ワークシェアリングの導入で、育児中のママスタッフも会社も一緒に大きく飛躍する
急な発熱や保育園のお迎え、休まざるを得ない状況で募る罪悪感……
はじまりは、小さなレンタルドレス店でした。ミスコンシャスの創業者であり代表取締役社長の小山絵実は、2012年愛知県郊外に本社を構えます。
社員募集では有能な人材を集めようと、属性にはこだわらなかった結果、採用したのは大部分が小さな子どものいる母親になりました。
小山 「優秀な人、意欲のある人と一緒に働きたいという視点で採用したら、たまたま他社で能力以外の部分、育児中などの理由で門前払いされてしまった方が多くなったんです」
優秀な人材を獲得できましたが、一方でミスコンシャスは大きな業務上の課題を抱えることにもなります。
急な子どもの発熱や保育園からの呼び出しで、ママスタッフの早退や欠勤が、日常的に多くなったのです。10人に満たない組織で、誰かが急に抜ければ業務は途端にストップしてしまう。これは大きなリスクです。
そのうち仕事を任せるとき、本人の能力ではなく「休まないかどうか」、そんな視点で見るようになっていきました。
しかし、実は小山自身も2歳の子どもを持つ母だったのです。
小山 「私も同じ立場、大変な部分もあるけれどできないことはないと強い気持ちを持って課題に向き合いました。なぜ、こんな状態になってしまうんだろうと考えたとき、やはり子育て世代が休みやすい環境をつくることが先決だと思いました」
そこですぐさま制度を整えました。パートやアルバイトのスタッフも有給休暇をとれるように社内で徹底したり、キッズルームを併設したり。
しかし、ある1点はまったく改善されませんでした。それは……罪悪感です。
小山 「休みは取りやすくなっても、急な事情の早退や休みはあります。そんなとき彼女たちの多くは会社に『ご迷惑をおかけしてすみません』と謝り、保育園にも『なるべく早くお迎えに行きます』と謝り、常に罪悪感を背負って、ほんとうに申し訳なさそうに休むんです。
そんな光景を幾度となく目の当たりにして、まだ本質的な課題を解決していないと感じていたんです」
ベンチャーをゼロから立ち上げた小山にとって、各業務の担当者がひとりしかいないのは、ある種当たり前の状況。
しかし、会社も個人も両方の課題を解決するために、着手すべき点はひとつしか残っていませんでした。
ひとりでしかできない業務をゼロにして、それを成長のチャンスへ変える
ワークシェアリング方式が、小山の選んだ答えでした。
小山 「私自身はインターネット専門のレンタルドレスサービスを立ち上げるときに妊娠がわかりました。会社にも母体にも大変な時期が重なりながら、とにかくがんばればいいと夢中でやってきました。
でも、自分の裁量で休む・休まないの判断ができる立場と、休むたびに業務を滞らせて申し訳ないと会社や仲間に感じるのとは、ストレスの度合いが違います。
私は、スタッフには仕事以外のストレスがない環境で働いてほしいと思ったんです。だから“ニーズ ”ありき。
ベンチャーでやってきたけれど、社内の必要に応じて体制を変えることを優先しようと」
複数人でひとつの案件を担当すると、個人の負担は確かに軽くなりますが、新たな業務内容を覚えたり、慣れたりと労力も時間もかかります。会社も同じ、教育コストがかかります。
それでなくても時間に余裕のないママスタッフにとって、すんなり受け入れられるだろうか。そんな不安は、小山の杞憂でした。
小山 「日々の面談で“やりたい仕事 ”のヒアリングはしていたので、希望の業務を担当できるように考えました。休むストレスをゼロにする目的というよりは、挑戦したい仕事に思い切ってトライできると切り出して、そのうえで休みやすい体制にもなると。
だからみんな望んでいた仕事もできるし、逆にチャンスだと捉えてくれました。
大変な部分もあったと思うけれど、それが楽しさややりがいにシフトしていくのは難しくなかったと思います」
会社にとってもチャンスでした。ワークシェアリングの導入によって、純粋に能力に見合った仕事を割り振れるようになったからです。
小山 「これは本当にうれしかったですね」
ワークシェアリングが、一人ひとりの多様な可能性を引き出す
新しい体制がスタートして、さらなる新発見がありました。
個人に案件を任せる際に意識したのは、スタイリスト、運営オペレーション、ファッションライター、配送・検品業務などジャンルの異なる仕事をいくつか割り振ること。
特に事業の基幹業務でもある配送・検品は、業務が滞ることが許されません。いつでも誰でも代わりができる状態が必須です。
小山 「いろんな仕事を任せることで、実はこの人はこの業務が向いていたなんて、会社としても気づきがあったんです。だから個人の向いている業務の方に、少しずつ仕事の幅を広げるようにも意識しました。
大手企業であれば、これがいわゆるジョブローテーションだと思います。ただ、私たちのような少人数の組織は、ジョブローテーションを行なうほどの余裕はありません。でもこのワークシェアリングが、個人の特性を発見するという同様の効果を発揮したんです」
そして、もうひとつ小山のストレスも大きく減りました。自分も小さな子どものいる母親であるため、急な休みをとるスタッフの罪悪感や心情は痛いほどわかります。
しかし経営者としては会社側のリスクももちろん痛感している。両方を心底わかるからこそ、ママスタッフが申し訳なさそうに休むときは、大きなストレスがかかっていたのです。
それだけではありません。ワークシェアリングには、まだまだ想定外の成果がありました。
一人ひとりが輝き、自分の仕事に集中できる会社へ
ワークシェアリング導入後、個人のキャリアアップも進みました。
働きやすい環境になることで、パートから正社員に登用される人数は2年間で4倍に増加。さらに残業はゼロになり、かつ有給休暇消化率もワークシェアリング導入以来100%を維持しています。
小山 「一人ひとりが輝いて、自分の仕事に集中できる。そのために仕事以外のストレスつまりは罪悪感を取り除きたいと考えて、それが達成できました。ようやく本当に“平等にチャンスのある”会社になったなと思っています」
当時、もうひとつ取り組んだことがあります。会社のクレドを制定することでした。
小山 「弊社には、すべての女性に『着飾る』よろこびを、と会社のミッションがあります。働き方の改革を進めるなかで、会社として、“がんばれば誰もが輝ける場所をつくる”という働く人との約束を制定したんです。
ワークシェアリングの導入で、かなり達成できたと思っています」
働き方について、小山は決してここがゴールだとは思っていません。
小山 「望むのは、出産や育児、夫の転勤などの人生の転機がやってきたとき、退職以外の選択肢、つまり働き続けるという選択肢も当たり前にあることです。そのために、どんな環境や制度が必要なのか、それは時代とともに変わっていくと思いますし、答えはわかりません。
でも、そういった取り組みが今度は働く社員からボトムアップで生まれるようになってほしいと願っています」
ミスコンシャスらしいワークシェアリングは、働くスタッフ全員を輝かせる制度として、いまも成長し続けています。