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コロナ禍でも「リゾートワーク制度」を継続?社員と地域の熱意で生まれた新しいカタチ

株式会社ヌーラボ
ワーケーションに“社員教育”の要素をプラスした、株式会社ヌーラボの「リゾートワーク制度」。順調に3年目を迎えるはずだった2020年の実施が、新型コロナウイルスの影響で中止の危機に。しかし、社員と地域の人の熱意により継続実施にまでこぎつけたその背景を、株式会社ヌーラボ人事労務課の安立 沙耶佳が語ります。

研修型ワーケーション──ヌーラボの「リゾートワーク制度」

▲「リゾートワーク制度」が本格始動した2018年──沖縄県宮古島市の中学校での授業

当社では、2017年に実施した、働きがいと社員満足に関する社内調査がきっかけで「リゾートワーク制度」が誕生しました。これは、調査結果で「社員教育や研修」の満足度が他の項目に比べ低かったことを受け、ワーケーションに「社員教育」の要素を組み込んだものです。

リゾートワーク制度では、会社が指定する地域にある小中学校などで、社員自身が学校の先生となり、子どもたちに出張授業を行うことが必須。そして、帰社後は自身の体験をブログ記事にして公開することが条件です。

安立 「できる限り社員自身に授業内容を考えてもらいます。授業をつくるプロセスでは、日常生活からいったん離れて立ち止まってみて、自分自身を振り返る良い機会になるんです。また、私たちのスキルや視点を授業でお伝えすることで、受け入れ先への貢献にもつながっています」

2018年から本格始動したリゾートワーク制度は、毎年社員の約10%が参加する制度となり、2年間の累計で約20名の社員が参加。

また、同行する家族に対しても費用を補助することで、家族の理解も得やすい制度設計にしました。そのおかげで、家族の推薦で申し込む社員も出てくるなど、制度として好評を得ていました。

コロナ禍で90%が受け入れ不可の状態に。継続の危機に立たされる

▲北海道東川町の日本語学校での授業(2019年)

順調に制度として確立し始めていたリゾートワーク制度。しかし、2020年春に発生した新型コロナウイルス(以下、コロナ)の流行により、事態は急展開を迎えることになりました。

安立 「当初のスケジュールでは、6月に社内エントリーが始まり、9月から順次滞在して授業を行う流れでした。ですが、春ごろからコロナにより雲行きが怪しくなっていったんです……」

2020年3月、日本全国の小中学校ではコロナの感染拡大を防ぐため、一斉休校措置が取られました。もちろん、当社が連携している沖縄県宮古島市と北海道東川町も例外ではありません。

安立 「一斉休校で授業コマ数が削れた分は、夏休みを短縮して授業に充てるなど、学校側のスケジュールはひっ迫していったんです。最終的に、当社が行う社外講師の特別授業は、中止せざるを得なくなりました」

社内エントリー開始まで残り1カ月に迫った2020年5月、昨年の受け入れ先であった小中学校などの約90%が受け入れ停止に。順調に積み重ねてきたリゾートワーク制度は、コロナ禍で継続困難な状況となったのです。

安立 「社内エントリーを開始する6月の時点では受け入れ先がほとんどなく、かと言って中止にしていいものなのか、実施の可否を決めきれずにいました……」

中止検討から一変。社員と地域の人の熱意を受け新形態で実施へ

▲コロナ禍で新たにスタートしたベンチャー企業との新規事業創造ミーティングのプログラム(2020年)

コロナにより中止という考えが頭をよぎる中、リゾートワーク企画チームのもとに状況を一変させる声が届きました。

安立 「社員から『今年も家族と楽しみにしていた』、『良い制度だから継続してほしいし期待している』という声があがったんです。受け入れ先の地域の方々からも『地元を活性化できる取り組みなので、少ない人数でいいから来てほしい。なんとか継続できる方法を一緒に考えましょう』と、嬉しいお言葉をいただきました」

