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これからの日本をつくる"働き方"のストーリー

全員が能力を最大限発揮できるよう。徹底的に人に向き合いキュービックらしい解を出す

株式会社キュービック
創業10年目となった2016年4月、事業の急拡大とともにキュービックは約150名を採用し、社員数は一気に4倍になりました。しかし、組織は大きく成長した一方で新たな課題が発生します。能力を十分に発揮できる人材とそうでない人材の2極化が始まったのでした。

一気に150名を採用。能力を発揮できるか否かの差は何か?

2016年4月、キュービックは150名近くの社員を採用し、その全員が「パフォーマンスを発揮して輝ける社員」と期待を受けていました。その様子を「みんな一様にワクワクして、目を輝かせていた」と代表取締役社長の世一英仁も言います。

しかし、日を追うごとに能力を発揮できる社員と、思うようにパフォーマンスを発揮できずに苦しむ社員に、2極化していくようになりました。入社時の面接では能力にそれほど差はなかったはずなのに……。

キュービックの社員は平均年齢が29.9歳と、その若さが特徴。もうひとつ、社員数を上回るインターンが働いているのも特徴です。必然的に若手社員がインターンのマネジメントを担うことになります。若くして人材育成や部下のマネジメントに携わるのは、キュービックで働く大きな強みになっていますが、経験の少ない社員にとっては負荷も大きくなります。

育成システムが整っていない環境でも人数が少ないうちは、各担当者がOJTでマネジメントできていました。しかし、急激な組織拡大で1人のマネージャーが担当する人数が増え、少しずつひずみは生まれてしまっていたのです。

ピープルエクスペリエンス所属の平山直子は「ひずみに、みんなが気づいていた。けれど言語化されていなかった」と当時の状況を説明します。もちろん世一も組織の違和感に誰よりも気づいていました。

世一 「小さくても成果を出したメンバーは会社になじんでいきます。しかし、一定期間成果が出せず、みるみるモチベーションを失うメンバーがいました。面接時、会社として能力を十分に見込んで採用しているのに、なぜだろうか。社員数が増えるにつれ、僕の課題感は大きくなりました。
単純に採用のミスマッチと判断してはいけない。壁にぶち当たったとき、全員が乗り越えるためには、会社として何ができるだろうかと考えました。そうして出た答えが、“従業員の立場に立って考え抜く ”ことでした」

代表・世一の決断は、決して会社の成長を止めることではありませんでした。いま採用の速度を落とせば、もっと先に描いているビジョンを実現できない。加速的な成長の中、全員がハイパフォーマンスを発揮するために、負荷を減らすのではなく並行して育成システムをつくり出し、環境を整えることを選んだのです。

社員全員が想いを共感できるように「ここは、みんなで乗り越えるべき壁だ」というメッセージも世一は発信し続けます。そして理念やビジョン、ミッション、クレドというものをあらためて言語化し、共有したのもこの時期でした。

社員に対してもヒト・ファースト。徹底して社員の体験に向き合う

キュービックは「ヒト・ファースト」という企業理念を掲げ、「ユーザーのことを考え抜き、よりスムーズな課題解決体験へと導く」という姿勢でデジタルマーケティング事業を行ってきました。この課題を解決するプロジェクトのベースには、この「考え抜く」という姿勢を社員の体験にも向けようという想いがありました。

プロジェクトチームを牽引したのは、ピープルエクスペリエンスオフィスのマネージャー、染谷和彦。産業カウンセラー、キャリアコンサルタントの資格を持つ染谷は、アパレル企業やWEBマーケティング企業で人事のキャリアを歩んだのち、2018年5月にキュービックにジョインした人物です。

染谷 「密なコミュニケーションは、かなりの工数を必要とします。組織によってはコミュニケーション量をできるだけ減らし、効率的に情報を届け、人を動かして収益を上げるという考え方を選ぶこともあります。
ところがキュービックは “ヒト・ファースト ”という理念を持ち、たとえ工数はかかっても徹底的に人と向き合うことを大事にしていました。『人に向き合うことで、人が育ち、成果も出せると証明したい』という世一の想いにとても共感して、ぜひ協力したいと思ったんです」

プロジェクトチームは、もともとデジタルマーケティングで扱うカスタマージャーニーマップに親和性もあり、社員の体験を落とし込んだ「Employee Experience Map」(以下、EXmap)の作成に取り組むことになりました。染谷が目指したのは、部下が今どのような状態にいるのかを明確に知り、マネジメント経験の浅い社員でも誰もが一定水準を超えて部下を育成しマネジメントできるものです。

