな能力が高い人、欲しくない社会ってありますかね?だから企業の考え方もそうですが、女性の考え方も変えていく必要があると感じています」
単に勤務時間や企業経験だけで判断し、諦めてしまうことは、社会にとっても女性にとっても機会損失なのです。
自信を持って自分に合った働き方を見つけ、ワークライフバランスを保ち、社内のキャリアアップ制度を利用し、パートから正社員に転換する人が増加中。そんな当社だからこそ、社会に伝えていける考え方やしくみがあると考えています。
Animoは「大人の夢を応援する会社から子どもが夢みれる社会へ」というビジョンを掲げています。まずは大人が「こんなことをやりたい」と思ったとき、すぐに無理だと決めつけるのではなく、当たり前にやってみようと思えるような会社づくりを進めています。
そして、そんな夢を持った大人を子どもたちは見ています。子どもたちが「社会ってあんなに楽しいんだ」と思える社会にするために、私たちは存在しているのです。
社名の「Animo」は、スペイン語で「がんばれ」「いいね」といった応援の意味合いがあります。これからの社会で、子育てをしながらキャリアを築き、きらきらと輝く女性が増えることをAnimoは応援していきます。