若手エンジニアの早期離職を防ぎたい!上司に内緒で悩みを相談できる「キャリア相談室」
キャリアパスに悩む若手、サポートしきれない管理職
年間約60名のエンジニアを採用しているエーピーコミュニケーションズ(以下、APC)には、約350名のエンジニアが在職しています。事業の中心であるSI事業は順調に成長しており、エンジニア採用は継続的に実施しています。
人材不足が叫ばれるIT業界において、APCは未経験者の採用も推進してきました。みなさんは、IT業界やエンジニア職に夢や希望を持って入社する若手が増えていくと、一体どのような課題が生まれていくと思いますか?
課題は主にふたつ。1つ目は、未経験であるからこそ抱いてしまう若手エンジニアのキャリアの悩み。実際に仕事をはじめると、楽しいことばかりではなく想像していなかった大変なことにも直面します。
エンジニアという仕事の現実を目の当たりにした若手エンジニアは、エンジニア職を目指したことに不安や迷いを感じ、自分が目指すべき理想像を見失ってしまうのです。
組織能力開発部 キャリア相談室 室長を務める塚田裕美子は、若手エンジニアの悩みについてこう考えています。
塚田 「若手エンジニアは、それまで抱いていた夢や理想と現実とのギャップに悩んだり、仕事へのプレッシャーをひとりで乗り越えることができずにモチベーションを低下させたりすることも少なくありません」
2つ目の課題は、若手エンジニアのキャリア開発支援が充分にできていないことでした。
上司と部下の定期的な1on1を導入し、業務目標に対する支援の機会を設けてきましたが、キャリアプランニングまではできていませんでした。
塚田 「当社では顧客先オフィスに常駐しながら働くエンジニアが大半で、管理職もいちエンジニアとして案件対応をしています。その中で部下のマネジメントをしている管理職たちは、頑張っても目標管理までが限界でした。
短期的な業績目標と切り離して、『部下一人ひとりがどんな未来を目指し、そのためにどんなステップを歩んでいくのか』といったキャリア開発支援までを充分にできていたかというと、そうではありませんでした」
キャリアパスに悩む若手、サポートしきれない管理職。このふたつの課題を解決するために、塚田は若手エンジニアのためのキャリア開発支援方法を模索しはじめました。
約87%の若手がキャリアの悩み……キャリアコンサル導入へ経営陣に4度の提案
若手エンジニアのためのキャリア開発支援方法を考えるにあたり、まず離職者及び20代エンジニアの分析を行ないました。
36名との面談や研修での調査結果で明るみになったのは、87.5%もの若手エンジニアがキャリア形成に関する悩みを抱えていたということでした。
塚田 「APCには、3年後、5年後などを見据えて、自身でキャリアを整理していく『キャリアシート』という仕組みがあります。
若手エンジニアには未経験者が多く約60%がひとりではキャリアパスプランを描くことができていませんでした。
この結果を見て、やはり上司や先輩以外からのフォローが必要だと実感し、企業内キャリアコンサルティングを提供する部門をつくろうと思ったんです」
厚生労働省が推進する「セルフ・キャリアドック」(定期的なキャリアコンサルティングとキャリア研修等を組み合わせて行なう、従業員のキャリア形成を促進・支援することを目的とした総合的な仕組み)の導入を検討するも、当社のような中小企業での具体的な運用事例は見当たりません。
そこで、導入実態を知るために、キャリア開発の先進企業3社を訪問しヒアリングをさせていただきました。
塚田 「経営陣に提案するにあたり、企業内キャリアコンサルティングを提供する部門をどうやって立ち上げ、どんな問題や失敗が起こるのかを事前に調査する必要がありました。
他社のキャリア開発の責任者にヒアリングを行なった結果、導入した企業の社員の中にはキャリアカウンセリングについて、後ろ向きなイメージを持っている人がいることを知りました。
キャリアカウンセリングに対して、疑心暗鬼だったりメンタルカウンセリングのイメージが強かったりしたようで、当初は自ら相談に来る社員は少なく浸透させるために苦労したんだそうです」
単純に「セルフ・キャリアドッグ」を導入したところで、社員に活用してもらえなければ意味がありません。そこで、提案には20代社員全員のキャリア相談室での面談を必須として盛り込みました。
塚田 「ヒアリングの中で伺ったのは『言葉で伝えるよりも、体験してもらった方が理解してもらえる』ということでした。
できれば自発的にキャリアカウンセリングを活用してもらいたいところですが、使ってもらえないくらいであれば “必須 ”として、体験してもらうことで社内に浸透をさせようと考えました」
