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WORKSTORYAWARD2021

これからの日本をつくる100の“働く”をみつけよう「Work Story Award 2021」の受賞ストーリー、
一次審査通過ストーリーを公開しています。

老舗企業の新たな挑戦。土屋鞄製造所の「つ な が り」を大切にした働き方改革

株式会社土屋鞄製造所
1965年に創業し、ランドセルや鞄、財布の企画から製作および販売までを行う土屋鞄製造所。多様な職種・人材が所属する中、人事労務課では平等な人事制度の導入に難しさを感じていました。ある出来事を契機に新しい働き方の実現に挑戦した同課の吉田 倉康と神原 麗子が、取り組みの過程や実現させたい想いを語ります。

「人材こそ宝である」。変革の時を迎えた土屋鞄製造所

▲人事労務課のメンバー

2022年2月時点で、土屋鞄製造所にはおよそ600名の従業員が在籍し、職種は製造(職人)や店舗スタッフなど20種類以上があります。また、働く従業員の年齢幅が大きいという特徴もあり、すべての従業員が納得できる働き方の推進が難しい状態でした。

吉田 「職種や年齢幅に加えて、ライフステージも多様な人材が多く、平等な人事制度の導入が難しかったんです。とはいえ、人事制度を変えなくても従業員は普通に働いている。当社にとって人事制度の整備は、決して『重要度の高いこと』ではありませんでした」

評価制度や目標管理の制度を取り入れてはみたものの、運用がうまくいかない日々。そんな中、ある従業員が「働き方」を理由に退職します。この出来事は経営陣の考えを変化させ、人事労務課が新たな人事制度を導入するきっかけにもなりました。

吉田 「現在はいろいろな働き方が推奨されていますが、当社では『始業時間』と『終業時間』がきっちり定まった働き方しかありませんでした。ただ、従業員にもそれぞれの人生があって、ライフステージは変化していく。従業員のライフステージが変化したときに、当社で長く働き続けられると思える環境の整備ができていませんでしたね。

このままではいけないという気持ちが経営陣にも生まれ、『人材こそ宝である』という考えのもと、新しい人事制度の導入に踏み切りました」

まずは経営陣に新たな人材を招集し、労務課の人員強化に取り組みます。その中では、何のために新しい人事制度を導入するのか、改めて目的を考え直すことを大切にしました。

新しい人事制度「つ な が り」に込められた想い

新しい人事制度を導入する目的は、「生産性を高めるために働き方を柔軟にすること」と定めました。そして、この目的を達成するために、2020年の1月から4月にかけて、7つの制度を一挙に導入します。

吉田 「職種や年齢、ライフステージに合わせた働き方が選べるように、7つの制度を導入しました。導入したのは、フルフレックスタイム制・定年再雇用制度・リモートワーク制度・副業制度・短時間勤務制度・地域限定社員制度・時間単位有給休暇制度の7つです。

7つの制度を導入したことで、60歳を超えた社員がイキイキと働けるようになったり、時間単位で有給を取ったりできるようになりました。中には、子どもがいる従業員が在宅勤務の休憩時間に免許センターに通い、免許を取得した例もあります。働きながら新しいことに挑戦し、自分の行動範囲を広げられた例ですね。

会社としては、副業を認めたことで、多様な人材を確保できるようになりました。もちろん、当社で長く働いてもらうことが前提ですが、自分のやりたいことを持っている従業員もいます。従業員が自分のやりたいことに挑戦できる環境を作ったので、意欲を高く持った人が働いてくれていますね」

7つの制度を含めた人事制度には「つ な が り」という名称がつけられました。そこには、人事労務課のある想いがあります。

吉田 「『つ な が り』には、『つちやかばんとながくリレーションを深められますように/リンクし続けられますように』という意味が込められています。当社で働いていることを誇りに思ってほしいですし、少しでも長く働き続けてもらえたら、それほど嬉しいことはありません。安心して長く働き続けられることは、日本のものづくりが長く続くことにつながるとも考えています」

