講師も生徒も社員──互いに自己開示できる"社内研修"「Aoyama大学」
初めての新卒採用を控えて気づいた自分たちの課題
2013年に設立したparkERs(パーカーズ)は、植物を生かした空間デザインを行っており「日常に公園のここちよさを。」をコンセプトに、専門性を用いて人と植物が共に心地よく感じる空間づくりを提供しています。
最初の数年は、ブランドマネージャーの梅澤伸也が公言する「平均点を取るより、数学5で社会は1のような秀でた個性を重視」を採用方針に、100%中途採用でメンバーを増員。一人ひとりが専門性を尖らせ、社員全員「個人の名前で仕事が取れる人物」を目指していました。
採用方式としてはベンチャー企業ではよくあるものですし、異なる専門分野で経験を積んできたプロフェッショナルが集まるチームとして成長していきましたが、新卒採用に踏み出したとき、思いがけない壁にぶつかりました。
中途採用の専門性重視に対し、新卒採用は人柄重視で「おもしろくて感度やセンスの高い」メンバーを選考。しかし彼らの入社を翌年4月に控えたところで、当時管理室にいた吉田あきは不安を感じ始めたのです。
吉田 「当時のメンバーは各々の専門性を高めることには長けていたのですが、強みを理解し合い “互いを知る ”ことについては意識が低かったんですよね。
一方新卒は、専門性はないけれど感度が高くていろいろな興味を持つメンバー。正反対とも言える彼らはちゃんとコミュニケーションを取れるのだろうか、と」
ちょうどそのころ、吉田は若手メンバー向けに一般常識やビジネスマナーの研修を行っていました。あるとき彼女は、その“場”がメンバーが同じ空間に集まる機会になっていて、しかも何かを教え学び合う新鮮な良い空気感が漂っていることに気づきます。
その様子を見ていたキャリアメンバーが「おもしろそう」と参加するようになり、若手とキャリアの間でコミュニケーションが生まれてきていたのです。
すると梅澤がある“思いつき”を吉田に打ち明けました。
梅澤 「せっかくなら、全員に自分が講師になって研修をやってもらうのはどう?」
コミュニケーション不足を解消する光明、「Aoyama大学」開校!
当時、私たちは他にも課題を抱えていました。
せっかくメンバー一人ひとりのインプット量と質は高いのに、それを社内でアウトプットすることを重視しない風土ができつつあること。これでは個の能力に頼りきった属人化したチームになってしまいます。
さらに、チーム拡大に合わせてメンバー数が増えたため、それぞれが持っている尖った個性(強み)が見えづらくなってきていました。
これらの課題の原因はコミュニケーション不足ですが、梅澤の思いついた案で解決できるかもしれないと感じた吉田。同時に、彼女自身が抱いていた不安も解消できる光明も見つけたように思えました。
さっそくこの取り組みを「Aoyama大学」と命名。事務所を構えている地名と、当社が運営する「青山フラワーマーケット」から名付けました。
2016年1月から方向性や企画を話し合い、4月には始動。吉田は、スタート初月の在籍メンバーが19名だったことに合わせて月2回9カ月間のカリキュラムを組みます。
吉田 「メンバーに Aoyama大学を始めることを伝えたら、まずものすごく不安そうにしていました(笑)。講義をしないといけない。でも何をしたらいいのか……という戸惑いがあったのでしょうね。けれど同時に、そういうことに面白みを感じるメンバーでもあるので、ワクワク感も大きかったようです」
初回の授業は、見本を見せる意味もあり吉田が講師として登壇。
その年の4月にいよいよ初めての新卒メンバー入社を控えていたため、「メンターとメンティ」をテーマに、新卒メンバーを受け入れる心構えを講義しました。
講義の基本スタイルは1コマ60分。内容は簡単な自己紹介と前職の説明、テーマに合わせた講義、質問タイムです。
具体的な講義の内容は、吉田が各講師メンバーと個別ミーティングして決めていきました。各自が得意とするテーマだが独りよがりになっていないか、生徒役メンバーが興味を持つ内容になっているかなど、事前に擦り合わせることで、メンバーが少しでも気負わず参加できるよう工夫しています。
そうして回数を重ね、気がつくと3年半が経っていたのです。
