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「カイゼン」風土をオフィスや働き方にも。ABW導入で誰もがイキイキと働ける企業へ

トヨタ自動車九州株式会社 経営企画部 働き方・働く環境改革チーム
  • テーマ別部門賞
2001年にトヨタ自動車九州に新卒入社した岩橋 朋子。経理部からスタートし、数回の異動を経て、2021年現在は経営企画部主幹として企画部署に携わっています。そんな岩橋が近年力を注いだのは、オフィスや働き方をカイゼンする取り組みでした。働きやすい職場づくりにつながったその取り組みを、岩橋が語ります。

新オフィス棟の建設案が、新たな可能性を考えるきっかけに

▲働き方・働く環境改革チームのメンバー(左から林下 賢一・岩橋 朋子・林 佐江子)

トヨタ自動車九州株式会社は、1992年の創業時には2,000人でスタートしました。

当初は「製造」が主な業務でしたが、徐々に製造するための設備やライン構築といった「生産技術」も行うようになり、近年では「設計開発」にまで業務が拡大。従業員数は約5倍の10,000人となり、急激な増員によるオフィススペースのひっ迫と老朽化が課題でした。

2019年9月ごろに、その対応策として新オフィス棟の建設案があがります。ですが、敷地内にスペースを捻出するのが困難な上、莫大な投資が必要だったため、結果的に実現に踏み切ることはできませんでした。

そこで私は、「既存のスペースを最大限活用し、働き方や環境を変えることでスペース不足を解消できないか」と考えました。

しかし製造業では生産部門が優先されるため、工場以外に十分な予算を回すことが難しいといった現実がありました。

ただ、そんな諦めざるを得ない状況の中だったからこそ、「オフィス部門で働く社員の士気が下がっていく前に、なんとかして環境を良くしたい」という思いが、私の中で強くなっていったのです。そして、思うだけでなく、実際に動き始めました。

この時期、私は別のグループに在籍して、今とは違う業務を行っていたのですが、世の中のオフィスづくりや働き方に興味がありました。そのため、同年11月から経営企画部主事の林 佐江子(1996年に新卒入社)と共に、自主的に他社のオフィス環境や働き方をベンチマークする活動を開始したのです。

東京や福岡を中心とした企業を自分たちで探し、他社のオフィス見学をさせていただきました。

私たちの活動に上司は非常に興味を示してくれまして、世の中の働き方やオフィス環境に追従する必要性を理解してくれたのが嬉しかったです。

上司の「いいね、やってごらん」という温かいお言葉があったからこそ、本業と並行しながら興味のあることにチャレンジできたと感謝しています。

結果的にこの活動を本業とすべく、2020年1月に私は林と共に企画グループへ異動することになりました。

社内にモデルオフィスを作り、実証実験にチャレンジ

▲社内ABWの推進で、どの部署の人でも使用可能

取り組みは、社内にモデルオフィスを作り、「ABW」という働き方や什器変更などの実証実験にチャレンジすることから始めました。

ABWとは、「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の略で、時間と場所を自由に選択できる働き方のことです。当時は「ABW」という言葉が社内でまだ浸透していなかったため、学びをはさみながら進行していくことを意識しました。

次に対象オフィスを選定し、初めはフロアの半面(約330㎡)にモデルオフィスを設置しました。

そして、2020年1月から社内アンケートを実施し、2月には4部署計97名の在籍者に説明会を個別・全体に分けて複数回行い、ゴールデンウイーク期間に工事を実施。5月にモデルオフィスが完成しました。

実証実験では、ジグザグ配置や、部室長の固定席廃止といった「思い切ったレイアウト変更」、4部署混合のフリーアドレス導入による「完全フリーアドレス」、新しい什器を導入する「慣例にとらわれない什器採用」の3つを行っています。

実は、フリーアドレスに関しては2008年にも部署内で一度取り組んだことがあり、この実証実験を行うにあたってやりやすかった面はありました。しかし、個人のスペースがなくなることに対しては、不安を感じる声も正直ありましたね。

一方で、このような声が届くことは予想できていました。“働く人の意識を変えるのには労力がかかる”ことは、他社を見学させていただいた時に、どこの会社でも共通して言われていたことだったんです。

ですから、私たちは取り組みにあたり、2つの工夫をしています。1つは、他社の事例を紹介しながら、上司に理解を深めてもらうことです。味方になってくれる上司をどんどん巻き込んだため、効果的だったと感じています。

