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マインドフルネスとの出合いが人生を変える──伝え続けた5年間のキセキ

パナソニック株式会社 インダストリー社 / P-Pauseチーム 
40歳のときに課長に就任した経営企画部主幹の村社 智宏。就任当初は、部署内のメンバーとのコミュニケーションや、各人のスキルアップ、スキルチェンジに頭を悩ませていました。そんな村社の人生を変えたのがマインドフルネス。社内サークルでマインドフルネスを5年間伝え続けた、村社のあゆみを振り返ります。

恵まれた職場のおかげで出合えたライフワーク

▲マインドフルネスサークル「P-Pause」の発起人・村社 智宏

パナソニック株式会社に入社以来、設計開発畑を歩んできた私は、ちょうど40歳のときに課長という立場で開発管理の部署に異動となりました。部署のメンバーは全員が私より年上で、一番近くて3歳差くらいだったと思います。最初のうちは会話も仕事の話がメインで、部下とのコミュニケーションや、各人のスキルアップ、スキルチェンジに頭を悩ませる日々でした。

自己啓発が好きな私は、自分のための社内外研修はたくさん受講してきたのですが、どれも仕事の一部に役立つスキルにすぎませんでした。そこで私は、自身も含めた部署のメンバー全員に例外なく役立つもので、それでいて科学的にきちんと裏付けされたデータはないものかと探していたんです。

そんな悩みを解決してくれたのが、社内にある健康管理室の保健師さんでした。私は保健師さんから、マインドフルネスというものがあることを教えてもらいました。マインドフルネスとは、「今ここ、この瞬間に意識を向けること」で、代表的なトレーニングが瞑想です。

保健師さんに加え、産業医の先生もマインドフルネスに詳しかったのは、私にとって幸運でした。

この奇跡的に恵まれた職場環境のおかげで、私はのちにライフワークとなるマインドフルネスと出合うことができたのです。

ほどなくして、NHKのマインドフルネス関連の番組を見る機会がありました。とても興味深い内容で、さっそく効果の有無を試してみたい衝動に駆られ、そろばんを習っている我が子2人で試してみることにしたのです。

トレーニング前の子どもたちは、足をぶらぶらさせ体もぐらぐらしていましたが、トレーニング後には足も体も終始まっすぐで、集中している様子がよくわかりました。

そして、なんと20%も結果が良くなったのです。一人は正解率が上がり、もう一人は解くスピードが上がりました。

私は目の前で我が子に変化があらわれたことで、マインドフルネスは集中力を高める効果があると確信し、社内サークルの立ち上げに突き進むようになったのです。

創業者・松下幸之助氏のエピソードを引き合いに浸透をはかる

▲「P-Pause」のデザイン入りTシャツを着用したコアメンバー

マインドフルネスの認知度を高め、社内で実施できる環境を整えるまでの道のりは、決して容易ではありませんでした。

最初の難関は、開発の職場の片隅に、簡易の休憩室兼トレーニング場所を作ることでした。

休憩室を作ること自体は、課長という立場上できなくはなかったのですが、マインドフルネスの始まりと終わりの合図に鐘を鳴らすため、その音に対して周囲に理解してもらうのに苦労しました。

新しいことを始めるとき、周囲の理解を得るステップがとても大事です。今でこそ、マインドフルネスという言葉は世間一般にもある程度知られていますが、私が始めた当初はまだ認知度が低く、当時所属する子会社の社内での認知度はわずか7%だったのです。

私は社内の理解を得るため、開発の全員にセミナーを受講してもらい、価値を伝えようと考えました。

子会社全体に広めていく段階では、当時の人事部長の説得に約3カ月かかりました。マインドフルネスは決して怪しいものではなく、きちんと効果があることへの理解が進み、「リーダーに学んでもらおう」「社員のやりたい人だけやったら良い」ということになったのです。

社内のキーパーソンに伝える際に重要なことは、その会社の中での文脈です。たとえば、海外のメーカーやIT企業で導入しているといった事例を挙げただけでは、自社への導入は困難です。

我が社の場合は、創業者である松下幸之助氏が自己観照として毎日瞑想を実践し、メタ認知(自分を客観的に知ること)が大事だといわれていたことを引き合いに出したのが功を奏しました。

そして、私が衛生部会長になり、「社員の体と心の健康のため」という形での導入を進めていきました。この段階で重要となったのは、社内の専門家を味方につけ、連携することです。健康管理室の産業医の先生と保健師さんのお二人は、マインドフルネスを熟知されており、トレーニングのガイドもよく学ばれていたので助かりました。

また、外部の専門家の協力も必須です。人事が予算を確保してくれて、日本にマインドフルネスを広める団体の講師に来てもらい、2時間のセミナーをリーダー向けや社員向けとプログラムを変えながら複数回実施しました。そういった活動を続けているうちに、健康組合の社内誌にマインドフルネスのサークル活動が掲載されたのが、会社全体の活動へと広がる契機となったように思います。

