EX×音声体験──“声”でのコミュニケーションによって組織立て直しを図る
離職率67%からの復活──EXの強化で、組織の立て直しを図る
株式会社Voicyは「音声×テクノロジーでワクワクする社会をつくる」ことをビジョンに掲げ、事業を行っています。2020年1月、当社は組織づくりに対し、大きな課題を抱えていました。当時の状況を、人事責任者兼カンパニークリエイターの勝村 泰久はこう振り返ります。
勝村 「当社は2019年から採用に力を入れ始めたのですが、組織づくりがうまくいっておらず、同年の離職率は67%でした。2020年を迎えたときには、30名強いた社員が半数ほどに……。このままではいけないと危機感を持ち、組織の立て直しを急務で行うことにしました」
組織を立て直すには、従業員が働くことで得られる体験価値を高めることが重要だと考え、Employee Experience(以下、EX)に注力し始めます。
組織配置や決裁権の見直し、人事評価制度やエンゲージメントサーベイの導入、1on1面談の定期化、月2回以上の社内イベント実施など、EXに力を入れると次第に組織の基盤が整っていきました。そこで、採用活動の再開と同時に、次なるEXが必要になりました。
勝村 「人数が半数に減ったところで採用を強化したため、その分2020年4月以降に一気に人が増えるのはわかっていました。人数が急増すると、組織として混乱が起きやすい状況になります。そのため、入社時のオンボーディングと新入社員を中心に置いたEXの強化が重要だと考え、実行していきました」
EXに、音声体験を!Voicyだからこそ行き着いた、新しい入社体験
ここで、人事コンサルの経験がある勝村に、ある考えが浮かびます。
勝村 「一つひとつのEX施策に、当社の事業でもある音声体験とかけ合わせることで、より良い体験を社員に提供できるんじゃないかと考えたんです。当社にはカンパニークリエイターチームという組織開発専門のチームがあるのですが、そこのメンバーにそれを伝えると、皆賛同してくれて、早速『喜んでもらう』『不安を取り除く』のふたつの軸で、新入社員に向けて音声を活用するVoice Employee Experience(以下、VEX)を設計することになりました」
まず着目したのが、入社の前。採用活動段階からEXは始まると考えていたため、社長の事業への想いを面接前に候補者へ音声で届けたり、社員の入社エントリーや会社のイベントレポートなどを音声番組にした声のオウンドメディアを作成したりと、誰でも聴けるようにしました。また以前から行っていた「声のオファーレター」もコロナ禍リモートワーク体制でも対応を続けられるようにカスタマイズして、内定時に引き続き送れるようにしました。
2020年4月に入社した、広報兼事業開発の堤 強一は、当時の体験をこう話します。
堤 「声のオファーレターは、面接してくれた方々のメッセージが入っていて、めちゃくちゃ嬉しかったです。声を聴きながらその人の顔が浮かんできましたね。直接だと言いづらいような嬉しいメッセージもあり、入社に対しあらためて気合いが入りました」
勝村が続けます。
勝村 「入社意志に何が一番クリティカルヒットしたかを入社後アンケートで確認しているんですが、『声のオウンドメディア』がダントツ一位なんです。テキストにはない音声の力に驚きました」
次に着目したのは、入社初日。
勝村 「当社では、初日に配属チームメンバーとランチをして、初日からできるだけコミュニケーションを図れるようにしています。ただ、初対面でいきなり砕けたコミュニケーションを取るのはハードルが高いと思っていました。そこで、自己紹介を先に音声で済ませれば、共通言語が見つかり、コミュニケーションの入りがスムーズなんじゃないか、と考えたんです」
入社初日に行われるオンボーディングのランチ前のコンテンツとして「入社ウェルカムメッセージ」を聴いてもらいました。社員からの自己紹介だけでなく、期待していることや、面接での良かった点などが盛り込まれたメッセージです。
勝村 「メッセージによって、初日の緊張や不安が取り除かれたと、喜んでもらいました。音声の内容をもとに、その後のランチも盛り上がっていますね」
“瞬発的な感情”ではなく“持続する感情”を──音声体験が育む自己肯定感
