目指すは「1エントリー、1採用」。"自前採用"で採用コストを60%削減する方法
今までのやり方を捨てたのは、”理想”が醸成されたから
新卒採用担当になって丸3年を終えた淺野麻妃は、4年目に向けて新たな改革を決断しました。
その背景には、ベーシックが2017年からタイムマネジメントの新プロジェクトを始動したことや、業務効率改善を目的としたクラウドサービスの導入など、全社的に「生産性の向上」が大きなテーマになってきたことがあります。
淺野自身が手がける新卒採用も3世代目に突入する段階。今までの反省とそれまで少しずつ醸成されてきた、採用に対する理想を反映した「採用の型」をつくりたいと思うようになっていたタイミングでした。また、ちょうど2017年度春に新卒採用専任の新卒社員が配属され、新卒採用チームがふたり体制になったことも大きな要因でもあります。
淺野が課題だと感じていたのは、ふたつ。ひとつは、採用メディアへの露出やイベント出展だけでは採用効率はあがらないけれど、進捗が芳しくなければ施策を増やすしかない、そして忙殺されるという悪循環。
そのうえ、時代は超がつくほど売り手市場。しわ寄せは、自然と中小ベンチャーへ。いい人材を得るために、どんどん採用コストがあがっていく。これが、ふたつめ。いずれも、普通に行えば費用だのみになりやすい構図になっていたのです。
そこで、淺野が掲げたのは、これまで行ってきたメディア露出とイベント出展のほとんどをやめるという大胆な方針。かわりに決めたのは、「自社コンテンツを拡充すること」と、社員に有望な人材を紹介もしくは推薦してもらう「リファラル採用の強化」でした。
従来のやり方をこんなにも大幅に変更して、はたしてちゃんと結果は出るのだろうか……。もちろん不安はありました。そのなかで、淺野の支えになっていたのは、「それでも、やってみなければ、それが正しいかも間違っていたかもわからない。大事なのは信じる理想の実現に向けてまず行動してみること」という想いひとつでした。
発信数は必ず守る、とにかく守る。それがジワジワと学生たちに伝わって……
コンテンツ拡充として行ったのは、ブログやSNS発信、採用広報ツールでの記事公開、そして、そこからの営業横断勉強会やライトニングトーク、Basic Barなどの自社開催イベントへの学生誘致でした。
特にブログに関しては、もちろん淺野自身も記事を書きますが、「そのコンテンツごとに効果的な人に発信してもらう」ことを重要視し、他のメンバーを巻き込んでのコンテンツ発信に力を入れました。
たとえば、代表取締役社長の秋山勝が更新する代表ブログの企画会議も淺野が指揮をとり、進捗管理や記事編集にも携わりました。他にも新卒ブログ、エンジニアブログ、イベントレポートなど、そのコンテンツを書くのに効果的なメンバーによる発信を促し続けました。これが多面的にベーシックという会社を知ってもらい、共感してもらうための大事な取り組みでした。
ただ……本人が「しんどかった」と振り返るのは、設定した期限どおりにきちんと原稿をあげることでした。
淺野 「会社を知ってもらうコンテンツを書くことは戦術の中でも大事なことでした。でも最初からすべてスラスラ書けたわけではなくて、長いと5時間くらい時間を取られてしまうことも。
それに、他の第三者が関わることや絶対的な期日がある業務は、いわゆる”重要×緊急”のタスクで優先順位も上がると思うんですけど、コンテンツの期限は自分との約束事でしかないので、忙しければ忙しいほど後回しにしたい気持ちとの葛藤が起きやすいんですよね(笑)。たとえ締切りを破ったところで、そのときにドカンと不利益を被るわけじゃない。
でも、他媒体をやめてまで自分が決めたことすら守れないのは、もう自分は採用担当としての仕事を放棄しているのと一緒だと思ったんです。だから、絶対に締め切りは守るということは貫きました。地味ですが、自分との戦いでしたね(笑)」
その戦いの褒賞は、学生からの反響という形で帰ってきました。エントリーシートや面談のなかで、「◯◯の記事を読んでいいなと思った」という言葉が、少しずつ出てくるようになったのです。確実に学生に刺さっているという手応えは、日に日に増していきました。
また、記事は「今日話した内容だけど、この記事が詳しいから後で読んでね」というコミュニケーションツールとしても活躍。時間の節約にもなり、淺野がいちから説明しなくても、記事自体が独立して動いてくれるという効果もありました。
懸念は、発信数を決めたはいいが、はたしてネタは続くのか……。