こういった事前準備を経て、経営陣に提案をすること4度。企業内キャリアコンサルティングを提供する部門として「キャリア相談室」が開設されました。
本音と行動を引き出すための仕組みづくり
キャリア相談室の目的は、若手社員のキャリア実現を支援すること。結果的に若手社員の定着率が向上することを目指しています。
塚田 「社員自身がやりたいことをAPCの中でどう実現していくか。これを個人と組織との中立的な立場で支援していくことがキャリア相談室のミッションなんです。
そのためには、本音で話をしてもらえる環境が必要でした」
キャリアに関係する話は前向きなものばかりではありません。「仕事が楽しく感じられない」「エンジニアに向いていない」こういった話こそ、キャリア相談室で一緒に考えていきたい内容です。
しかし「ここでなら安心して話せる」という心理的安全性がなければ、誰も本音では話ができません。
「査定に影響したらどうしよう」「上司に知られたら仕事がしづらくなる」そんな不安を感じさせないためにキャリア相談室は人事組織から切り離し、守秘義務を徹底しました。
あわせて顧客先オフィスに常駐している社員の利便性を高めるため、電話やビデオ会議での面談やカウンセラーが常駐先に訪問して面談ができるようにしました。
塚田 「面談内容はカウンセラー側でテキストに起こし、フィードバックも添えて本人に共有します。会話をして終わりにせず、振り返ったり自分の考えを整理したりできるよう工夫をしています」
また、1対1で話し合う面談とは別に「キャリアデザイン研修」も実施しました。不安を払拭するには、ぐるぐると考えるだけではなく行動することが大切です。
そうはいっても「何をしたらいいのかわからない」という若手エンジニアは少なくありません。この研修は、ストレングスファインダーという強み診断ツールで自身の強み・弱みを知ることからはじめます。
グループディスカッションを通じてこれまでのキャリアを振り返りながら、自身の強みを業務の中でどのように活かすのかを、具体的な行動計画に落とし込みます。
塚田 「弱みの克服は苦痛を伴いますが、強みの強化は結果が出やすく自信をもたらします。そしてその自信は次の行動を促進する。
こうしてよいスパイラルが回りはじめると、仕事が面白くなるし不安も軽減されるんです。そうするとキャリアに対する考え方も前向きになります」
キャリア相談室の設立から約1年、若手や上司に起きた変化と展望
2018年1月に設立したキャリア相談室は着実な成果を残しています。キャリア相談室を利用した社員へのアンケートでは、81名のうち95%から「面談に満足感を覚えている」との回答を得ることができました。
また、キャリアデザイン研修を受講した64名のうち78%が「自己理解を深めることができた」と回答し、実際に自身の強みを活かすための行動計画を立て、目指すキャリアに向かって具体的なアクションを起こしています。
そして、9月時点では離職の可能性があった若手エンジニア14名は、キャリア相談室やキャリアデザイン研修を利用することで、キャリアに対する不安が解消されイキイキと仕事に取り組むようになりました。
管理職にも変化が生まれています。部下との関係性の改善を目的とした管理職向けの研修を開催した結果、管理職の行動が変化し「上司が自分を尊重して話を聞いてくれるようになった」と80%の社員が答えました。
塚田 「この一連の施策では社員に本音で話してもらうことを重視してきました。その成果なのか、若手エンジニアも管理職も、相手に伝わる話し方を考えて対話するように変わりました。
そうした対話を積み重ねた結果、言われた仕事をするだけでなく、会社や仕事の全体像を踏まえて主体的に行動できる若手社員が増えました。やらされ感から脱却できた意味は大きいんです」
このように社員の働く姿勢や意識の変化といった定性的な成果を残すことができているのは、会社にとっても大きな成果となっています。
塚田「キャリアは本人に主体があります。しかし、企業に所属すると『従』の要素が強まってしまう。
そこをいかに自身が『主』だと感じられるか、それが会社と一緒に成長していける社員を増やしていくポイントだと思うんです」
若手社員が抱える“夢や希望と現実のギャップ”や“キャリアパスに対する不安”は、本人が乗り越えるべき壁です。
しかし、それを会社がサポートするからこそ社員は会社と一緒に成長しようとしてくれるのではないでしょうか。
エーピーコミュニケーションズはこれからも、社員のキャリア開発支援に力をいれていきます。