既存社員に向けては、MVPの表彰時に、チームメンバーから祝福の言葉を「MVP受賞お祝いメッセージ」として“声で”送ることにしました。
勝村 「表彰されるときに、みんなの前で表彰状を読まれ、自己肯定感が上がるのが通常の流れだと思います。たしかにみんなの前で称賛されるのは嬉しいですが、どちらかというと“瞬発的”な感情の高揚なんですよね。
そこにVEXを加えることで、表彰時の瞬発的な感情だけでなく、帰宅してからもじんわり“持続する”情緒を生み出せたらと考えました。
あと表彰状ってみんなが聞いたり見たりするので、実は本音を書きづらいんじゃないかと思って。表彰者しか聴かない『あなただけ用』のメッセージって、書き手側の心理的安全性も高いので本音が出るんじゃないのかなと思ったんです」
表彰状の横に「後で聴いてね」と書かれたQRコードがついています。アクセスすると、表彰状には書いていない上長からのアツい想いや、メンバーからの感謝の言葉などを音声で聴けるのです。CDのA面B面をイメージして作りました。
勝村 「お祝いメッセージをもらった社員からは、『声だからこそ伝わる気持ちがあって嬉しかった』『こういうメッセージをもらうことで、自分も積極的にメンバーに感謝を伝えようと思った』『仕事に疲れた時に聴き直している』という声があがっています。
家に帰ってからゆっくりと何度も聴けることで、感情や自己肯定感の持続性を育むことにつながります。また、お祝いメッセージをきっかけに、社員同士のコミュニケーションも活性化されています」
また、「MVP受賞お祝いメッセージ」を良き例として、社内の他のメンバーにも相乗効果を生めないかと考え、社員だけが聴ける「表彰者インタビューチャンネル」を作成しました。
勝村 「このチャンネルには、表彰式当日の現場の音声や表彰者の後日インタビューが収録されています。『後日インタビュー』では、表彰式当日では語りきれなかった受賞に対する気持ちや、仕事をする上で大切にしていることなどを語ってもらいます。これによって、より深い人物理解と、メンバーのモチベーションアップにつながる仕掛けになっているんです。アーカイブ情報なので、オンボーディングにも使えます」
声で、人生の軌跡を感じる──VEXで入社前から退職後までをひとつに
EXだけでなくVEXにも取り組んだ結果、エンゲージメントスコアは25ポイント向上。離職率は、取り組み前の67%から8%にまで下がりました。また、入社前の内定承諾率が向上するなど、VEXは当社の重要な取り組みのひとつとなったのです。
勝村は音声の魅力をこう話します。
勝村 「テキストと動画、そして音声と考えたとき、音声が一番感情に訴求できるのではないかと思っています。
聴覚情報だけなので、想像し妄想できる余白と、声だから伝わる情報の正確さの塩梅が、より良いのではないかと。また、音声は一対一の感覚になり、メッセージをくれた相手の想いを感じやすいんです。
あと何よりも作成コストが低い。動画やテキストに比べてめちゃくちゃ楽にすぐ出来ます。これが一番魅力かもしれません(笑)」
半期ごとに上長と行う査定評価にも、VEXを取り入れました。面談が終わり、会社からの評価も受けた後、評価に対し何を思い、次の半年で何を頑張るのかを音声で残す「半年後の自分へ」というコンテンツです。
勝村 「半年後の査定評価時に、まずは半年前の自分からのメッセージを聴き直すところから始めます。半年前の考えを音声で聴くことで、当時の感情を思い起こせるんです。感情体験から半年間の振り返りを始められるのは、テキスト体験よりもいいなと実感しています」
採用活動時のオファーレターから始まり、内定通知、入社初日、半年ごとにある自分からのメッセージ、表彰時の仲間からの言葉などが、自分の音声チャンネルに思い出としてすべて残るようになっています。
勝村 「退職時に、これまでの音声を聴いてもらいながら自分の成長を実感してもらい、最後にみんなからの送り出しのメッセージ『声の寄せ書き』で締めくくる。そんな自分のVoicyでの軌跡を感じてもらえるVEXにしていきたいです。声の軌跡で、会社のファンになって退職する、そんなEXを目指しています」
声で人生をたどる──その壮大な目標に向かって、勝村の挑戦は続きます。