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WORKSTORYAWARD2018

これからの日本をつくる100の“働く”をみつけよう「Work Story Award 2018」の受賞ストーリー、
一次審査通過ストーリーを公開しています。

最強のチームで世界に挑戦するために――"新しい"プレミアムフライデーのカタチ

株式会社アトラエ
「働きがいのある会社」ランキング2017(※)で3位になったこともあるアトラエ。上司・部下の概念がなく、驚くほどの風通しの良さが特長です。しかし、事業が大きくなりメンバーが増えるにつれ、次第にささいな価値観のズレが生じるように。アトラエが試行錯誤しながら強固な団結力を取り戻すまでの道のりを紹介します。

会社の成長とともに徐々に明るみになっていた価値観の小さなズレ

▲代表取締役の新居佳英

アトラエが手掛けるのは、“HRテック(Human Resource Technology)”。10年以上展開している求人メディアの「Green(グリーン)」、エンゲージメントを可視化する組織改善プラットフォーム「wevox(ウィボックス)」、ビジネスマン同士のAIマッチングアプリ「yenta(イェンタ)」の3つを軸に人材関連事業を展開しています。

代表取締役の新居 佳英(あらい よしひで)は、本気で夢や目標に向かって仲間たちと切磋琢磨しているアスリートやアーティストたちに憧れを抱いています。ビジネスの世界でも、全員が本気で“チームの夢を追いかけられる”理想の組織をつくるべく、2003年にアトラエを設立しました。

アトラエは、“上司”の概念がない珍しい企業。

取締役やサービスごとのプロジェクトリーダーは存在しますが、その人たちが“偉い”とは考えていません。また、無駄なストレスを極力なくすため、ルールや制度は最小限に。“管理”ではなく“信頼”に重きを置いており、メンバーたちは自由に働いています。

新居を含めたメンバー2人からのスタートでしたが、2018年現在は50人程にまで成長。事業も軌道に乗り、2016年にはマザーズへ上場しています。

しかし、そのころからメンバー同士が“本当の意味”で同じゴールに向かって進めているか、疑問が生じるようになりました。南 香菜絵(ADMチーム/広報)、林 亜衣子(ADMチーム/人事・労務)は当時をこう振り返ります。

南 「事業が成長し忙しくなるにつれ、2013年ごろまで行なっていたカルチャーについての勉強会がだんだん開催されないようになりました。2015年入社の私を含め、ここ数年の間に入社したメンバーたちは、社内文化についての勉強会があったことを知らないメンバーも多いと思います。もちろん全員ビジョンや行動指針に共感し、熱い想いをもって入社していますから意欲は高いのですが、組織に関する認識にはささいなズレがあったように思います。

アトラエのビジョンは『世界中の人々を魅了する会社を創る』です。

でも、『世界中の人々って誰?』といった話が出ると、あるメンバーは『クライアントだ』と答え、あるメンバーは『未来のクライアントも隣にいる人も含め自分の周りにいる全員だ』と答える。抽象度が高い表現なので、みんなの解釈が微妙に違っていたんですね」

管理部門(ADMチーム)は、こうした“ささいなズレ”を解消すべく、「wevox」を活用した施策を講じることにしました。

「wevox」は、独自のサーベイによって組織の課題を特定できる仕組みになっており、さらには匿名でのコメント機能もついています。このコメント機能を使って、メンバーたちから意見や疑問が投稿されたときに丁寧に回答することで、より組織の一体感を増していこうと考えたのです。

林 「アトラエの文化・ビジョンをより正しく浸透させるためには、しっかり発信していくことが大切です。でも、新居自身が頻繁に発言すると、ちょっと重くなりすぎてしまうかもしれませんし、気軽に意見が言えなくなるかもしれません。

そこで、『よしひでくん』という代表の名前を模した架空のキャラクターをつくり、届いたコメントに対して丁寧に返すようにしたんです。

しかし、コメントのなかには自分たちで課題を解決するのではなく『会社に要求を伝えるだけ』のものも見られるようになりました。自分たちの会社は自分たちで良くしていくというアトラエの価値観とのズレを早めに解決しなくては、と思ったんです」

これを放っておけば、そう遠くない未来に亀裂が大きくなってしまう……。そう考え、まず動きはじめたのが林と同チームの佐久本 侑里でした。

まずはキーワード集め――そこで知った多種多様すぎるメンバーたちの理想

▲壁に貼られたたくさんの付箋

林と佐久本は、まずは2人だけで「アトラエを良くする活動=アト活」をはじめました。

林 「管理部門のメンバーたちは、普段代表の近くで働いているので、代表自身の想いや考えに多く触れています。しかしほかのメンバーたちはそうではありません。

みんなの価値観がズレてしまうのは、何が原因なのかを洗い出すために、私と佐久本で週の1回のミーティング、アト活を行なうようになりました。ボツになったアイデアばかりでしたが、毎週10個くらいは仮想の原因や解決案を出していましたね。

その後、ADMチームで集中的に議論していきました。チームの中でも、社歴の長いメンバーと短いメンバーがいて、それぞれビジョンやカルチャーの解釈にも違いがあります。まずは自分たちがビジョンやカルチャーに関するキーワードを付箋に書き出してグルーピングし、どこが価値観のズレにつながっているのか検証していきました。

ある程度ADMチームの考えがまとまったら、会社の壁に付箋を貼れるようにして、会社のメンバー全員にもビジョンやカルチャーに関して自由に書いてもらったんです」
南 「メンバーたちには私たちが抱いている課題感を共有したうえで、『何枚でも貼っていいよ』と伝えました。みんなおもしろがってくれましたし協力的でしたが、付箋の数が少ないうちは書くハードルが高かったようです。

