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WORKSTORYAWARD2020

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「あえて、真冬の五島であいましょう」──観光閑散期×ワーケーション=五島市の挑戦

長崎県五島市役所・地域協働課
昨今、耳にする機会が多くなった「ワーケーション」。これを、地方移住の誘致に活用できないか。そして、観光閑散期と掛け合わすことで、地域の経済効果にも寄与できないか──長崎県五島市の「閑散期×ワーケーション」への島内を巻き込んだチャレンジを、長崎県五島市役所 地域協働課 課長 庄司 透が語ります。

閑散期の経済効果に──真冬の五島ワーケーションチャレンジ2020

▲GOTO Workation Challenge 2020 メインビジュアル

長崎県五島市役所では、人口減少対策を最重要課題と掲げ、地域協働課において将来的な移住者増加に向けた新たな事業を模索していました。

庄司 「これまで移住してきた方で、電波環境がよくパソコンがあれば仕事ができる人たちを見て、もし東京オリンピックが開催されたら、それをきっかけに働き方が変わるかもしれないと考えました。

その流れの中で、五島市でもリモートワークができることを、五島市の出身者や学生、移住希望者に知ってもらえたら、将来帰ってきたり、移住したりするきっかけになるかもしれない!と思ったんです。

国としてもワーケーションを推奨する動きがあり、ワーケーションを移住のきっかけにできないかと、課内で協議が始まりました。プラスして、せっかくなら観光閑散期である真冬に開催することで、地域の経済効果にも寄与できないかと検討し始めたんです」

こうして、五島市の島内を巻き込んだ「真冬の五島ワーケーションチャレンジ2020」がスタートしました。

ないならつくる、頼る、お願いする。島内を巻き込み課題をひとつずつクリア

▲「映える」砂浜の通信速度調査

真冬のワーケーションチャレンジがスタートすると同時に立ちはだかった課題は、大きく4つありました。

1つ目は、冬のワーケーションチャレンジに50人も集まるのかというものです。

庄司 「主体的でクリエイティビティの高い50人を募集しようと始まったんですが、そもそも冬の五島市に参加者が集まるのか?と不安がありました。そこで、市のHPだけでは人が集まらないことを想定し、PRTIMESを活用することで複数のメディアに取り上げていただいたんです。

募集当初は応募が少なくて知り合いに営業もしました。最終的には首都圏のフリーランスやワーケーションに興味がある会社員など、ご家族含め62名に参加していただきました」

2つ目は、ワークスペースがないという課題です。

庄司 「ご案内できるコワーキングスペースが1カ所しかなかったので、『無いならばつくればいい!』と、コミュニティスペースや飲食店にお願いして、ワークスペースを確保していきました。

ほかにも、SNSでの“映えスポット”である、五島自慢の砂浜にもWi-Fiが届くよう設置して、快適な仕事環境づくりを意識しました」

3つ目は、子どもの受け入れをどうするかです。

庄司 「親子で参加される方の中には小学生のお子さまを連れてこられる方もいて、いろんな経験をさせたいから地元の小学校に通学させたいとのご要望がありました。

教育委員会事務局へその旨を連絡すると、各学校長の判断に任せているということで、学校へご相談に行ったんです。すると、校長先生の『今の時代に必要な多様性を育む機会になる』という考えのもと、体験入学として子どもたちを受け入れてくれることになりました。保育園も『私たちにできることなら!』と、快く受け入れに応じてくれました」

4つ目は、参加者と地元の人をどのようにつなげたらいいかというものです。

庄司 「都市部から参加者が来ても、地元の方との交流がないと単発の事業になってしまいます。また、参加者との交流会や勉強会に、地元の人がはたして参加してくれるのか?と不安がありました。

そこで、心理的にも物理的にも参加するハードルを下げるため、堅苦しい交流会をやめて、食べ物や飲み物を持ち寄るポットラックパーティや、参加者のスキルを生かしたワークショップを無料で開催することにしました」

