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利益より優先すべきは社員の健康 |IT企業が取り組んだ「健康経営」の全貌

SCSK株式会社
システム開発やITインフラ構築など、幅広いITサービスを提供するSCSK株式会社。IT業界の未来、そして日本社会への未来の危機感から始まった「健康経営」は、他のIT企業からも注目を集めています。ライフサポート推進部長の杉岡 孝祐が健康経営の詳細を語ります。

残業・休日出勤が当たり前の状態に抱いた危機感

▲これまでのIT業界(長時間残業、休日出勤など、3Kと揶揄されることも)

当社を含めたIT業界の多くの企業では、以前より残業や休日出勤が当たり前の状態になっていました。

杉岡 「IT業界では何よりも『人』が最大の経営資源であり、当社に多く在籍するエンジニアが、活躍する上では『健康であること』が重要です。しかし、社会の重要インフラで24時間・365日稼働が必須であるシステムを相手にすることもあり、現実は夜間に問い合わせが届いたり、作業が必要となったりしていました」

昼夜問わずに仕事があることに加え、働くことに対する風潮にも問題があったと、杉岡はいいます。

杉岡 「当社だけではないと思いますが、『夜遅くまで残っている社員はえらい・頑張っている』という風潮はありました。このような風潮が広がっていくにつれて、仕事は終わっているのに帰りづらい雰囲気も生まれていました。

また、IT業界ならではの業務特性として、優秀なエンジニアが難しい仕事をひとりで抱え込んでしまうことがあるんです。こういった特性がジョブローテーションを困難にしており、休めない状況が作りだされた結果、社員の健康状態にも悪影響を与えることにつながっていました」

そうした状況の中、当社の経営トップは、休み時間に机で寝ている社員や、深夜に帰宅する社員を待つためにタクシーが行列を作っている様子を目の当たりにします。その光景は「このままではIT業界だけでなく、日本社会の未来が危ない」と思わせるものでした。

その結果、経営トップは、当社の仕事に求められる業務品質の維持や個人が持つ能力の発揮、IT業界や日本の未来への危機感から、健康課題への抜本的な取り組みが必要と判断しました。

社員の健康を促進するために始まった2つの取り組み

▲スマホで日々の行動を記録

社員の健康を促進するための取り組みとして、当社では2つの取り組みを実施しました。

杉岡 「1つ目の取り組みは、長時間労働の改善を目的として2013年度から実施した『スマートワーク・チャレンジ(スマチャレ)』です。月間の平均残業時間を20時間以内、年次有給休暇取得率100%を目標としました。

削減できた残業代は、すべてボーナスとして社員に還元するようにしました。本来、削減された残業代は営業利益に回されることが多いと思います。しかし、スマートワーク・チャレンジは利益を上げるための取り組みではありません。個人と組織が一丸となって、働き方改革に取り組むきっかけを作りました」

2013年度から実施した取り組みでしたが、2014年度には月間の平均残業時間20時間以内を達成しました。わずか2年で目標を達成できたのは、企業にとっては成功事例として、社員個人にとっては成功体験として残っています。

杉岡 「残業時間削減の成功事例もあり、2015年度からはもう1つの取り組みである『健康わくわくマイレージ』を始めました。この取り組みの目的は、『良い行動習慣を定着させ、健康診断の結果の良化を図ること』です。

健康わくわくマイレージでは、歩数・睡眠・食生活といった日々の行動に加えて、健康診断の結果をポイント化します。そして、1年間で貯めた『マイレージ』に応じて、特別ボーナスという形でインセンティブを支給しました」

2015年度に取り組みを始めてから2021年の今年度まで、参加率は99%を維持できています。高い参加率を維持できている理由には、組織的な取り組みを実施していることが挙げられます。

杉岡 「わくわくマイレージには役員版(通称:どきどきマイル)もあるんです。企業として、役員自らの健康を害することは、経営上の大きなリスクにつながる恐れがあります。だからこそ、組織の長として自ら先導し、積極的に取り組むことを求めました。

役員の取り組み実績が低い場合は、ペナルティとして翌年6月に支給される役員賞与が減額されます。思い切った方法ではありますが、社員の関心を引きつける効果はあったと感じます」

働き方改革を進める上では、管理者層に対しては「変化を促す圧力」をかけ、短期間で成果をだすことに注力しました。一方、社員一人ひとりに対しては「変化への安心感」を感じてもらい、社員の心に響く取り組みとなるように進めてきました。

反対の声を乗り越え、着実に出始めた成果

▲社員の行動習慣や意識の変化

2つの取り組みとも一定の成果をだしていますが、実施を決めた段階では反対の声もありました。

杉岡 「『残業を減らしなさい』という指示命令に対しては、現場の社員から反対の声も多くありました。主な理由は、『お客様に迷惑がかかってしまう』というものです。利益の低下にもつながる恐れがあったので、『本当にやるのか』と経営層に確認した人もいました」

それでもこの取り組みを実施した背景には、経営トップの強い想いがありました。

杉岡 「反対の声もあった中、経営トップは『健康か売上かどちらを取るのか』と役員に尋ねました。そして、『誰かの健康を害してまで売上を上げる経営判断をするのか』と問うと、役員は何もいえなかったんです。

健康が必要であり、健康が大切であるという考えを持たなければ、当社はもちろんIT業界全体が変わらない。変わるためには、売上や利益は一度下がっても構わないという経営トップの言葉もあり、取り組みを加速させました。

健康わくわくマイレージに関しても、実際に『会社にそこまでいわれたくない』『お節介すぎる』という声はありましたね。しかし、スマートワーク・チャレンジを通して、社員が『健康的な働き方』を意識していたため、多くの社員が参加するようになりました」

取り組みの成果としては、2014年度は71%だった朝食摂取率が2020年度には84%に、歯科健診の受診率では31%から76%に上昇しました。また、IT業界全体に与える影響も成果として挙げられます。

杉岡 「当社が実施した取り組みが成果をだすと、外部からの表彰を受けるようになり、さまざまなメディアへの露出も増えました。その結果、当社はIT業界の中でも注目されるようになり、『SCSKは働き方改革ができているのになぜ自社ではできないのか』と他社の役員は話すようになったと聞きます。

また、『SCSKは何をやっているのか』と聞かれることも増えました。情報共有を通して、それぞれの企業が自社にあった取り組みを実施されているので、濃淡はあるものの業界全体として働き方改革が進んでいると感じます」

会社の成長と個人の成長、両方を実現できる取り組みに

▲社内で開催した健康セミナーの様子(2019年)「肩甲骨体操」

杉岡 「世の中の動きとして、『持続可能性』という言葉がよく使われています。当社としては、今後も社員の視点に立った取り組みを続けていきます。

また、IT業界は工場があるわけではなく、人の手でシステムを作る業界です。人財力が高まると、会社としての継続性を高めることにもつながります。IT化が進んでいけば、地球環境を含めた持続性が高まると考えているので、技術力や能力を今後も高めていけるよう対応していきます」

技術力や能力の向上はもちろん、社員全員参加による「健康経営」も取り組み続けます。

杉岡 「健康は個人のものです。健康がゴールではなく、健康になることをスタートとして、会社や人の成長につなげたいですね。社員には自らの健康を意識してもらって、いい状態が続いていれば、その状態を継続してほしいと考えています」

会社の成長と個人の成長、両方を実現できる取り組みとして、健康わくわくマイレージをはじめとした未来につながる施策を今後も推進していきます。