保育園でも在宅勤務でもない、女性のキャリアを支える託児機能付オフィス
はじまりは「母親がひと息つける場所を」と開いた親子カフェ
ママスクエアは、子育て中の主婦が子連れで通えるオフィスです。ガラス一枚を隔ててオフィススペースとキッズスペースが設けられており、ワーキングスペースではコールセンター業務、データ入力など、アウトソーシング業務をママスタッフが行ないます。
ママの仕事中は専任のスタッフがキッズスペースに常駐し、子どもを見守ります。ママはいつでも子どもの様子を見ることができ、安心して働くことができる環境です。
ママスクエア誕生のきっかけは、代表の藤代聡(ふじしろさとし)が2004年に立ち上げた親子カフェにあります。
もともと藤代はリクルートでハードなサラリーマン生活を送っており、夕飯を自宅で食べることもめったにないというなかで、妻が3人の子どもを見ていました。いまでいう「ワンオペ育児」です。
ある土曜日、妻の顔がずいぶん疲れているなと感じた藤代は、なにげなく「子どもたちは僕が見ているから一人で息抜きしておいでよ」と妻を送り出します。しかし藤代は帰ってきた妻の表情を見て驚愕することになります。
藤代 「まるでつきものが落ちたように晴れやかな表情をしていたんです。映画 1本観るたかだか 2~3時間で、ここまで気持ちがリフレッシュされるものかと。
子どもの世話は慣れているはずですが、それでも、相当たまっているものがあったんですね。そのとき初めて、任せっきりで申し訳なかった、母親にも息抜きをする時間は絶対に必要なんだと気づいたんです」
そこで藤代は、子どもを預けて母親がひと息つけるカフェをつくりました。
それまでにも同様のサービスは世の中にあったものの、いずれも子どもが中心のサービスでした。より母親がくつろげるサービスにするため、カフェスペースとは別に子どもの遊び場を設け、常駐キッズスタッフを配置。
こうして、子どもとのちょうどいい距離をとりながら、母親が安心して過ごすことができる空間をつくりました。
親子カフェを運営していくうち、藤代はさらなる母親の課題を目の当たりにします。それは、子育て中の主婦たちの「働きたくても働けない」現状でした。
「小さな子どもがいると採用面接すら受けられない」現状を打開するために
親子カフェでは多くの主婦パートを雇い入れていました。藤代は彼女たちから、子育て中の主婦の再就職がいかに難しいかという切実な訴えを耳にしたのです。
「子どもがいると履歴書に書くと面接にもこぎつけない」、「子どもがいたら雇ってもらえると思っていなかった」——なかには、面接を受けられたというだけで、感極まって泣き出すママもいました。
子育て中は短時間勤務の希望が多く、子どもの病気で急に休むこともあるといった事情もあります。
しかしそのために、小さな子どものいる主婦は仕事で十分にパフォーマンスを発揮できないと考えるのは早計なのではないでしょうか。
親子カフェでの主婦の皆さんは、仕事に実直に向き合い、自分ごととして目の前のタスクをこなしてくれていました。同時に採用した学生アルバイトやフリーターと比べても、遜色ないかそれ以上の働きぶりを見せてくれたのです。
こうして、働きたい気持ちのある優秀な主婦の皆さんが、子どもがいるからという理由だけで社会で受け入れられていない事実を再確認した藤代は、どうにかしなければという明確な意志をもつに至ったのです。
そうして、2014年12月に株式会社ママスクエアを立ち上げ、国内初の「就活と保活を一挙に解決する託児機能付きオフィス」ママスクエアの開所準備にとりかかりました。そして2015年春、一号店となるママスクエア川口店をオープンさせました。
ママスクエアでの初期の業務は、藤代が前職のつながりを中心に得た受注したコール業務。
母親ならではのていねいな声色や細やかなヒアリング能力を生かして業務に従事してもらい、成果を上げていきました。
ママスクエアの取り組みはこれまでにないビジネスモデルだったために、事業支援や業務受注のために各社にプレゼンテーションを行なっても、コンセプトそのものには共感してもらえるものの、実現可否には疑問符をつけられてしまうことが多くありました。
しかし一号店がオープンして確かな実績をつくってからは、一気に関係者や世の中の事業理解が深まり、スムースにサービス内容や事業の想いを知っていただけるようになりました。