なかなか意見が集まらなかった最初のうちは、積極的に声掛けをしたり、筆跡を変えて私ひとりで何枚か書いてみて、たくさんの人が書いているように見せたりもしましたね(笑)。

その結果たくさんの意見が集まったのですが、たとえば理想の状態に関する意見だけでも『みんながファンになってくれる組織』『みんながニコニコ笑っている組織』『売上がコンスタントに伸びている組織』『みんなが年収1000万円を超えている組織』など、本当に多種多様な付箋がありました。

いろいろな解釈がありすぎて、今度はどうやってまとめていけばいいのか悩みましたね……。どれも間違っているわけではないので、何を“良し”とすればいいのかな、と」

あまりに多様な意見が集まったことで、ADMチームのメンバーは頭を抱えました。意見を集約してフィードバックしていくことも難しい――。

そこで、“みんなで集まって話す場”を設けることにしたのです。

“ATPF”で飛び交うようになった「素朴な疑問」や「本音の意見」

▲ATPFの様子
南 「ちょうど世の中でプレミアムフライデーが流行りはじめたタイミングだったこともあってアトラエでも早帰りデーなどを検討していたのですが、結局早く業務が終わってもアトラエメンバーは一緒に飲みに行くことが多くなるだけだろうなと予想しました。

それであれば……ということで、『アトラエ的プレミアムフライデー(ATPF)』の開催を提案してみたんです」
毎月最終金曜日の16時から2時間、すべての業務をストップさせて会社の課題や未来を語り合うことにしました。第1回は2017年7月7日。プレミアムフライデーらしくアルコールOKのカジュアルな雰囲気で行ないました。

林 「毎回さまざまなテーマ、コンセプトを設定して開催していますが、最初の3回ほどはあえてテーマを設けませんでした。

普段は業務で一緒にならないメンバー同士5~6人のグループを組み、自由に議論してもらいました。“社内ならどこでもOK”と場所も指定しませんでしたが、最後にどんな議論をしたか発表する、ということだけ伝えました。

代表やプロジェクトリーダーなどはあえて議論にいれずフリーにして、いろいろなグループに顔を出してもらいました。


初回の結果としては、自己紹介としてお互いの趣味や家族のことなどを伝え合うだけで終わったグループもあれば、アトラエの課題について話したグループ、採用について話したグループなどさまざまでしたね」
その後も「アトラエの中長期ビジョン」「自分が経営者だったらどこまで経費精算を認めるか」「代表の新居に自由に疑問をぶつけてみよう」など、いくつものテーマ・コンセプトでATPFが開催されました。

南 「とある回で、1年目のメンバーが『社長やプロジェクトリーダーたちの通称が“ボードメンバー”ということに違和感がある』という意見を出してくれたのが印象に残っていますね。

アトラエは役職や出世がない組織なのに、“ボードメンバー”と聞くと、偉い人たちのように聞こえると。ほかのメンバーはそんな視点をもっていなかったので、『そういう風に聞こえるんだ』という新たな発見がありましたね。

アトラエは単に批判するだけで終わることを嫌う組織なので『じゃあどうしようか』と、その後みんなで代替案を出し合ったんですが、まだ良い案が定着していなくて、今でも募集中です(笑)。


ほかにも、『経営ミーティングで何を話しているかわからず不透明』という意見が出たので、それ以降は議事録が公開されるようになり、ATPFで出た意見はすぐに取り入れて組織改善につなげるようにしています」

メンバー全員が『経営者視点』をもつ強い組織に進化する

カジュアルな話し合いの場が設けられたことで本音で語り合えるようになり、メンバー同士の相互理解が深まっていきました。また、新居がメンバーに直接考えを伝える機会が増えたことで、単なる言葉だけではなく、“熱量”も伝わります。

ATPF開催を機に、「wevox」の「人間関係」「ミッション・ビジョンへの共感」に関する項目のスコアも向上しました。逆に開催されない期間が長いとスコアが低下する傾向があり、ATPFの重要性を物語っています。

林 「以前は、単に『給与をあげてほしい』とだけ言っていたメンバーが、アトラエに対する理解が深まっていくにつれて『もっとビジネスを盛り上げてみんなで給与を高めていきたい』という考えに変わる、ということもありました。

そういった変化も多いので、2018年11月現在、ATPFの開催は四半期に1度にしていますが、今後も組織の役に立つテーマで開催しつづけていきたいですね。

また、ATPFをはじめる前と比べると、メンバー間に生じていた“価値観のズレ”は解消されていると思います。今後は、全員が“経営者”として戦えるような強い組織にすることも目標に据えながらATPFのテーマを設定していきたいです」
南 「アトラエは、子育ての状況に応じて週3~4日の勤務にする、フルタイムでも事情に合わせて『今週だけ週2日出社』にする、といったことが認められるような働きやすい組織です。

一方で、きちんとチームに貢献することや、価値あることを世の中に提供しつづけていくという面では責任が重く厳しい組織かもしれません。ただ、何かよくない状況になったときには、失敗そのものを責められることは一切なく、挑戦したことはみんなでたたえます。メンバー同士が信頼し尊重し合い、安心して働きつづけられる『心理的安全性』の高い組織だと感じていますね。

でも、私たちが目指している「世界中の人々を魅了する会社」、たとえるならば、プロのアスリートやアーティストたちのように、熱中してお互いに切磋琢磨しているチームとしては、まだまだとも思っています。

今はまだ山のふもとなので、もっともっと高みを目指していきたいですね」

同じ夢を追いかけ、世界で戦える最強のチームになっていくために――。アトラエは、創業以来変わらない夢の実現のために、今後も挑戦しつづけていきます。

※Great Place to Work® Institute Japanが発表した、日本における「働きがいのある会社」ランキング2017年、従業員25〜99人の「小規模部門」

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