こうして4つの課題を、島内を巻き込みながら一つひとつクリアしていき、真冬のワーケーションを迎えました。

お互いが知的人的刺激を受ける場となり、9割以上が「満足」の結果に

▲延べ251名が参加した「ポットラック(持ち寄り)パーティ」

2020年1月16日からの1カ月間、3泊以上9泊以下で各参加者の都合で五島市に来ていただきました。「ポットラックパーティ」は、参加者に必ず1回はご参加いただけるように、毎週1回計5回開催。いつ来てもいつ帰ってもいい、自由でゆるい交流会にしたことで、延べ251名にご参加いただきました。

そこでは肩書きにとらわれず、手作りの美味しい食べ物を持ってこられた方が中心となって話が弾み、自然とスキルの交流が行われていました。

庄司 「地元の農家さんの『HPやECサイトのことがわからない』という悩みに参加者が相談に乗ったり、『釣りをしたい』という参加者の要望に、地元の方が船を出して一緒に釣りに行く約束をしたりと、自然とお互いが知的・人的刺激を受ける場になっていたんです」

スキルの交流はワークショップでも──。

庄司 「地元にないスキルを持った方が多く参加されていたので、ワークショップができる方を募り、無料で開催してもらったんです。従来であれば、島外に出てお金を払って参加するようなものを島の中で、しかも無料で受講できると地元の方からも大好評でした」

Web広告やマーケティング、演劇メソッドを活用した伝える力を育むワークショップ、子どもを対象とした未来のエンジニアラボなど、開催されたワークショップは多種多様。合計12回開催し延べ223名が参加され、当初不安に思っていた地元の方と参加者の交流は活発なものに。

そのおかげか、真冬のワーケーションへの参加後アンケートでは、本事業に対して9割以上の方が「満足」する結果になりました。また、観光での再訪意欲は7割以上、仕事での再訪意欲も約6割の回答をいただきました。

訪れる側・受け入れ側、双方にメリットがあるしくみづくりの先に移住がある

▲参加者と市民の交流を目的としたイベントのひとつ「畑de焼き芋しながら五島の農業の課題をシェアする交流会」

この事業の成果は、参加者の満足度だけでなく多方面で得ることができました。

庄司 「通常、五島市を訪れる観光客の宿泊数は1.53泊(令和元年)であるところを、本事業では平均4.13泊と、観光閑散期でありながら長期滞在による観光消費に寄与しました。宿泊・交通・飲食費などの一次消費額は少なく見積もっても約650万円で、経済波及効果は約1,060万円です。

ほかにも、ワーケーションに関心のある企業からツアーなどのご提案をいただくようになったり、地元旅行会社の“ふるさと納税の返礼品”にワーケーションで使える旅行券ができたり、大手携帯会社と連携協定も締結したりしました」

また、この事業を通して行政職員のITリテラシーやスキルが向上し、コロナ禍では全国に先駆けてオンライン移住相談会や移住セミナーを開催するまでになりました。

庄司 「ワーケーションの推進は訪れる側と受け入れる側の双方にメリットがあるしくみづくりが大切だと考えています。また、五島市にとって、ワーケーションはあくまでツールであり、その先の移住につながる取り組みとして、他の自治体との違いを出す必要があるとも考えています」

他の自治体との差別化のひとつが、“課題解決型”のワーケーションです。五島市は人口減少の課題を抱えた、ある種日本の未来の姿。五島市の課題を解決できれば、これから来る日本の未来の課題も解決できるともいえます。

庄司 「参加者がただ仕事と観光をするのではなく、五島市と一緒にこれからの時代に必要な課題を設定し、それを解決できるビジネススキルを磨ける場にしていきたいと考えています」

ワーケーションに取り組む参加者が地域課題に触れたことで、Webマーケティングや引越し会社など、五島市の課題を解決するため6名が創業することになりました。

まずは「五島市を知ってもらい」次に「地域に関わってもらう」。そして、気に入ってもらうことで「地域に、人に、会いに来てもらう」。こうした段階を経たその先に、移住の選択肢がある。

島として、日本の課題先進地として、今後も移住につながるワーケーションの正解を模索しながら、柔軟に取り組み挑戦していきます。