双方から制度の継続を大きく後押しする声が集まり、7月には一変して実施する方向へ舵を切ることに。そこで、地域と協力した新規の受け入れ先の検討を開始しました。

安立 「地域の方から『あそこはどう?』、『ここはどうだろう?』とご提案をいただいて、トントン拍子に進んでいきました。ただ、どこにどういうカタチで社員を派遣するのかを決めるのが大変で……。とにかくどうやって実行するかだけを考えていましたね」

沖縄県宮古島市では、塾を運営する民間企業と連携。学校の授業ではないため、保護者も一緒に参加できるプログラムにしました。

一方、北海道東川町では、授業以外のプログラムを企画することに。これには安立のこんな想いが込められていました。

安立 「今まで授業を行うことが必須だったのですが、授業をするハードルが高くて応募しない人もいたんです。なので、この機会に授業ではない違うカタチができないかと考えました。そこで、もともと知り合いだった創業期のベンチャー企業とのコラボレーションを思いつきました」

東川町にあるベンチャー企業の新規事業に対し「新規事業の構想」を行う新形態を企画。ほかにも、町が運営するクラウドソーシング事業に登録する方々に向けた、スキルアップ研修も企画しました。

安立 「スキルアップ研修では、仕事の進め方やちょっとしたチラシのデザイン、プレスリリースの文章の書き方など、これからパソコンを使い始める方でも参加していただけるような研修を企画したんです。

難しいことを、わかりやすく伝えるように設計するのがとても難しく、普段私たちにとっては当たり前のことや、使用する言葉などを一度壊してつくり直す作業をしていきました」

「リゾートワーク制度」へのこだわり。四方良しを軸に取り組みの輪を広げる

▲これからも「リゾートワーク制度」にこだわり展開させていきます!

受け入れ先でのプログラムが確定するとすぐに社内募集をかけ、10月には北海道東川町にひとり目の滞在がスタート。2020年度内に合計10名の社員が制度を利用する予定です。

安立 「10月に滞在したひとり目の社員は、2年前にこの制度で授業を行ったことがあるのですが、今回はベンチャー企業の新規事業に携わることで、授業とはまた違った刺激をたくさん受けたと言っていました。また、参加のハードルが下がったという声もいただき、新たな広がりを感じています」

中止の危機から実施にまでこぎつけたリゾートワーク制度。安立はあくまでワーケーションではなくリゾートワーク制度にこだわっていると話します。

安立 「当社はどこで仕事をしても良しとする“勤務地条件なし”の採用を行っており、有給休暇の取得も積極的なので、そもそも一般的にいわれる“仕事場所を変えた息抜き”や“有給休暇取得の促進”といったワーケーションだと、当社にとっては意味がないんです。

『当社がワーケーションをする意義』を考えたとき、会社や社員だけでなく、受け入れ先の地域や社員の家族も含め、みんなにとってメリットがある制度にする必要があると思いました」

会社・社員・地域・社員の家族それぞれにメリットがある“四方良し“の制度設計がこだわりであり、それこそが当社のリゾートワーク制度なのです。また、継続することに意味があるとも安立はいいます。

安立 「単発で受け入れてもらうとなると、受け入れ側にとってはあまりメリットがないと思うんです。実際、地域の学校からは平等性を保つために全学年に授業をしてほしいなど、ご要望をいただくことも多いです。なので、年間で3~4名は担保したいと思っています。

ただそうなると当社の人数も限られるので、ほかの地域に展開すると一カ所に行く人数が減ってしまいます。ですので、今後は当社だけでなく、他の企業様ともどんどん組んで、この制度を広げたいです。そうすることで、人数を担保したまま地域の選択肢を広げることができるので、双方のメリットが保てると考えています」

受け入れ先からは来年度の新しいお話もいただき、リゾートワーク制度は中止の危機を変容させることで新たな広がりを見せています。今後も、企業のスキルを求める地域とつながることで、“四方良し”を軸とした、ヌーラボの研修型ワーケーション、リゾートワーク制度を成長させていきます。