淺野 「半強制的に自分のなかで書くこと自体が目標になっているので、自然と普段の生活のなかでネタ探しのモードになっていました。誰かと何気なく話した会話で、あ、これはネタになるなとか、常にスイッチが入っている状態。最初はそんなに書くことないんじゃないかな…と正直ちょっと不安だったんですけど、始めてみたら『これは書いてみたら面白いかもな。あ、あれもいいんじゃないか』という感じでどんどん出てきたんです。“ネタがあったら書く”のではなく、“書くと決めて探す”ということなんだなとわかりました」
そして、もうひとつのリファラル採用の強化も、思いの外大きく動きはじめました。
「類は友を呼ぶ」人とのつながりの輪を意識したら、自分の中にも共通点があった
「”いいひと”の周りは、”いいひと”である確率が高い」——。
そう仮説立てた淺野は、並行して地道な紹介活動を開始しました。対象者は、新卒1年目の社員や、いいと思った学生の友人など。その学生を起点として地方イベントなども行いました。
たとえば、ある社員の出身大学の香川大学で、“学生の問題解決をする”という主旨で”自分の理想を知る”をテーマに就活セミナーを開催。学生に集客を任せたり、企画にも入ってもらうというスタイルで、多くの学生が集まり大盛況に。東京だけでなく、地方での積極的な活動も推進しました。
近頃は後輩にまかせる部分も大きくなってきましたが、淺野は、学生と直接話す面談の時間を今もとても重要視しています。「たとえ時間がなくても、短時間で見極めよう、とは思わない。一人ひとりユニークな存在だし、その人の本質にいかに触れられるかを大事にする」。これが淺野のポリシー。そのなかで、ひとりの学生が印象に残っています。
淺野 「彼は、エントリーをとにかくたくさんだして就活をしていたけれど途中で心が折れて、しばらく就活を辞めていたそうなんです。気に入られるように、ウケるようにと書かれた自分のエントリーシートをふと冷静に見たときに、“これは誰やねん”と現実の自分との乖離がひどくて疲れちゃったと。そこからありのままの自分を出して受け入れてくれるところでいい、と吹っ切れたらしくて。
そんななかでベーシックは、ダメなところもひっくるめて本当の自分をみて肯定してくれるという安心感があった。そういってくれたんですね。とても嬉しかった」
淺野は照れ臭そうに笑います。「自分もベーシックに入った時、同じように思った。私も彼と類友なんだなと感じたんです」——。
人は生もの。会社も人の集まりでできているから、完全な存在ではない。それが前提にあってその上で、その人の強みを弱さと一緒に受け入れる。そんな土壌がベーシックにあるーー。
もちろん、その彼は、ベーシックに入社を決めました。
理想を見続ける。それが、想定以上の結果を実現する
大事なことは理想を持つことーー。ふたつの施策の成功の要因を、淺野はそう分析します。
淺野「実際に決めたことを、決めた期間で実行してみることでしか、正解かどうかは検証できない。だから失敗したとしてもやると決めたことは絶対やる!という覚悟でした」
一度、代表の秋山から「新卒採用のために、ある企画をやってほしい」と頼まれたことがありました。でも、その内容は、淺野が決めた今年度の方針から大きく逸脱すること……。「どうしても、やりたくなかった」と淺野は吐露します。そこで「なぜやりたくないのか」をA4サイズの用紙にびっしり理由を書き込んで、思い切って秋山に談判したのです。
淺野 「それでもやってよ、と言われたらやる覚悟でしたけど、答えは意外なもので。秋山からは、自分がやっている仕事にそれだけ熱量をもってくれることが嬉しい、と言われました。知らず知らずのうちに自分のなかに断固とした理想ができあがっていたことに、そのときですね、気づいたのは。新卒採用担当になりたてのときは“くるもの拒まず”で、なんでもやっていたので」
「1エントリー1採用」という状態を理想のゴールにおいたことで、現状とのギャップが明確になり、ぶれずに最後まで走りきれた。もちろん、スケジュールがずれることや内定承諾率に苦戦するなど予想外なこともありましたが、“理想を明確に”しているから、必要に応じて手段は臨機応変にかえることができた。変化への“柔軟性”も成功要因のひとつ。
それらの集積が、採用目標人数の達成と採用コストの60%削減という結果に導いたのです。
淺野 「もちろん正しいと思う方向に信念を持って取り組んでいたけど、採用はすぐに結果が出る類の仕事ではないので、途中で不安になることも多々ありました。これでひとりも採用できなかったらどうしよう?と。1年終えて成果を目の当たりにしたときは、ようやくホッとして。思いを持って貫くことの大事さを知ることができたし、それがもたらす代えられない経験を手にすることができたなと思います」
ずっと見続けた採用の理想。そこだけを見つめて、やり切ること。その強さが、大きな成果を生み出しました。