副業でも兼業でもないキャリア開発を。社内に活力を生む「社内兼業」という働き方
自己肯定感が持てないメンバーを救う!
始まりは2016年6月。当時、パーソルキャリアの営業部門マネジャーとして、20代の若手メンバーを率いていた油谷(あぶらや) 大希は、メンバーのキャリア開発について悩みを抱えていました。日々の業務に追われ、自らのキャリアの発展性や業務のやりがいを見いだせていないメンバーがいると感じていたのです。それと同時に、自らにもマネジメントスキルの不足を認識していました。
そして、メンバーの一人である入社2年目の小栗裕子もまた、キャリアの悩みを抱えていました。パーソルキャリアの盤石なビジネススキームに乗れば、多くの社員が一定の成果を挙げやすくなっている一方で、個人としての成長機会を逸しているように感じたのも要因でした。そんなとき、ある社外セミナーで出会ったのが、社内で兼業する「社内ダブルジョブ」なる施策でした。
帰り道、2人は「パーソルキャリア向けにカスタマイズすればマッチするのでは?」という考えに至ります。その根拠になったのは、油谷の経験にありました。
油谷 「私も小栗も、『二枚目の名刺』という NPO団体でプロボノをしていました。そこでプロジェクトマネジメントのような経験をさせてもらったことが本業にも活きたことがあったんです。まずは兼業で自分が試してみる機会をつくり、それを本業へ還元していくことができればいいのではないか、と。やはり本業では失敗できませんからね」
「社内ダブルジョブ」の前提として、まずは社員へ意識調査を実施。「自分の能力は他社に行っても通用すると思うか」という質問に対して、4割が「通用しない」と考えている結果が出ました。自己肯定感を持たずに働くメンバーが増えていることの危機感は、小栗の苦い体験とも結びつきました。
小栗 「副業をテーマにしたイベントへ参加した際、人材サービスやコンサルタント業で仕事をする方から『パーソルキャリアさんとしてはどう思いますか?』と問われましたが、私は企業への人材紹介の営業しか経験がなく、対等に話すどころか、何も答えられなかったんです。人材サービス会社としての新しい働き方を提案できる存在になりたいという思いを深めました」
社外活動を通じ、日々の業務にとらわれない仕事の進め方や観点を得て、その学びを現在の業務に活かす。その良い還流は、外部企業ではなく社内の兼業でも可能なのではないか。さらに、マネジャー・メンバーに関わらず、キャリアへの悩みを解決する糸口になるかもしれない。2人は「社内ダブルジョブ」の制度を、社長へ直接アプローチし、提案することに決めました。
小栗 「巻き込み上手な油谷さんの作戦で、私がいきなり社長へメールをしたんです。『入社 2年目のやんちゃさを武器にすれば話を聞いてもらえるのでは?』と(笑)。メールを打つだけでもすごく緊張しました……。プレゼンでも全身から汗をかくぐらいでしたね」
社内の新規事業担当や、すでに先行して類似の取り組みを行っている人へのヒアリングを経て臨んだプレゼン。その当時は「メンバーの能力アップ」などの明確な価値は伝えきれなかったと小栗は振り返ります。しかし、この制度の可能性と希望には、絶対的な自信がありました。社長の返事は「まずはやってみよう」でした。
想像以上の効果!参加者のすべてが「自分の能力を認識した」
走り出した「社内ダブルジョブ」の制度をつくるべく、油谷や小栗の他にも有志のメンバーが集結。社外での兼業プロジェクトを実施する企業やNPO団体へヒアリングを行ない、パーソルキャリア内の課題と照らし合わせ、プロジェクトの仕組みをつくり上げていきました。
本業務以外に別部署の仕事を4カ月経験することで、将来のキャリアに対する新しい考え方への気づきや、成長に必要な能力開発の機会を得ることを目的に定めました。応募条件は「本業を1年以上経験していること」。
ただし、別部署の仕事を経験するといえど、単なる部門同士のマッチングだけでは目的は成しえないと考え、社内でプロジェクトをリードする「コーディネーター」、キャリア開発や能力開発を支援する「メンター」を募集し、フィードバックを得られる仕組みを導入。
コーディネーターはプロジェクトのモニタリングや進捗のアドバイスを行ない、メンターは「社内ダブルジョブ」参加社員の学びを最大化するためのコーチングを実践します。
たとえば、人材紹介事業部で法人営業を担当する参加者は、官公庁などのプロジェクトに携わる公共事業部で「社内ダブルジョブ」を実施。正社員の就職サポート数を増やす施策を企画し、企業向けのダイレクトメール作成や分析を行うなどして、企業開拓の目標値を230%達成。
公共事業部にも、自らの営業経験を共有するための「戦略マップ」などを提供しました。参加者もこれまでのスキルの活かし方や、苦手分野の把握といった成長の手応えを得られました。
「社内ダブルジョブ」の効果は想像以上でした。第1期として実施した参加者5名には、上記のように目覚ましい成長や本業への貢献が実現できたのです。第2期10名、第3期18名、第4期24名と人数も拡大していきます。
参加者からは「社内を見てもさまざまなキャリアがあり、挑戦しようと行動すれば可能性が広がっていくと気づけた」「自身の持っていたスキルが広い範囲に通用することがわかった」と、事後のヒアリングでも9割の社員がキャリアの気づきを得ました。さらに、参加者のすべてが「自身の能力を認識する機会になった」という感想を持ったのです。
