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自社をもっと好きになる理由のひとつにしたい。問い続ける時代の企業広報ブログ

株式会社リブセンス 『Q by Livesense』
  • テーマ別部門賞
リブセンスは、「あたりまえを、発明しよう。」というビジョンを掲げ、社会課題をITの力で解決することを目指しています。「コーポレートアイデンティティ」を再考する中で、問いを通して自社らしさを再発見するメディアを立ち上げた過程を、広報のニシブ マリエが語ります。

会社愛が希薄な現状を打破し、自社の魅力を再発見できるメディアを

▲リブセンス共同創業者の桂 大介(左)、広報のニシブ マリエ(右)

リブセンスの広報チームは、採用広報へ貢献するために、2020年まで『LIVESENSE info』という広報ブログを運営していました。

掲載していたのは、メンバー紹介や社内行事のレポートなど、会社の動きや個人の魅力が伝わるような内容の記事です。毎月1~2本のペースで執筆していました。

しかし、それらの記事のPVは数十~数百にとどまり、SNSでシェアされることもほとんどありませんでした。自社の魅力は何なのか、それをどう伝えるのかという部分が、うまくハマっていなかったのだと思います。

ところが、そんな広報ブログが、これまでの10倍を超えるPV数を出すほどのメディアに生まれ変わることになります。そのきっかけを生み出した人物こそ、広報を管轄する桂 大介でした。

そもそも桂は2019年から、広報を管轄するまでの間に、「経営デザインプロジェクト」を主導しています。このプロジェクトは、従業員自身がリブセンスの価値を問い直し、再定義する取り組みで、会社としてのアイデンティティを改めて確立する必要性から始まったものでした。

リブセンスには5つの事業部があり、事業部としてのまとまりを大切にしてきた経緯があります。しかしそれ故に、メンバーの「事業部愛」が育まれる一方で、「会社愛」が薄くなり、退職率や内定者の入社辞退率にも影響が出るなど、採用競争力の低下が課題となっていたのです。

社会課題を扱うことがベンチャー企業にとって当然となっている今、リブセンスらしさを社外にどう打ち出すのかも重要な課題でした。

最終的に、経営デザインプロジェクトの成果として、私たちが大切にしたい価値観や目指す方向性を言語化した「わたしたちが変わるための9つの指針」を策定しました。

この指針を踏まえて、リモートワーク上限時間の撤廃、副業申請の廃止に加え、有給生理休暇、NPO割引、有給ボランティア休暇などを新たに制定するなど、私たちが大切にしたい価値観と現行の制度のズレが一つずつ是正されることとなりました。

桂は、このプロジェクトの後に広報を管轄するようになり、少しずつ従業員の自社への誇りが醸成されている感覚を覚えるようになります。そして、広報ブログをより価値のある発信地として活用したいという思いが強くなっていったのです。

この思いから、新たなメディアをつくるための歩みが始まりました。

何を切り口に「リブセンスらしさ」を考え、表現するのか

▲企画会議では、最近気になっているテーマやイシューを持ち寄ります

新しいメディアを立ち上げるにあたって、何を伝える場にしたいのか、話し合いを重ねました。その中で「問いの共有」「価値観の内省」「考え方の発見」といったキーワードが出てきました。

それから、リブセンスの強みを考えました。その結果、いろいろな声に耳を傾けたり、私たちだけではなくユーザーや社会などのステークホルダーにとっての価値を考えたりする姿勢にあるのではないか、という答えにいたります。

これらの議論の末に、私たちは、リブセンスを通して見えてくる社会課題を軸にして社内外に発信することで、そんなリブセンスの強みを従業員自身の手によって再発見してもらいたいと考えました。

そして“リブセンスを”紹介するのではなく、“リブセンスによって”Questionを紹介することを目指し、『Q by Livesense』と名付けたのです。

企画会議では、私たちが大切にしたいことを、等身大で、自分たちの言葉で伝えると決めました。また、外部への依頼はせず、メディア運営のすべてを社内のメンバーが担当し、書き手は、桂 大介、金土 太一、小山 舞子と私の4人で担っています。

書く内容を考える上では、隔週で企画会議を開催しており、気になる社会課題や社内の出来事を持ち寄っています。

その中で、私たちが大事にしているのは、暫定解の手前にある迷いや葛藤です。「正しさ」とは、時代によって変わります。だからこそ、正しい答えを言い切るのではなく、暫定解であったとしても、どのようにしてその暫定解に行き着いたのか、というプロセスを大切にしています。

また、書く内容へのこだわりと同様に、スタイルでも「リブセンスらしさ」を伝えるべく、色、ロゴ、フォント、レイアウトに至るまで、それぞれどこに「リブセンスらしさ」が隠れているかを考え、デザインに落とし込みました。

その結果、Q by Livesenseは、縦書き・明朝体・写真なし・長文というスタイルで進めると決定しました。

ただ、リブセンスらしさに抱くイメージは、個人によって違っていて当然ですので、「これがリブセンスらしさ」と決めてしまって良いものなのかと感じる気持ちや、Webメディアで縦書きという馴染みのないスタイルに対する不安もありましたね。

