沖縄のシングルマザーのための就業・協働プロジェクト〜MOM FoR STAR〜
それぞれが持つ熱い想いに共感することで始まったプロジェクト
株式会社レキサスの代表取締役社長 比屋根 隆と、株式会社フォーデジットの代表取締役 田口 亮らが主体となって推進するプロジェクト「MOM FoR STAR」。
本プロジェクトは、沖縄県が主催しているIT視察ツアーで、彼らが出会ったことから始まりました。
田口 「フォーデジットは、大きな案件を共に取り組めるパートナー企業を探していました。通常であれば本社のある東京で採用を検討するところですが、2020年から本格化したコロナ禍で在宅勤務が推進される中、リモートワークでも業務内容的に高い生産性で取り組める領域だったこともあり、都内という縛りをなくすことにしました。
そうした中で、私たちにとって思い入れのある沖縄でビジネスを推進することはできないかと考え始めたんです。フォーデジットと沖縄のつながりは、創業期までさかのぼります。初めての訪問は2003年の社員旅行。それ以来、毎年期末にあたる6月に社員旅行として沖縄へ行くのがお決まりになりました。2019年には社員も100人を超え、参加者の中には、10回以上の訪問経験がある人も少なくありません。毎年訪れる沖縄という場所にとても親近感を抱き、何かしら貢献できないかと考えるようになりました。マングローブ保護活動に寄付をしたりもしましたが、会社の事業を通して貢献できることはないか考えていたときに、比屋根さんと出会いプロジェクト立ち上げにつながりました」
視察ツアーで出会った両社は、沖縄県が抱える就労環境の課題、そして若者・子どもたちにとって、よりよい未来のために何ができるのかについて熱く語り合いました。
比屋根 「沖縄県にはさまざまな地域課題があります。とくに若くして子どもを産み、シングルマザーになった母親のもとで育った子どもたちは、その環境が当たり前だと感じてしまい、その環境から抜け出しにくい傾向にあります。
そこで私たちは、シングルマザーの方に向けてプロジェクトを行うことを考え始めました。そこには、就労環境を改善し、彼女たちがスキルを習得して夢を持って働けるようになることで、母子ともに未来へ希望を持ってもらいたいという想いがあります。
そして、その想いを実現するためには生活サポートやスキルアップ支援、沖縄県内よりも報酬水準の高い仕事が必要だと考えました」
そのような想いを持ってプロジェクトを考え始める中で、もう一つ大きな出会いがありました。しんぐるまざぁず・ふぉーらむ沖縄の代表秋吉 晴子さんです。
比屋根 「シングルマザーになった方々が、働いてもワーキングプアの状況から脱出できず苦労していること。それだけでなく、その状況が子どもの貧困にもつながっていて、子どもたちがきちんと教育を受けられずに育ち、同じように若くして妊娠出産するという状況にあること。私たちは秋吉さんの話から、シングルマザーの課題をより深く知りました。
そして、そんなお話を聞く中で、沖縄県としても何かアクションを起こさなくてはいけないという想いが強くなりました。
その結果、『夢を持って働くことを実現できれば、これらの課題を改善できるのではないか?』と考えるようになったのです。秋吉さんにも、プロジェクトに参画してもらえないかとお声がけしました」
最終的に、しんぐるまざぁず・ふぉーらむ沖縄もプロジェクトに賛同。それぞれの役割分担を明確にしながら、本プロジェクトは動き始めます。
“学ぶ・働く・つながる”の3つの活動でシングルマザーをサポート
3つの団体が互いに連携しながら構想を練り、ようやく完成したのが「MOM FoR STAR」です。
田口 「本プロジェクトの特徴は4つあります。1つ目は、Webデザインという専門スキルを身につけることで労働単価を上げ、ワーキングプアから脱却すること。2つ目は、東京を中心とした企業の業務を提供し、沖縄県外の報酬水準で働く仕組みを構築すること。3つ目は、スキル習得プログラム中も時給を付与し、チャレンジしやすい環境への支援をすること。最後の4つ目は、シングルマザーの支援団体が、生活全般および精神面をサポートし、孤独感を解消できるよう心のケアをすることです。
これらを実現するために、”学ぶ・働く・つながる”の3つの活動を行います。
学ぶ活動では、実務につながる独自のWebスキル研修を設計し、キャリアアップのためのスキルを学んでもらいます。働く活動では、東京と沖縄の企業が連携することで、東京単価の仕事をリモートで実行できる体制を構築します。さらにつながる活動で、シングルマザー支援団体がコミュニティの形成と生活・精神面のフォローを担当し、社会だけでなく参加者同士のつながりを通して、新しいチャレンジをサポートする体制を整えます」