創業3年半ほどで拠点数は着実に伸び、2018年5月末時点で、直営拠点は20拠点展開。
出店エリアは、一号店のある埼玉エリア4拠点を皮切りに、関東地方に12拠点、一都一府六県にわたり幅広く出店を実現しています。
「子どものそばで働ける世の中を当たり前に」の企業理念は、世の中の課題をビジネスに変えたイノベーションであるという理解のもと、行政や企業各社からも支援や連携を受け、実績を積むことができています。
ママが仕事をしているそばで、子どもが安心して過ごせる場所
ママスクエアは保育施設、幼稚園とは異なります。ママと子どもがガラス1枚を隔ててワンフロアで過ごしており、あくまで保護責任はママにあります。専任のキッズサポートスタッフはお子さんの見守り担当であり、責任をもってお預かりしますが、おむつを替えたり食事をさせたりといったお世話はママの担当です。
ママスクエアは保育施設ではないため、運営にあたって行政の認可は必要ありません。
厚生労働省が定める認可外保育施設の基準では、部屋のスペースを子ども1人あたり1.65㎡以上確保すること、1・2歳の幼児では6人に1人以上の保育者を確保することが義務づけられています。ママスクエアでもこの基準にのっとって運営を行なっています。
また、自らもワーキングマザーである社長室広報の新宮涼子(しんぐうりょうこ)は、キッズスタッフとママとの信頼関係の厚さをママスクエアの特長として挙げます。
新宮 「必要なときに、スタッフが『おむつを替えてください』『食事をお願いします』といったプレートを掲げて知らせる仕組みになっています。仕事中にそのプレートを確認したら、ママが子どもの世話をしにやってきて、またスタッフに預けて、すぐ仕事に戻ります。
たとえ泣いていても、あとでスタッフに状況を聞けばいい関係性なので仕事に集中できる。そばにいるからこそ安心して仕事に取り組める状況がつくれています。
子どもたちにとってもママスクエアは自分の遊び場、コミュニティになっており、ママと離れても安心して過ごすことができています。
ママがふだんから生き生きと働く姿を見せることができるのも、ママスクエアならではですね」
キャリアのブランクに焦るママにとってのセーフティネットでありたい
社長室長の長尾直美(ながおなおみ)は、自分自身、企業にてキャリアを積んだ後、結婚、子育てのブランクによって自信を失った経験をもつひとりです。
能力があるのに子育てブランクによって戻る場所が極めて限られてしまう主婦にとって、ママスクエアはキャリアのセーフティネットでありたいと考えています。
長尾 「子どもを保育園に預けてフルタイムで働き続ける選択肢も、子どもの小さいうちは仕事はセーブするという選択肢も、どちらも良いことだと思います。
でも母親って、フルタイムなら後ろ髪を引かれ、仕事を辞めれば焦りを感じ、必ずしも自分の選択に胸を張れないときもあると思うんです。
そんなとき、ママスクエアがあれば、子どもに寄り添いながらもキャリアは途切れさせない、という選択ができます。やがて子どもが大きくなってきたら違う働き方も選びやすくなります。
『焦らなくても大丈夫だよ、ママスクエアがあるから』と言ってあげたいんですね。
そんなふうに、ママスクエアが、女性たちにとってキャリアのセーフティネットになっていったらうれしいなと思います。『幼稚園にしますか、保育園にしますか、ママスクエアにしますか』という選択肢を、私たちは全国の女性に示していきたいと考えています」
そのための目標として、全国にママスクエアを100カ所つくることが私たちの目標です。直営拠点だけにこだわらず、地元の有力企業とエリアパートナー制度を組んで、地方での店舗展開にも取り組んでいます。
また、今夏より派遣事業もはじめました。ママスクエアの利用対象は、お子さんが歩けるようになってから未就学のあいだです。ママスクエアを卒業し、お子さんが小学校、中学校に上がって違う働き方をしたいと思ったときに、適切な仕事を紹介していくことでサポートし続けたいと考えています。
働く意欲に満ちた女性が、ブランクを感じずにスキルを磨き続け、社会との接点を持ち続けていくことができる環境構築が、私たちの目指すところです。これからも女性が活躍することを諦めずに済むような社会の実現を、ママスクエアから呼びかけていきます。