新しい人事制度の導入がきっかけとなり、「より他部門のことや従業員のことを知る必要がある」という認識が、人事本部内に生まれました。その一環として、社内のコミュニケーションの活性化等を目的にコミュニケーションデザイン課が作られ、社内報が立ち上がったり、この効果で今までより社内コミュニケーションが生まれたりなど、従業員同士の理解が深まるきっかけにもつながったと吉田は話します。

すべての従業員が制度のメリットを受けられるように

新しい人事制度を導入し、従業員が働きやすい環境の整備に取り組んでいる土屋鞄製造所。しかし、制度の導入にあたっては悩む部分が多くあったと神原は話します。

神原 「7つの制度はそれぞれ関連しているので、すべてを一挙に導入することについて、負担は感じませんでした。しかし、リモートワークやフレックスといった制度は、製造部門で働く人たちは取れません。このように、制度の恩恵を受けられない従業員がいることは悩みましたね。どのようにフォローをすればいいのか、さまざまなことを考える必要がありました」

工房で働く職人や店舗で働くスタッフなど、さまざまな職種の従業員が働いている中で、環境によって不公平感が生まれないよう、悩みながらも調整を進めていた人事労務課のメンバー。しかし、ある言葉が人事労務課の心を打ちました。

神原 「フレックスやリモートワーク制度について、職人や店舗スタッフの数名に話をしたところ、『本社は自由でいいですよね』という声があったんです。やはり、部門間での不公平さはなくしきれていなかったんです。だからこそ、『本当に誰もが損をしない制度を作らなければいけない』と痛感しましたね」

それぞれの職種で働き方が異なる以上、すべてを一緒にすることは難しいという現実。それでも、すべての従業員が制度のメリットを受けられるよう、人事労務課としてできる限りの工夫をしました。

神原 「フレックスやリモートワークといった制度を使えない従業員でも、時間単位で有給が取れたり、出社が必要でも融通が利くようにしたりなど、さまざまな工夫を取り入れました。『一緒に働きやすい環境を整えていきましょう』という雰囲気を生み出して、すべての従業員が制度のメリットを受けられるようにしています」

従業員がハッピーでなければ、いい製品を作れない

新しい人事制度は、従業員にとって多くのメリットがある一方、課題も残しています。

神原 「一時的に残業時間が減少したという効果はありましたが、その効果が本当に制度のおかげなのか、まだはっきりわかっていない部分があります。また、リモートワークでも生産性があがるとは考えているものの、会社全体としてどのように生産性をあげていくのか、具体的な方法は決まり切っていません。まだまだ改善が必要だと考えています」

課題が残っているものの、「つ な が り」の導入によって少しずついい効果が出始めていることも事実。効果を実感している吉田と神原は、制度を通した理想像を明確に持っています。

吉田 「当社のミッションは『時を超えて愛される価値をつくる』です。現在、私はこのミッションを社内に浸透させている過程にいます。浸透させることと同時に、人事労務課は何をすればこのミッションに近づけるのかを考えたとき、大切なのは『従業員がハッピーな状態を保つ』ことでした。

従業員がハッピーでなければ、いい製品を作ることはできません。店舗で接客をするスタッフもハッピーでなければ、お客様に長く愛していただける接客は難しいでしょう。だからこそ、従業員みんながハッピーな状態を作れるよう、制度をもっとよくしていきたいです」

神原 「人事労務課の共通認識は、『働く従業員のハッピーを創造する』です。従業員がハッピーな状態で働きつつ、『なりたい自分』を明確にして、お金だけじゃなく土屋鞄で働く意義を見いだしてもらえたら、労務課としては嬉しいですね」

従業員が働きやすい環境を整備し、いい製品を作る。土屋鞄製造所の挑戦はこれからも続いていきます。