それでも、チームで話し合いながら取り組む過程で、多くの気づきや学びを得ました。リブセンスらしさの一つと考える「真面目さ」や、扱うトピックがシリアスであることが多い点から、そういった話題にふさわしいトーンがあるという話を、メンバーとよくしていたんです。

リブセンスは、「イシューに対して真摯に向き合う会社」です。スタイルへのこだわりも、“リブセンスらしさ”の一つなんだと、社内外から感じてもらえていたら嬉しく思います。

メディア立ち上げの背景については、桂大介の記事「今企業は何を書くべきか? オウンドメディアの現在地点」と「Q by Livesenseの舞台裏」の中で、赤裸々に綴っています。ぜひご覧いただけると幸いです。

オウンド・ジャーナリズムとしての役割が働きやすさに寄与

▲『Q by Livesense』では、縦書き・長文・テキストのみというスタイルを採用しました

さまざまなこだわりを詰め込んだメディア、「Q by Livesense」がオープンしたのは、2020年12月15日でした。

前身の「LIVESENSE info」と比較すると、一記事あたりの平均PV数は10倍以上になりました。読者の中には新記事が公開されるたびにシェアしてくださったり、Tシャツなどのグッズを購入してくださったりする「Q by ファン」もいて、嬉しい限りです。

最近のSNSの反応は「今回も安定のいい記事」「毎回、いい問いを立てるな~」といったものが多く、メディアとしての信頼が積み重なってきている手応えがあります。このメディアが言うことは信用に足ると読者に思ってもらえることは、まさに私たちが目指していた姿であり、メディアとして一定のプレゼンスを確立できた証だと感じています。

また、決して褒められたものではない施策の改善ストーリーを取り上げたときにも、批判やネガティブな反応はあまりなく、むしろ「自浄作用が効いている」と称賛されることのほうが多かったですね。Q by Livesenseに関連したリブセンスへのポジティブな意見をもらえることも増えました。

一方で、成果として最も強く実感しているのは、社員の間で「Q by Livesense があることで、会社をちょっと好きになる」という現象が起きている点です。

発達障害や生理休暇など、悩んでいてもあまり口に出しづらいテーマを取り上げていることで、社員から感謝のDMが届くこともあります。

「リブセンスで働いていて良かった」と言ってもらえることは、私たちの励みになっています。Q by Livesenseによって、社員がそれぞれの「働く意味」を改めて発見し始めているのではないか。そんな実感も抱けています。

そして、Q by Livesenseの取材活動や記事そのものが、会社を変えるケースもありました。

以前、左利きの生きづらさというテーマについて取材するため、社員に備品を貸与している総務担当者にヒアリングをしたところ、「これまで左利きの人を考慮できていなかった。利き手を確認するアクションを前向きに検討したい」と、結果的に気づきを促すことができたのです。

さらには、「身元保証書」の必要性について論じたことで、リブセンス入社時の身元保証書は廃止の方向へと進んでいます。

こうした成果は当初意図していたものではありませんが、会社に対する「監視」の機能(=オウンド・ジャーナリズムとしての役割)をQ by Livesenseが果たしていて、働きやすい職場づくりに寄与できているのではないかと自負しています。

Q by Livesenseを通して、同志を増やしていきたい

▲2021年秋には、桂に代わりニシブが編集長に就任しました

リブセンスは、「最年少上場社長の企業」というイメージが強く出回っており、広報として、長らくそこから抜け出せていない実感がありました。

しかし最近では、Q by Livesenseが大きな反響をもらうようになり、採用広報においてもプラスの効果が生まれています。特に新卒採用では反響が大きく、面接時にQ by Livesenseのことを話す候補者もいて、入社の動機づけに貢献していると採用チームから報告を受けています。

ダイバーシティ、インクルージョンなどがここ数年で人気のキーワードとなっていますが、多様な人々と生きていく大変さの部分に目を向けないと、ただのスローガンで終わってしまいます。

私たちが扱うテーマは、答えのないものが多いです。社会としての暫定解が存在する場合もありますが、いま当たり前に正義だと思われていることが、本当に正義なのかを考えると、結論が出ず、書けなくなってしまうことも多々あります。私自身も、読み手と一緒に考える場所を作りたいという思いで、毎回悩みながら書いています。

「会社という枠組みを超えて、同志みたいな人に届いたらいいな」というのが、私たちの想いです。毎回読んでくださる方々は、私たちの姿勢に共鳴してくださっているのかもしれません。

Q by Livesenseは会社のブランディングとして始まったメディアですが、苦労をどう乗り越えていったかを社外の人たちにも届けることができたら、個人からコミュニティへと広がっていき、ひいては社会が変わっていく一因になるのではないでしょうか。

私たちは、「今の社会に必要なことをしている」という自負を持ち、ブログ運営に励んでいます。

これからも、あたりまえとされていることに疑問を持っていきたいですし、多くの人に Q by Livesense を知っていただき、水の輪のように同志を増やしていきたいと願っています。