もう1つは、他部署からモデルオフィスを見に来てもらい、「こういう什器、いいな」「こんな働き方がしたい」「いいアイデアだ」と共感した場合、そう思った場所に「いいねシール」を貼るといった可視化する工夫をしたことです。こちらは、社員の意識を変えるきっかけになったように思います。

占有意識をなくし、誰でもどこでも働きやすい職場風土づくり

▲製造現場の休憩所(Park01)。工場の中に人々が集うように「Park(公園)」と名付けられた

取り組みを拡大する過程では、社内のオフィスを「一人あたりのスペース」「老朽度」「汎用度」「将来性」で判定して、優先順位をつけました。

その後、モデルオフィスで得た知見や効果をもとに、2020年後半から社内のオフィス2カ所に取り組みを拡大していきます。

1つ目は、技術員が多く勤務する製造部に近いオフィス(約800㎡、200名勤務)。2つ目は、事務員が多く勤務する会社の顔となるオフィス(約600㎡、180名勤務)です。

さらに、2020年11月からは、製造エリアの休憩所の改革に着手。モデル休憩所の構築に向けて動き始め、製造現場140カ所以上の詰所で困りごとや理想の休憩のあり方を、丁寧にヒアリング調査しました。

これまでにない新しい発想の休憩所を企画し、休憩所に革命を起こすべく、2021年3月には新たなプロジェクトを発足。同年6月、ついにモデル休憩所が完成したのです。

以前の休憩所は、オフィス部門の社員と会話する機会もなく、使用していない時間が大半でした。モデル休憩所は、製造現場の休憩時間以外なら社内の誰でも使用可能となり、通常業務はもちろんのこと、今後はミーティングや発表会、休憩などABW拠点としても活用していきます。

このように、モデルオフィスからスタートして、社内の複数のオフィスがABWの拠点となった結果、さまざまな部署の人が自分で働く場所と時間を選び、効率的な勤務を実現できるようになりました。

ABWの拠点になっていないオフィスでも、まずはフリーアドレスを開始し、スペースの有効活用が進んできています。

固定席廃止や什器のコンパクト化によって、既存スペースのまま収容可能人数が大幅に増え、書類の電子化を進めたことでペーパーレス促進にも繋がるなど、生産性の向上にも効果があらわれています。

一人あたりのスペースは狭くなったものの、モノを極力減らすことで足元がスッキリしたため、体感的には狭くなったと感じません。

片付けが苦手だった人も、スペースをとりがちなサイドワゴンを率先してなくしていますし、今では荷物を持っていると目立つオフィスとなりました。

また、以前なら直属の部下でなければ声をかけにくかったのが、部署の違う人が同じスペースにいることで、若い人へのアドバイスやサポートがしやすくなったという声も聞いています。

境界線が曖昧になったことで話しやすくなり、直接関わりのない人とのコミュニケーションが自然と生まれています。

他にも、実証実験後に実施したアンケートでは、「働く意欲が向上した(51%)」、「会社に来ることが楽しくなった(44%)」など、好意的に捉える声が多く寄せられました。このアンケート結果からも、モチベーションアップに良い効果が出ていることを感じています。

「カイゼン」の風土をオフィスや働き方へ広げる

▲製造現場の休憩所(Park02)。温かみのある色合いや木目調の床を採用。

もともと、トヨタは日頃から「カイゼン」を行う風土が根付いている会社ですので、普段から改善意識をもって仕事をしています。

しかしその一方で、改善意識の向かう先が、これまでは現場での業務改善に偏っていました。

もし今回の私たちの取り組みが、「オフィスや働き方に関しても柔軟に変えていこう」という意識を根付かせるきっかけづくりになったとしたら、とても良かったと思います。

今後も、製造現場で働く人とオフィスで働く人の垣根がなくなり、新しい働き方が生まれたこの風土を枯らさないように、サポートを続けていきたいです。

また、まだ着手していない部署にも取り組みを導入し、どんどん横に広げていくのが経営企画部である私たちの役割だと感じています。その役割を全うするために、これからも力を尽くしていきたいと思います。

最終的には、多くの人がここで働きたいと思えるオフィスを目指したいです。

私たちのオフィスは、都会から離れた場所にあるため、人材を集めるという点で課題があるんです。ですから、オフィスの雰囲気が変わり、ABWにも取り組んでいる会社として認知され、新しい人材の確保につながればと願っています。

そして、私たちの取り組みのお話が同じような悩みを持つ企業に対して、何か少しでもお役に立てれば嬉しく思います。