そこで私は、自分が思い付いた改善のアイデアをせっせと担当者に話して交渉を行うことにしました。ですが、なかなか決定的な改善に至らない。そのためここは粘り強く、一つひとつバントを決めていくしかありませんでした。
それは月1でとっておきのメニューを提案したり、カフェを開催したり、ランチタイムコンサートを行ったり、食堂を“無機質に何かを飲み込む場所”ではなく、“人が集う場所”に変えたいと考えていたからです。
その想いに賛同し、レシピの考案や助言を与えてくれたのが、商品開発部に所属(当時)していた鍵和田 崇でした。彼の食に対するこだわりと想い、数多くのアイデアと信念、調理の技術を知り「外部の力を使うよりも、フジッコの社員発でメニューを披露した方が面白いに決まってる」と、早速、彼を味方に引き込むことにしたんです。
食堂以外でも、お料理倶楽部という部活を立ち上げ、従業者の意識と行動の変化を見守ることにしました。すると、どんどん人と活動の輪が広がっていったんです。部活については、部員が自分たちであれこれと工夫して楽しんでいる様子を目の当たりにし、「みんなちゃんと“食”に興味を持ってる!」という根拠と確信を得るに至りました。
そうこうしているうちに、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、会社の「けんこう」に対する価値観が大きく変化。ついにフジッコは「健康経営」に舵を切ります。私自身も、人事異動で正真正銘の“社員食堂の運営担当者”となっていたこともあり、2020年10月から、毎月第4金曜日、月に一度だけ、この食堂で「食べることとしっかり向き合って欲しい」という想いを込めて、「おいしさ×けんこう食堂」をオープンすることとしました。
第4金曜日にした理由は、“週末と月末のダブルの開放感”。おいしいものを食べて、良い気分で家に帰ってもらおうと思ったんです。食堂の名前は、会社のスローガンから拝借しました。
ここで大事にしたのは、「おいしさ」と「けんこう」、そして、前職で幹部自衛官として、正しいことを訴え過ぎて、部下にそっぽを向かれた“しょっぱい経験”を教訓に、「アソビゴゴロ」をプラスしました。
正しいことを真面目に伝えても響かない。だからこそ、この取り組みでは、「アソビゴゴロ」を大事にしました。「塩分は控え目に!」と言われると、何となく叱られている気がしてしまうじゃないですか。だったら、“塩分が少なくても、おいしいと感じるものを出せばいい”、というわけで、“減塩味噌汁”の代わりに、旨味と栄養がたっぷり入った“ボーンブロススープ”を提供することにしました。
このほか、”糖分がたっぷり入ったドレッシング”の代わりに、“ヨーグルトで作ったお手製のドレッシング”を、“白米”の代わりに”雑穀米”を提供するなど、「おいしさ」を実現するための工夫を随所に凝らしました。
次に、食堂の売り上げを伸ばす方法を考えました。普段あまり利用しない人が食堂に来るきっかけを作ろうと、従業者が出勤してくる時間帯から、ストレスなく食券が購入できる動線を整え、さらに、とっておきのサラダやスープを「単品で・コンビニより安価で」オーダーできる仕組みを構築しました。
コロナ禍で出社人数が抑制されている中ではありましたが、確かな手応えを感じました。