しかし、プロジェクトを進めるにあたり、早くも問題が浮上しました。株式会社フォーデジット執行役員の花上 克希は次のように当時を振り返ります。
花上 「まず、候補者をどのようにして選ぶかという壁にぶつかりました。前提として、PCスキルは持っていてほしいですが、そうなるとスキルがない人は応募すらできません。
そこでプロジェクトメンバーで協議した結果、未経験者でも参加できるように、キーボードの入力方法やMacの使い方といった基礎的な内容も追加し、一人ひとりに合わせたカリキュラムを作成することにしました」
そうして第1期生として5名のメンバーを迎え、2021年4月より2カ月にわたるWebスキル研修がスタートしました。
次々と起こるさまざまな問題、乗り越えた先にあったのは母子の強い絆
研修スタート時は、東京から沖縄に赴き、対面での研修を進めていたという花上。しかしコロナ感染拡大にともない県をまたぐ往来が厳しくなったため、東京と沖縄をつなぐリモート研修にシフトチェンジしました。研修を進める中では、予想外の問題にたびたびぶつかっています。
花上 「受講生の中にはWebに対する知識のない方が多く、研修に出てくる単語がわからないという声があがったんです。そのためホワイトボードに100個以上の単語を並べて、まずはそこから学んでもらいました。
また、沖縄ならではの県内移動の問題もあります。沖縄は縦に長いですが、電車が走っておらず、移動は車がメインです。受講生の中には、車を所有しておらず、研修会場まで来れないということもありました。
他にも、シングルマザー特有の問題としては、子育てとのバランスがあげられます。子どもの体調によって急遽休みとなることはあるだろうと想定していましたが、緊急事態宣言による休校や、兄弟が多いと休まざるを得ないケースが多くなることもわかりました」
これらの問題と向き合うために、花上たちは問題一つひとつに柔軟に対応し、また研修振り返りシートを活用して丁寧なフィードバックを行いました。そのシートにはいくつか工夫も凝らしています。
花上 「研修でわからなかったことを記載してもらって、講師が理解不足の部分を把握できるようにしました。さらに不安を解消しながら研修を進められるよう、コメント欄を設けてコミュニケーションを図ることも大事にしましたね」
リモート研修をスタートした時は、「家に子どもがいて集中できない」と懸念していた受講生もいましたが、むしろ、家に子どもがいることが結果としていい方向に働くこともありました。
比屋根 「母親が自宅でリモートワークをする横で、休校中の子どもが勉強するという環境ができたんです。母親が仕事を頑張る姿を見て、子どもたちは仕事中は静かにしたり、積極的に家事を手伝ってくれたりするようになったと参加者から聞くことができました。まさに、当初考えていた“夢を持って働くことで負の連鎖を断つ”きっかけになるのではないかと思っています」
2021年9月、1期生5名のうち3名は研修を終え、実務に携わり始めました。
MOM FoR STARが描く、これからの未来
国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」17の目標の一つである“働きがいも経済成長も”を実現する取り組みとして、シングルマザーの彼女らの頑張りがテレビや新聞などのメディアでも紹介されました。
同じような境遇の方からの反響も大きく、現在は2期生の募集に向けて準備を進めています。そして研修を終えた1期生は、2期生のメンターとして教える立場にもなり、継続的なプロジェクトとして、コミュニティの成長を促していきます。
田口 「本プロジェクトは、経済活動を成り立たせるだけでなく、シングルマザーの方が孤立しないよう社会とのつながりを与えるきっかけになっていると感じています。
またプロジェクトを継続することで、母子ともに希望を持った未来につながっていくと思っています。MOM FoR STARのプロジェクト名のように、頑張って輝いている人がつながっていくと素敵だと思いますし、子どもたちや周囲の人にポジティブな輝きを伝えていけたら良いなと願っています」
比屋根 「プロジェクトの可能性として、首都圏の企業が本業を通して地方の課題解決に取り組んでもらえることは、地方企業にとっては希望であり、今回はとてもいい事例になりました。沖縄の抱える貧困を解決していくきっかけとなり、田口さんには感謝の気持ちでいっぱいです」
シングルマザーを支える団体それぞれが連携しあい、母子ともに安心して過ごせる未来のために立ち上がったプロジェクト「MOM FoR STAR」。
田口、比屋根、花上たちは本活動を続けていくとともに、「MOM FoR STAR」プロジェクトを多くの方に知っていただくことで、シングルマザーを含む困難な状況にある方の就労環境改善につなげていくことを、これからも目指していきます。