停滞感を覚えていた社員が殻を破るきっかけを持てたり、他の仕事と現職種を比較検討すると自分の強み・弱みが以前より理解できたりといった「個人の見つめ直し」が進みました。さらに、通常業務と異なる頭の使い方を学び、以前より効率的に仕事を進める能力が身についたという声も上がっています。
「辞めてしまうかも……」という社員が、生き生きと仕事に向きあう
走り出した「社内ダブルジョブ」の制度をつくるべく、油谷や小栗の他にも有志のメンバーが集結。社外での兼業プロジェクトを実施する企業やNPO団体へヒアリングを行ない、パーソルキャリア内の課題と照らし合わせ、プロジェクトの仕組みをつくり上げていきました。
本業務以外に別部署の仕事を4カ月経験することで、将来のキャリアに対する新しい考え方への気づきや、成長に必要な能力開発の機会を得ることを目的に定めました。応募条件は「本業を1年以上経験していること」。
ただし、別部署の仕事を経験するといえど、単なる部門同士のマッチングだけでは目的は成しえないと考え、社内でプロジェクトをリードする「コーディネーター」、キャリア開発や能力開発を支援する「メンター」を募集し、フィードバックを得られる仕組みを導入。
コーディネーターはプロジェクトのモニタリングや進捗のアドバイスを行ない、メンターは「社内ダブルジョブ」参加社員の学びを最大化するためのコーチングを実践します。
たとえば、人材紹介事業部で法人営業を担当する参加者は、官公庁などのプロジェクトに携わる公共事業部で「社内ダブルジョブ」を実施。正社員の就職サポート数を増やす施策を企画し、企業向けのダイレクトメール作成や分析を行うなどして、企業開拓の目標値を230%達成。
公共事業部にも、自らの営業経験を共有するための「戦略マップ」などを提供しました。参加者もこれまでのスキルの活かし方や、苦手分野の把握といった成長の手応えを得られました。
「社内ダブルジョブ」の効果は想像以上でした。第1期として実施した参加者5名には、上記のように目覚ましい成長や本業への貢献が実現できたのです。第2期10名、第3期18名、第4期24名と人数も拡大していきます。
参加者からは「社内を見てもさまざまなキャリアがあり、挑戦しようと行動すれば可能性が広がっていくと気づけた」「自身の持っていたスキルが広い範囲に通用することがわかった」と、事後のヒアリングでも9割の社員がキャリアの気づきを得ました。さらに、参加者のすべてが「自身の能力を認識する機会になった」という感想を持ったのです。
停滞感を覚えていた社員が殻を破るきっかけを持てたり、他の仕事と現職種を比較検討すると自分の強み・弱みが以前より理解できたりといった「個人の見つめ直し」が進みました。さらに、通常業務と異なる頭の使い方を学び、以前より効率的に仕事を進める能力が身についたという声も上がっています。
副業や兼業から半歩先のキャリア開発
しかし、「社内ダブルジョブ」も回数を重ねるにつれ、不満も見られるようになりました。社内兼業といえど、担当部署の業務が未経験ゆえにアウトプットできる成果が乏しかったり、受け入れ先の負担が増えるなど、Win-Winの関係が築きにくくなっていたのです。
小栗 「そこで、受け入れ先には仕事の体験プロジェクトを用意してもらうのではなく、部署の課題になっていることをテーマとして与えてもらうようにしました。参加者が客観的な立場で関わりながら、解決策を企画していく内容にしたんです。受け入れ先としては、課題と知りつつ着手できていなかったことの提案や着想につながりますから」
改善を繰り返していく「社内ダブルジョブ」は、NHKをはじめとしたメディアで取材されるなど話題を集め、効果を伝えるセミナーには15社以上の大手企業が集まるといったように、社内外に対しても「新しい能力開発の仕組み」として広まりつつあります。これらの活動がパーソルキャリアの経営陣からも認められ、2018年10月には会社としての公認施策として認められ、正式な人事制度となることが決定しました。
現在では、パーソルキャリアだけではなく他のグループ会社へと拡大を遂げ、参加者からはリーダー昇格、MVPなど社内表彰の受賞者を輩出するなど貢献しています。それと共に、参加者の選定にも、より一層の工夫をするようになりました。
小栗「現在は、参加者に対しては 4次審査まで設けています。まずは応募届を書いてもらうのですが、応募動機の一貫性は審査でもよく見ます。自らの課題が社内ダブルジョブだからこそ解決できるのかをチェックします。
また、現部署にも仕事量や心身の状態などから参加可能なのかをヒアリングしますね。 3次審査からは有志の “ダブルジョブラボの ”メンバーが、社内ダブルジョブで当人だけでなく受け入れ部署内にも良い効果があるかを見定めたうえで、最終審査を経て、参加者が確定します」
現在もダブルジョブラボ(企画・運営事務局)に携わる小栗は「誰もが参加できるチャンスがあり、転職や異動よりもハードルが低いキャリア開発」と取り組みの魅力を挙げます。
油谷 「小栗の言うように、副業や兼業もひとつの選択で、制度はあります。しかし、実際にする人は少ない。社内兼業は、その点でも取り組みやすさがあるだけでなく、キャリアを見つめる効果があるのだと思います」
副業や兼業などの「新しい働き方」は世を賑わせています。しかし、それが人生を左右するようなリスクに満ちているのも事実。まずは現状からの半歩先の選択として、社内ダブルジョブという制度はパーソルキャリアの社員をエンパワーメントしているのです。