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これからの日本をつくる"働き方"のストーリー

"ベンチャー"であり続けるために。サイバーエージェントが作る、次世代育成のしくみ

株式会社サイバーエージェント
組織が大きくなってもあくまでもベンチャーであり続ける。そのために当社にはさまざまな仕組みが存在します。その中で次世代役員候補を育成するために、ゲーム・エンターテイメント事業に携わる子会社12社が所属している事業部SGE(Smartphone Games & Entertainment)で取り組んでいるのが「NBP(Next Board Program)」です。単なる教育プログラムとは異なりリアルな経営をすり込むNBPは、担当役員の浮田光樹の発案で動き出しました。

次の経営層を育てる仕組みづくり

▲取締役・浮田光樹

サイバーエージェントのゲーム事業は、2009年に副社長の日高が4名で立ち上げ、2018年現在では3,000名規模まで成長しています。人数規模は大きくなっていますが、そのコアには創業時からのベンチャーマインドを常に持ち続けてきました。

浮田 「ゲーム事業は、子会社を次々とつくり出し、1社1社の文化や組織を強くしていくフェーズから、ゲームや今ではエンターテイメント事業に携わる子会社が所属している組織として、横軸での連携も強くしていくフェーズへと変化してきました」

私たちは、これまで若手を抜擢し子会社を次々と立ち上げ規模を拡大してきました。2018年現在ではゲーム関連の会社だけでも10社以上あります。ここまで数を増やすことは、経営に直接関わる人を増やすことで、経営視点を持つ人材を増やし、企業の成長速度を速めるという狙いもありました。

浮田 「経営視点のある人が増えることは、市場で戦う上でも効率が良かった。2010年代前半はその方法で経営視点を持つトップを育ててきました。そこから後半に入り、次の経営層となる人材を子会社立ち上げだけでなく別の方法でも育てる必要が出てきました」

経営層のすぐ下にいるメンバーは事業部の責任者やサービスのプロデューサーを任されている人間など優秀な人が揃っている一方で、経営のレイヤーに上がるためにももう1段の成長が必要でした。

浮田 「担当部門視点と経営視点は当然ながら異なります。ただ、彼らがさらに上に上がらなければ『上が詰まる』状態になりかねない。それを防ぐためにも、ちゃんと人が育っている状態をつくることは重要なことでした」

人数規模も増えてきて、毎年配属される新卒社員も40名前後となり、より組織として強くなっていくためには優秀な若手をより早く成長させるためのフォローアップは不可欠。そこで提案されたのがNBPでした。NBPが提案されたのは、SGE事業部で行われる「SGEあした会議」 という合宿のなかでした。

浮田 「SGEあした会議は、SGEに所属する子会社社長がリーダーとなり社員とチームを組んで、組織をよりよくするための新規事業案や課題解決案などを提案する1泊2日の合宿です。サイバーエージェント副社長で担当役員である日高が提案された企画を決議していきます。そこで採択されたものは必ず実行されます。NBPは、2015年に私が提案し決議され、そこから動きはじめました」

同じレイヤーで議論できる仲間を見つけられる機会を提供

▲NBPに選出されたメンバーがプレゼンを行う様子

こうしてNBPは、SGE事業部の中で行われる次期役員候補を育成する取り組みとしてスタートしました。日高と浮田が話し合い15名ほどのメンバーを選出。特に期限は設けず、1年間プログラムに参加し、3割弱が卒業し入れ替わっていく仕組みになっています。

浮田 「招集するメンバーは、その都度経営的な視点が必要となる人です。子会社ごと、人ごとにフェーズが異なるので、子会社社長だったとしても組織が急拡大している会社の社長であればNBPに参加した方がいいという判断になるかもしれません。実際、2017年は子会社の社長が入ったりもしています。逆に卒業するときは、いい意味で、ここでもう学ぶことがないだろうと判断した場合になります」

NBPの主な活動は2ヶ月に一度、定例で特定のテーマに対して議論を深めること。テーマは事前に伝えられ、それについてどのような提案をするかを考え、まず浮田に事前に提案をします。フィードバックをうけた内容を元に、そこから、さらにブラッシュアップされたものをNBPメンバーの前で発表。

浮田 「NBPのなかでの良い発表は、一番議論を呼んだものです。順位をつけ競い合う物ではないのですが、これまでの経験の中で培われてきたノウハウや思考を軸に、他のメンバーを含めた全員の学びにできるかを大切にしています。そのためにはいかに赤裸々に、自分で深く考えたことを話してもらうかが大事です。ときには、相談みたいな話になることもあります」

たとえば直近のテーマは「自分が決めた特定のひとりに対し、自分の成長確度より高く成長できる方法を考える」というもの。なかでも3年目までの人に絞って提案することをルールにしました。しかし、出てきた提案のなかで、一番議論が盛り上がったのは4年目を提案してきたメンバーでした。

