会社からはじめるーー「雇い方改革®︎」
社員が声を上げることの難しさを感じたサラリーマン時代
1980年に渡米し、1987年に帰国した後、外資系企業でのキャリアを積んできた森。IT・音楽・出版・製薬など、さまざまな業界で人事に関わる仕事を広く経験してきました。
30年にわたる企業でのキャリアを通じ、特に後半15年は数々の部署のリーダー・マネジメントを務めたことで、中小企業に巣食う問題を目の当たりに……。
変えたくても変えられない、そんな想いが募って大きく膨らんだころ、2016年に政府から発表されたのが「働き方改革」でした。
森 「キャリアが長くなってくると、転職先でもすぐに、部門長や本部長として役員会議に出席します。そこに出席している自分以外の役員は、ほとんどが同じ業界で仕事をしてきた人たち、業界の大先輩ばかりだったんです。
そこで私が“異業種から来たからこそ感じる、その業界の謎や矛盾”を指摘し、さまざまな改革の提案をしてきたのですが、業界経験が浅いことを理由に取り合ってもらえないこともありました。
私も正論で言われれば、納得するのですが、社内政治や、理不尽な都合に巻きこまれて反対される事に疑問を感じていました。
自分もその会社で雇われている社員ですから、強引なことは言えないですし、立場上人事ですので、常に正攻法で攻めるしかありません。何度悔しい思いをしてきた事か、と思い出します。
部門長を務めていた私でさえそうでしたから、若手や一般の社員はもっと要望や不満を口にできない環境だったと思うんです。
それでもいろいろな業界を経験していると、これ以上転職をしても社内からできる事には限界があること、そしてどの業界でも中小企業が抱える問題は同じだということがわかってきました。
そこで長年に渡って人事を担当してきた経験から、外部の人間として会社の相談に乗る形式をとれば、もっと抜本的な改革ができるのではないかと考えたんです」
人事のコンサルタントとして独立してみると、小さな企業ほど人事の担当者を持たず、社員の抱える問題が放置されている状況が見えてきました。
家族経営で、雇用した人材は製造や営業のみに割いている企業。
知り合いの紹介で働きはじめ、ひとつの会社に長く留まったままの社員。
ベンチャーに夢を持って就職したけれど、過酷な勤務状況。
本当のことかどうかもわからない他社の情報をネットで見てはうらやむ、目標やモチベーションが低く、単に企業に属しているだけの社員……。
彼らは働き方に悩み、職場のあり方に疑問を感じていても、紹介者への気がねや、職を失うことへの恐怖から発言できず、誰に相談するべきかわからずにいました。
思いつめて退職を申し出ても、社長や役員は彼らの抱える問題には気づかないまま……。何度社員が入れ替わっても、同じような退職劇が起こっていました。
そんななか、2016年に政府から発表された「働き方改革」は、企業で働く人たちの救世主であり、希望の星となるかのように思えました。
しかし一方で森は、働く人が変わるだけではなく、雇う側も同様に変わらなければ働き方は変えられないはずだと危機感を強めていました。
働き方改革を、違う視点で見ることで気がついた「雇い方改革」の必要性
終身雇用制度が当たり前でなくなり、社員の一生を会社が保証することの難しくなった現代。
より自由に、よりその人のライフスタイルに合った働き方を見つけることは、非常に意義のあることだと、働き方改革は注目を集め、2019年からは法律も施行され準備段階から実行段階にシフトされていきます。
兼業や複業(副業)を認める企業も増え、一人ひとりの生き方の多様性・軸足を増やすことが、働く人の幸せにつながると考えられるようにもなってきました。
しかし森は、働く人の幸せは、軸足を増やすこととイコールではないと話します。
森 「社員がなぜ副業をしたがるのかを考えたとき、たとえば今の会社の居心地が悪いから転職しやすいように副業をはじめようとか、給料が安いからプラスアルファの収入がほしいといった理由が挙げられます。
でもそういった悩みは、今働いている会社の居心地がよくなり、生産性が向上し、給料が増えれば解決するものがほとんどです。会社の風土・体質を変えれば、幸せな人は増えると思ったんです」
そう考えると、まるで働く人だけに責任を負わせるような「働き方改革」という言葉に疑問を感じたと話す森。
「会社が変わるべきであるならば、“働かせ方改革”という言い方が適切なのか」という考えが頭をよぎりました。
また「働いてもらいかた改革」も、逆に社員にこびているようで、しっくりきませんでした。
いずれも、口に出してみるとあまりにも傲慢な響きに寒気がしたとふり返ります。
森は、会社に責任を持つべき社長が「雇い方を変えていきます」と宣言すれば、社員の働き方はよくなっていくはずだと考え、自身のプロジェクトを「雇い方改革」とし、商標登録をすることで信念を示しました。
森 「私はコンサルタントを担当した会社の、ある程度経験を積んだ社員の方には、『あなたの仕事を根本的に見直し、無駄な業務をゼロにしましょう』と提案しています。
無駄な業務をゼロにするために何が必要かを考えてもらうことで、現在の業務における課題を見つけてもらいたいからです。
IT化することで業務効率を上げられるならどんな設備が必要かを提案してもらい、新人の教育が必要なら、どうすれば効率よく成長させられるかを考えてもらう。社員の方には業務効率の改善に協力してもらいます。
そして社長には、まず社員の声に耳を傾け、どんな制度を整えて何を導入すれば、自分の会社が社員にとって最善の職場となるかを考えようと伝えています」
人事を雇う余裕なんてない。外部の人事担当者としてできること
SNSなどで他社の雇用制度や職場の実態を誰でも知ることができるようになった昨今。能力の高い人材ほど、制度が整い、自分に合った職場を見つけ転職していきます。
小さな企業は能力のある人材を雇用することも、引きとめて会社を成長させていくことも難しくなっています。
だからこそ森は、「人事がいなくても社員の気持ちを社長に届け、会社が余分なリソースを割くことなく問題を解決するためのサポートがしたい」と話します。
社内に人事部長がいなくても会社の成長をサポートしていけるという意味での“人事部長不要説”を掲げ、アウトオブボックスはクライアントの改革を進めます。
森 「次の目標はこの雇い方改革を通じて、より多くの会社を変えていく“人事プロデューサー”とも言うべき立場を確立することです。
働く人たちは現在の会社のあり方に不満を感じながら、今自分が抱える仕事が減り、会社にとって不要な人材だと判断されることを恐れてもいます。
実際に社内の人事が余剰な仕事を削減するときは、リストラへ向けた改革が進められていることが少なくありません。
けれど人事でありながら、会社の成長を生み出す“プロデューサー”による改革であれば、意味のない仕事を減らし、生産性の高い業務にシフトさせていくことで、会社の成長を、ひいては働く人の幸せを生み出していくことができると考えています」
社員には、これまでの仕事で得た経験値を糧とし、バージョンアップされた人材となることで、これからの会社の成長に貢献してもらいたい。
会社と社員の働き方に責任を負う経営陣には、雇い方を変えることで、いかにその社員が会社にとって必要な人材であるかを的確に伝えてもらいたいと話す森。
働き方改革の裏側で、雇い方改革は力強く変化を支えています。