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WORKSTORYAWARD2021

これからの日本をつくる100の“働く”をみつけよう「Work Story Award 2021」の受賞ストーリー、
一次審査通過ストーリーを公開しています。

「男性育休100%宣言」達成に向けて。浸透による企業文化・風土改革

株式会社トモエシステム
株式会社トモエシステムは、神戸に本社を構える産業用機械部品を扱う専門商社です。採用難に苦しむ中、2016年より「働きがいと働きやすさを追求」した社内改革を実践。2019年3月の「男性育休100%宣言」を機に、多くの直接的・間接的効果を生んだ取り組みを、執行役員人事総務部長の大竹 祥司が語ります。

あるのに活用されない男性の育休制度。その背景にあったものは──

▲トモエシステムの頼もしい社員たち

トモエシステムは、2022年に創業75年を迎えます。商社としての枠を超え、単に製品を提供するだけでなく、大手機械メーカーの企画・開発段階から参画し、コンセプトに応じた部品の組み合わせをサプライヤーとともに提案、納入するのが強みです。この「ともに創る」独自のビジネスモデルは、国内外から高く評価されています。

ビジネスでは新しい価値を創造し続けている一方で、社員の働き方としては一部、古い時代の価値観が残り続けていました。その一つが男性の育休制度です。

男性の育休制度はあっても「休んだら席がない」と言われた時代の価値観が残ったまま。根本的には変えられずにいる企業が日本国内には実に多く、当社もまさにそうでした。

女性社員の産休・育休・復帰は100%ですし、家族の出産時には有給休暇を使うことが慣例となっているものの、男性社員の育休取得は2018年まで0%。育休取得第1号はなかなか現れません。男性の育休取得に反対はしないものの、会社として積極的に勧めるという文化はなく、個々の社員がこれを歓迎するような風土も当然ありませんでした。

2016年より現在まで「働きがいと働きやすさを追求」した本格的な社内改革を実践する中、2019年3月に代表取締役社長の柳瀬 秀人と私が、一般財団法人日本次世代普及機構(ホワイト財団)主催のホワイト企業アワードの式典に参加。株式会社ワーク・ライフバランス代表 小室 淑恵氏の基調講演で「男性育休100%宣言」を知り、同日中にさっそく社内宣言をすると決定し、翌営業日に発信しました。

日常業務の価値を見直す好機と捉えることで戦略的浸透をはかる

▲育休に伴う業務の引き継ぎの過程が、日常業務の価値を見直す好機に

一般的に、男性の育休取得率を上げるにあたり、最大の課題となるのが、経営層をはじめとした組織長の理解や本気度ではないでしょうか。その点、当社の場合はトップ自らが、善は急げと言わんばかりに「男性育休100%宣言」を社内にスピード発令しました。

反対に課題になったのは、対象となる社員や周囲の社員の価値観の転換でした。経営トップが宣言しただけで、職場の雰囲気が一変して誰もが自然に取得するほど、人間は変化に馴染んでくれません。

忌引きは突然発生する休暇のため、引き継ぎなどできることは限られてきます。しかし、これから生まれてくる新しい命に対しての育休であれば、計画的に準備や対応ができるはず。日常業務の価値を見直す好機と捉えることで、組織全体に戦略的浸透を図ろうと考えました。

男性育休取得100%宣言の社内発信時に、第1号として財務管理部情報システムマネージャーの海士部 豪が対象者となりました。取得時期は第1子誕生の2019年7月で、期間は1週間です。

情報システムの要であり、専門性が高いことに加えて、休暇を取りにくい時期でした。しかし、企業文化・風土体質の大きな転換点であることや超売手市場の採用で勝ち残る戦略的な制度となりうること、今後同じように家族の出産を迎える男性社員の前例となり、全社員の価値観を変える絶好の機会であることなどを彼に伝え取得を促しました。

計画的な育休を前に、まずは休暇を取得する対象者自身が自らの業務の棚卸しを行うところからスタート。ジョブリストを作成し、業務のABC分析を経て不要な業務や統合できる業務を洗い出しました。

業務の引き継ぎをしていく過程で、通常業務の中ではなかなか気付かない部分が見えてくるものです。主要業務の本来価値を問う姿勢が見られるようになり、合理化・生産性の向上にも繋がりました。仕事には、専門性を問う創造的な仕事もあれば、属人化すべきでない仕事もあります。無駄を省いてしっかりと準備すれば代替可能な業務を共有化し、リスクを軽減する動きができます。