浮田 「彼が4年目の人を出したのは、その人をどうにかしたいという思いからでした。その人は厳しい経験を一度しないとこのままではダメになってしまうといった内容の発表で、NBP内では大きく議論を呼びました。無論お題なので枠内でやる正しさはありますが、経営の本質を話したいという観点で見ると、彼が4年目を持ってきた時点で他の人よりも思考は深かった。その点でも彼の提案は優れていたといえます」

またNBPを語る上で欠かせないのが議論後の「飲み会」です。NBPにとって飲み会は同じレイヤーで戦う同士を見つける最良の機会としても提供されています。

浮田 「NBPに選ばれるメンバーは、部下を抱え、上司とも関係性を築く必要性があるポジションにいることが多い。そのため部下や上司と関わることが多くなるので、必然的に自分と同じレイヤーで悩みを抱える人とコミュニケーションを取ったり、悩みを相談することが少なくなります。

しかし、NBPでは同じレイヤーの人しかいない。そこで飲み会を開くと皆同じレイヤーで課題を抱えていたりするので、かなり議論が白熱します。その横のつながりをつくるという狙いもNBPにはあります。上のポジションになるほど苦労することは増えていく。そこで踏ん張れるよう、横のつながりを強固にすることはとても大切なことだと感じています」

子会社立ち上げ時に感じた原体験を今に

▲プレゼンを聞く、取締役副社長の日高裕介

マネジメント職となると、どうしてもメンバーのために行動をしがちです。メンバーの成長に時間を割くのはもちろん大切ですが、自身の成長に対してどうコミットしていくか、自分の成長角度に対して考える機会は横のつながりにこそあります。

NBPにおいて横のつながりを大切にしたいという思いは、浮田が入社当初に学んだ原体験にもつながっています。

浮田 「私は内定者の時に、アプリボットの立ち上げに携わり、新卒の入社と共に取締役になりました。当時は私の会社を含め、7,8社が日高の管轄として全てワンフロアで働いていました。総勢150名程度だったと思います。会社は数社あったのですが、日高を含め、それぞれの経営陣は当時すごく距離が近く、日々熱い議論を重ねお互いから学び合っていました。私が経営を学ぶ上での原体験とも呼べる場所でした」

そこから事業規模は拡大し、2018年現在SGE事業部のみでも2,000人弱の人が働いています。さすがに、ワンフロアで一緒に働くというのは難しいのですが、当時のような経営を学び会える環境を仕組みとして作り出せないか。その浮田の原体験をかたちにしたものがNBPでした。

浮田 「ベンチャーでありつづけるという気持ちを持ちながら、一方で企業規模は当時とは比べものにならないサイズになっています。この理想と規模のギャップを経営陣がきちんと向きあい、埋めることが必要だと考えています」

NBPの他にも浮田はこのギャップを埋めるための施策を提案し実行してきました。それが「フラッグ会議」です。一旗揚げるという意味が込められたこの会議には、子会社社長が参加することはありません。

浮田 「経営層を除いた社員の中から全社を俯瞰してみて、最適な提案を行ってもらう『フラッグ会議』では、経営視点で全社を見てもらう経験値の蓄積になればと思っています。同時に、経営層に対して下の層からの突き上げの意味もあり、常に下から追い立てられることで上の層もさらに努力をし最大のパフォーマンスを発揮することを狙いました」

次の世代を輩出し、成長を止めない仕組みづくりを続けていく

▲フラッグ会議でのチーム写真

NBPを中心に、組織規模の大きくなったSGEにおいて、ベンチャーマインドを保ち続けようと施策を展開してきた浮田。ここまでいくつかの施策をやる中でも、決して現状に満足することはありません。

浮田 「NBPに参加したメンバーから役員が生まれたりはしていますが、彼らがNBPに参加しなかったら役員になれなかったのかといわれれば、それは分かりません。役員になってどのような成果を残していけるか、ひいては社長になれるのかなどによってNBPの真価がこれから試されていくと思います」

2018年1月からは、NBPをより強化するための施策もはじまっています。サイバーエージェントでは数々の社内制度がありますが、そのどれもが恒久的に存在するワケではなく、常にアップデートされたり、入れ替えられたりと変化し続けています。NBPにおいても、役目を終える瞬間が来てくれることを浮田は期待しています。

浮田 「理想は、現状のNBPメンバーが、日高のようにNBPを主宰する側になれれば、プログラムとしては一定の役割を終えるのかも知れないと思っています。いまのトップは藤田も日高も40代。新卒と比べれば20歳近く年が違う。経験値も圧倒的に違う中でここのギャップが埋められないと、サイバーエージェントらしく成長することが難しくなってしまいます」

これからも若手が成長し市場をつくっていく、そういったサイバーエージェントらしく成長するためには、次のリーダーたちが育っていくことは必要不可欠です。NBPだけでなく、フェーズにあった施策を考え実施し、成長を止めない仕組みづくりをしていきたいと考えています。

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