講義からメンバーの個性を知るだけでなく自分の課題にも気づく
「Aoyama大学」がもたらした1番の効果は、雑談レベルのインフォーマルコミュニケーションが活発になったこと。
それまで肩書きや仕事上での専門性しか知らなかったため、仕事上での会話以外が発生しにくかった私たち。とくにキャリアメンバーは、自分の専門分野以外のメンバーにはあまり興味がないように見受けられました。
それが「Aoyama大学」を通してメンバーを理解するとともに興味を持つようになり、新卒メンバーもキャリアメンバーの個性に対する理解度が上がりました。そのため、双方が「こういうことを聞けるんだ」「こういうことを話していいんだ」と互いに興味を持つようになったのです。
結果、気軽に雑談できる雰囲気が生まれた、というわけです。
2018年秋ごろになると運営メンバーに中途入社の小森かおりが加わり、さらに充実したカリキュラムが組まれるようになりました。
同じころ、「Aoyama大学でこういうことをやりたいから、講義の時間を取ってほしい」と相談に来るメンバーも現れ、Aoyama大学は新たな展開を迎えます。
吉田 「最初はメンバーが自分の専門分野についてアウトプットする場という一面ばかりが強かったのですが、最近は何かを伝えたいとき、想いを発信したいときの “社内発信の場 ”として使われるようになってきたので、チームの文化として浸透したことを実感しています」
また、講義の内容をきっかけにプロジェクトが生まれたこともありました。そのひとつがグリーンライフチームの業務改善プロジェクトです。
グリーンライフチームとは、私たちが施工した現場をメンテナンスする部隊。
彼らはそれまで、ただ植物たちの健康状態をチェックし「植物がきちんと成長していればいい」という意識で、現場と向き合っていました。もちろんそれだけでも仕事としては問題ないのですが、各空間にはコンセプトがあります。
そのコンセプトを理解したうえでメンテナンスすることで、クリエイティブ性が向上。ワンランク上のサービスができるようになり、結果、クライアントの長期的な満足度につながりました。
「Aoyama大学」は互いを理解することにつながるだけでなく、己に何が足りないのかにも気づかせてくれているのです。
「Aoyama大学」の効果を実感しているからこそ、より成長させたい
parkERsの文化として着実に根付いてきている「Aoyama大学」ですが、課題もあります。
ひとつは講義への参加率低下。最初は興味を持つメンバーが多く、メンバー数が少なかったこともあり参加率が高かったのですが、徐々に下がってきている傾向に。その原因が個々の業務的事情なのか、私たちが行っている講義の告知がメンバーの興味を引き出せていないのかは、まだ分析できていません。
吉田 「任意で始まっているので強制にしたくないという想いはあります。けれど、継続していくためには参加率を上げなくてはいけません。人事教育チームとして周りの意見を聞いて、改善策を練っていこうと思います」
もうひとつの課題は、講師メンバーの偏り。
小森 「講師が一巡した今、どうしても発表が得意な人に 2回目以降の講義が偏ってしまっています。でも、もっと気軽にいろいろなチャンレンジの場として使ってほしいなと思っていて。
自分の意見を発表してもいいし、今チャレンジしていることに対してみんなの意見をもらってもいい。あくまで “場 ”として存在していること、もっと広い意味で使っていいことを伝えていきたいですね」
人はさまざまな価値観を持っているもの。その価値観を“場”で共有することで、新たな取り組みが始まればいいと小森はいいます。
「Aoyama大学」は、メンバーに自己肯定感をもたらしました。講師として登壇することで「自分の意見も生かすことができる」「会社に貢献できている」という自信につながり、一人ひとりの意識を変えるきっかけになったのです。
また、若手メンバーは講義に参加することで「みんなが見守ってくれている」という安心感を持って仕事に取り組めるようになり、先輩メンバーとリラックスしてコミュニケーションが取れています。
それだけの効果を感じているからこそ、私たちはより良い文化として、これからも「Aoyama大学」を成長させていきたいと思っているのです。