また、時間内の成果・結果を残すタイムマネジメント、マルチタスク、リスクマネジメント、引き継ぎに伴う同僚・後輩などへの育成能力など、総合的な人材力が向上したのも大きな成果だと感じています。海士部は、「最初は不安でしたが、家族と過ごす時間が増えて嬉しかった」と語ってくれました。

必要なのは安心感。育休取得を後押しした「パパ休暇・ママ休暇規定」

▲「パパ休暇規程・ママ休暇規程」があるから、育休中でも生活面が安定

当社では、「男性育休100%宣言」の目標達成のため、そもそも父親になるにあたってどんな休みがあるのかを、まとめてわかりやすく示しました。また、育休取得で手当5万円を支給するルールも導入しました。

育休期間中は雇用保険から月給の67%が育児休業給付金として支給されますが、収入が減ってしまいます。そこで、当社では出産手当とは別に育児休業手当としてプラス5万円が支給される規定を設けました。

「休んでも給与が大幅に下がらない」と規定すれば、社員の生活面は安定します。こうした制度設計を「パパ休暇規程・ママ休暇規程」として定め、対象者には文書を手渡し、周囲の支援を会社からも強く呼びかけました。ひと言で言うと、ムード作りですね。宣言をして、会社からお金も出します。だから、皆さん支援してね、という風土の醸成です。

こうした工夫もあり、制度は徐々に浸透。社内の地慣らしをする段階へと進みます。

そして、育休取得第2号となったのが営業管理部マネージャーの川口 友久です。川口は育休取得第1号となった海士部の支援者の一人。取得時期は2019年10月で、期間は9日間です。

「産後ひと月までは妻の体調も万全ではないので、その頃に取得したかった。家事育児の大変さを実感するとともに、妻に一層の感謝の気持ちを持ちました」と、川口は当時を振り返ります。また、「子どもと触れ合う時間が増え、次の日の活力になっていた」といい、「休んだ間フォローしてくれた人たちに感謝です。逆の立場になったら協力は惜しみません」とも話してくれました。

社員と会社が『ともに創る』関係性を重視

▲「つなぐ力」で「ともに創る」成長と幸せを実現

男性育休取得100%宣言は、社内改革で苦労なく進めた取り組みでしたが、新聞・TV・雑誌などで数多く取り上げられたことで、企業イメージの向上が図れました。それと同時に、社会においても重要な取り組みであることを社内にも周知できたと感じています。

人事総務部 広報担当の船曵 優花は、当社が2021年11月、兵庫県による「ひょうご仕事と生活のバランス企業表彰」の表彰を受けたインタビュー記事が神戸新聞に載った際、両親や祖母が「いい会社に入ったね」と喜んでいたと話してくれました。

その他にも、ポジティブな影響は多くありました。

2014年時点で、当社の離職率は14.5%と業界平均並みでした。その後、社内改革を始動した2016年から翌年にかけて若干上昇したものの、それ以降は低下の一途をたどり、直近では2.3%と平均を大きく下回っています。

また、新卒採用ではエントリー数が約3倍、説明会参加人数は約5倍に増加するなど、応募者の資質も多様性にあふれ、個性が光る人材が多く集まるようになりました。

当社の働き方改革は特に新規性があるわけでもなく、面白みのある政策でもありません。大したことをしているとは思っておらず、何年か先には当たり前になることを、世間一般よりも少し早く取り組んでいるだけの話です。ただ、それぞれの施策が新しい価値観を醸成する「てこの力点」となったことは実感しています。

もし、応募者へ魅力的に映っている点を挙げるとすれば、「社員の幸せ」を第一義とする考え方と、あるべき像への清らかな姿勢、小さな組織ゆえのスピーディーな意思決定・実行力、さらに純粋なメンバーに恵まれた浸透力ではないでしょうか。

私たちは「つなぐ力」で「ともに創る」成長と幸せを実現し、分かち合いながら、「社員とその家族が幸せな人生を送ることが、最も会社を強くする」との仮説を推進・検証しながら、さまざまな形でトライし、日々模索しています。

働く人も、働き方も百人百様です。型にはめて縛ってしまうと、どうしてもその個性は弱くなってしまう。競争力を高めていくためには、柔軟で良いのではないかと思っています。前向きな失敗も多いですが、その都度修正するしなやかさを大切に、仕組みや運用で乗り越えていきたいですね。