マインドフルネスの認知度を高め、社内で実施できる環境を整えるまでの道のりは、決して容易ではありませんでした。
最初の難関は、開発の職場の片隅に、簡易の休憩室兼トレーニング場所を作ることでした。
休憩室を作ること自体は、課長という立場上できなくはなかったのですが、マインドフルネスの始まりと終わりの合図に鐘を鳴らすため、その音に対して周囲に理解してもらうのに苦労しました。
新しいことを始めるとき、周囲の理解を得るステップがとても大事です。今でこそ、マインドフルネスという言葉は世間一般にもある程度知られていますが、私が始めた当初はまだ認知度が低く、当時所属する子会社の社内での認知度はわずか7%だったのです。
私は社内の理解を得るため、開発の全員にセミナーを受講してもらい、価値を伝えようと考えました。
子会社全体に広めていく段階では、当時の人事部長の説得に約3カ月かかりました。マインドフルネスは決して怪しいものではなく、きちんと効果があることへの理解が進み、「リーダーに学んでもらおう」「社員のやりたい人だけやったら良い」ということになったのです。
社内のキーパーソンに伝える際に重要なことは、その会社の中での文脈です。たとえば、海外のメーカーやIT企業で導入しているといった事例を挙げただけでは、自社への導入は困難です。
我が社の場合は、創業者である松下幸之助氏が自己観照として毎日瞑想を実践し、メタ認知(自分を客観的に知ること)が大事だといわれていたことを引き合いに出したのが功を奏しました。
そして、私が衛生部会長になり、「社員の体と心の健康のため」という形での導入を進めていきました。この段階で重要となったのは、社内の専門家を味方につけ、連携することです。健康管理室の産業医の先生と保健師さんのお二人は、マインドフルネスを熟知されており、トレーニングのガイドもよく学ばれていたので助かりました。
また、外部の専門家の協力も必須です。人事が予算を確保してくれて、日本にマインドフルネスを広める団体の講師に来てもらい、2時間のセミナーをリーダー向けや社員向けとプログラムを変えながら複数回実施しました。そういった活動を続けているうちに、健康組合の社内誌にマインドフルネスのサークル活動が掲載されたのが、会社全体の活動へと広がる契機となったように思います。