サークル活動のシンボルロゴ「P-Pause」に込められた想い

▲グッドデザイン賞2017で特別賞を受賞した車載モニターの模型

マインドフルネスを実践し続けたことによる私自身の大きな変化は、コミュニケーションとアウトプットの質です。

とくにそれを実感できたのが、自分の課の部下10人とスタートした、月1回30分の「1on1ミーティング」でした。最初のうちは固い感じでしたが、回数を重ねるごとにだんだんと打ち解けていき、気難しいタイプの研究者も自分のやりたいことを話してくれるようになりました。マインドフルネスのトレーニングで、相手の言葉に注意を向けることができていたのかもしれません。スムーズに仕事ができ、部署全体のアウトプットの質も高まったと感じています。

実際、サークルでのトレーニング実施前と比べて、私の部署では上司のリーダーシップが上がった、サポート力が上がったといったEOS(従業員意識調査)のアンケート結果が出ていて、組織の中での効果も感じられるようになりました。

また、サークル活動のシンボルロゴ「P-Pause」を作成したのも、印象深い出来事です。

一緒にトレーニングする仲間が増えてきた頃、活動のシンボルとしてロゴを作ろうと提案。コンセプトを出し、社内のデザイナーに素案を描いてもらい、皆で話し合って決めるまでにトータル3カ月ほどかかりました。

サークル名「P-Pause」のPは、PanasonicのP。リモコンの一時停止ボタンを押しているイメージで、「コンセントから抜いてひと呼吸しよう」「指でPauseボタンを押して、ひといき入れよう」という2つの意味が込められています。色はパナソニックブルーを使うことで、社内活動としての統一感を意識しました。

コアメンバーのスタッフは、体験会のイベント開催時にはデザイン入りTシャツを着用し、スタッフとして参加します。コロナ禍で平日毎日の昼休みに欠かさず実施するオンライントレーニング時に参加メンバーがバーチャル背景を背負い、一体感を醸し出しています。

さらにもう一つ、個人としても嬉しいことがありました。デザイナーとの連携で制作した車載モニターのモックアップ(模型)がグッドデザイン賞2017で受賞したのです。当時の私はディスプレイの開発をしていたのですが、新しいことをやりたいというモチベーションが高まり、社内の別の部署と連携し、外部メーカーも使って3カ月で実物大のモックアップを制作。その出来がとても良いとのことで、グッドデザイン賞へ応募したいという提案が社内のデザイナーからありました。

4,495件の応募作の中からベスト100に選ばれ、さらに特別賞「未来づくり」6作品の一つにも選ばれました。部品メーカーが完成品のイメージを展示することは少なかったため、エンドユーザーからも脚光を浴びたのは本当に嬉しかったですね。これも私のリーダーシップが高まった結果だと感じています。

究極の目的は会社をマインドフルにすること

▲2021年9月、読売テレビの取材を受ける村社

マインドフルネスを社内サークルで皆と一緒に取り組むメリットは、変化に気づいてくれる仲間の存在が最も大きいです。お互いに気づきを与え合うことで、継続する励みになります。自分で自分の変化には気づきにくいものですが、家族や同僚から「感情が豊かになった」「やさしくなったね」「理不尽に怒らなくなった」など、プラスの変化を指摘する声をいくつも聞いています。

私にとってのマインドフルネスとは、人生を変えたもの。といっても、新たな知らない自分に変化するのではなく、もともと持っていた感覚を取り戻したというだけです。五感の感覚が研ぎ澄まされ、子どもの頃に感じた感覚や価値観を思い出しながら取り戻し、再び豊かな感覚を味わっています。

「P-Pause」の活動は、2021年9月には読売テレビ、12月には関西テレビからも取材を受けました。やっと時代が追い付いてきたと感じる一方で、一過性のブームで終わらせてほしくはありません。個人差はありますが、粘り強く、週3回くらいのペースで続けないとなかなか効果に気づきにくいので、ちゃんと体験して、マインドフルネスの本当の良さを知って継続してほしいですね。

2020年4月に私は社内カンパニー直轄の部署に異動となり、社員15,000人対象の風土活性化「MAKE HAPPYプロジェクト」のリーダーを務めています。顧客をハッピーにするためには、まず社内で社員をハッピーにする後押しを、という趣旨のプロジェクトです。この時に、社内SNSを使って「P-Pause」をオンライン部活動に発展させました。マインドフルネスを活用した、幸せ担当CHO(Cheif Happiness Officer)を目指し、さらなる学びを続けています。

今はコロナ禍で難しい状況ですが、いずれまたリアルで反応を見ながらマインドフルネスの良さを伝える機会を持ちたいですね。

会社を幸せにするために何をしたら良いか。組織や個人によってさまざまな考え方があるでしょう。私は、会社の風土を良くするためには、会社に呼吸をさせて、風通しのいい雰囲気づくりをするのが重要だと考えています。人には深呼吸をさせることができますが、会社に深呼吸させることは困難です。

「会社をマインドフルにしたい」

これこそが、私が社内でマインドフルネスサークル「P-Pause」に取り組む究極の目的です。