まず社員の体験を書き出すために、社内インタビューを実施。社員20名、インターン15名の協力を得て「これまで、どんな成功・失敗を体験をしたか」「その体験について、どう考え、次にどんな行動をしたか」などを1カ月かけて、丁寧に聞き出しました。パフォーマンスが上がった背景にはどんな体験があったのか、逆にどんな体験は避けるべきかなどを理解するためです。

こうして集めたファクトを整理・分析して、EXmapの基礎がつくられました。

人のエンゲージメントを深めること。それが成長の大きな枷に

約35名のインタビューを経て気づいたのは「人のエンゲージメントを“先に”つくり上げることがいちばん重要」ということでした。

染谷 「一緒に働く人を好きになりエンゲージメントが高まる。好きな人に褒められたくて仕事に取り組む姿勢(スタンス)が変わり、その結果としてスキルが上がる、という流れが見えてきました。反対に、いきなり厳しいフィードバックを受けて心が折れたという声も。確かに、上司と人間関係ができてないうちにいきなり厳しいこといわれても、それはそうだねと。“順番 ”の重要性にあらためて気付きました」

さらにもうひとつ、重要な気づきがありました。失敗の体験です。

染谷 「エンゲージメントは成功体験で上がりますが、スタンスを変えるには、今のままではダメだと思える失敗体験がカギになっていると、 EXmapを体系化していく中で見えてきたんです」

2019年1月、EXmapはおおよその形になり、事業部門に絞って試験運用を始めました。その中で手応えを感じられる成功事例も生まれました。

染谷 「大きな期待をかけられながら、なかなか目立った活躍ができていなかった中途採用の社員に対して EXmapを当てはめてみたところ、まだ上司とのエンゲージメントが十分に築けていないとわかりました。信頼関係を築くために、 EXmapの施策に沿って 1on1の内容や頻度なども相談しながら進めたところ、次第に上司に打ち解けて、なんでも話してくれる関係になりました。
上司へのエンゲージメントが高まると、チームに対するコミットやメンバーに対するスタンスも変化し始めました。もともと能力も経験もあったので、途端に仕事の成果もスキルもどんどん上がっていきました。いちばん引っかかっていた上司とのエンゲージメントというひとつの壁を乗り越えたことで、他の面においても、みるみる成長したんです」

けっして立ち止まらない。成長しながら壁を乗り越えていく

「もちろん想定はしていたけれど、EXmapにこれだけの効果があるとは驚きでした」と染谷。試験運用の段階なので、成功事例はまだ少ないですが、全体の70〜80%は前向きな進捗。確かな手応えも感じられます。

染谷 「特にエンゲージメントにおいては、上司や仕事が好きになりきれないという壁を乗り越えた途端に、チームや全社の視点を持つなどスタンスなどが変わり、比較的スムーズに成長していくという感覚はあります」

ただ全社に展開して運用するには「まだ難しい」と染谷。実は、EXmapと並行して作成している「施策ハンドブック」が未完だからです。

染谷 「 EXmapの活用方法を網羅したのがハンドブックです。しかし、さまざまなケースがあり、すべてをきれいに落とし込めていません。部分的にはある程度固まっていますが、 EXmap全体では完成しきれていない。そこをクリアにするために、いちばん時間もかかっているし悩んでいます。
理想は、若いマネージャーがハンドブックを見ながら、簡単に 1on1をできること。 1on1の中でエンゲージメントを高めるのは、かなりのスキルが必要になります。誰もがハンドブックを見ながらできるレベルには、まだもう少し距離があります」

しかし、すでに2019年7月には、EXmapの評価軸と連動できるように人事評価制度の見直しも行いました。全社展開への準備は、着々と進んでいます。その間にも、キュービックは成長を続け、社員もさらに増え、もうすぐ130名に届く規模になってきました。

染谷 「そのメンバー全員が、フルにパフォーマンスを発揮できるような環境をつくれたら、とんでもないことが起こるだろうと思っていて、それが夢でもあります。そのゴールに向けてのひとつの確かな道筋を歩んでいると実感しています」

けっして成長のスピードを落とさず、壁を完全に乗り越えたとき、新たな強みを手に入れたキュービックの姿があると私たちは確信しています。

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