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障がい者にも選択肢を。誰もが使える、就労支援eラーニングサービス誕生までの軌跡

株式会社manaby
  • テーマ別部門賞
障がい者の「就労移行支援」を中心とした就労支援事業を行う株式会社manaby。デザインやプログラミングといったITスキルを学べるeラーニングサービスを提供し、就職者の5人に1人が在宅就労という働き方を実現できるようになりました。このサービスの発案者、代表の岡﨑 衛が誕生秘話を語ります。

障がいを持つ人が自宅にいながら働けるようサポートしたい

▲株式会社manaby代表の岡﨑 衛

障がいを持つ人の中には、働きたいと思っても精神的・身体的理由で家から出られない状況にある、という人が少なくありません。代表の岡﨑 衛は、彼らが自宅にいながら働くという選択肢を提供したいと考えました。

岡﨑 「障がいによって外に出られないから、働きたくても働けない、という人を一人でも減らしたいと思いました。そこで、独自のeラーニングシステムを構築してコンテンツを配信し、自宅でスキルアップをしながら、最終的には在宅就労を目指すことができる支援を始めました」

そもそも岡﨑は、2011年から障害者施設の運営に携わってきました。そこで大きな問題に直面します。

岡﨑 「私が運営する施設では、家族との関係性や学校でのいじめ、職場の同僚との関わりといった『人間関係』がきっかけとなり、精神的な障がいを抱える人が多くおられました。一方、当時障害者雇用の多くは会社に出勤して決められた時間働くというスタイルがほとんどでした。みなさんそのスタイルに合わせた就業訓練を受けて就職されるのですが、会社に出社して職場の『人間関係』にどっぷり浸かりながら仕事をすることがストレスで、すぐに離職してしまう人が多かったんです。障がいの特性で人混みや乗り物が苦手な方は、通勤が負担となって体調を崩してしまうこともありました。

また、これまでの就労移行支援といえば、事業所に直接出向き、講義を受けたり面接の練習をしたりするのが一般的でした。ところが、障がいの特性などによって家から出られない人は、支援を受けられないということに気づいたんです」

ないならつくる!障がいを持つ人が使いやすい就労支援のeラーニングシステム

▲事業所での支援風景

障がいを持つ人の就労支援について課題を感じた岡﨑は、既存の一般向けeラーニングサービスを利用者の訓練に取り入れてみることにしました。しかし、残念ながらうまく機能しませんでした。

岡﨑 「当時利用したeラーニングサービスは、就労移行支援で使うには難しく、マッチしなかったんです。システムの使い方やコンテンツの内容について利用者さんから毎日のようにたくさんの質問がきて、スタッフが対応に追われる日々が続いていました。

そこで『自分たちで、誰もが使いやすいeラーニングコンテンツを開発して提供する、新しい就労支援の仕組みをつくろう』と思い至り、立ち上げたのが今のmanabyです」

manabyのコンテンツは、一般的なeラーニングサービスに比べ、よりわかりやすさを意識してつくられています。「専門用語を極力使わない」「ナレーションは聞き取りやすいようにゆっくり話す」「字幕をつける」「休憩がとりやすいようにコンテンツを短く区切る」「課題を出して参加型にする」といった工夫がなされているのです。

岡﨑 「10年ほど自宅に引きこもっていた方が、manabyでの在宅訓練をきっかけに社会と接点を持てるようになったことから自信が生まれ、車椅子で事業所に通うようになりました。それから最終的にはITスキルを活かして在宅就労を実現され、ご本人にはもちろんのこと、ご家族もとても喜んでおられましたね」

manabyをきっかけに外出できるようになり、事業所に来るようになった利用者の方はほかにも多くいらっしゃいます。そういった方は、そばで見ていると次第に顔つきが変わっていくのがよくわかります。

これまでは誰とも関わりがなかったところから、事業所の隣の席の人に「おはようございます」と挨拶ができるようになり、少しずつ会話ができるようになり、次第に表情が晴れやかになっていくのです。

今では、大人になって初めて「学ぶことが楽しい」と気づき、昔諦めてしまったデザイナーの道にもう一度チャレンジしている方や、自分の夢に気づき、それをかなえるためにより一層勉強に励んでいく方など、一歩踏みだして進んでいく利用者さんの姿が多く見られるようになりました。

学びたいのに学べない。制度の壁に直面して生まれた新サービス

▲事業所の様子

利用者の変化について、岡﨑はこう話します。

岡﨑 「就労支援も含め社会には『こうじゃないといけない』という固定概念が存在します。しかし、manabyではそのような固定概念で利用者さんを縛るようなことはしません。

人間関係が苦手なら、人間関係の少ない働き方を選べばいいし、家から出られないなら在宅ワークを選べるようになればいい。支援員と相談しながら、ITスキルを学び、自分の障がいや特性ととことん向き合う。そうすることで、利用者のみなさんの中で何か発見があるのではないかと思います。対話の中で自分らしさや目標を見つけられる、そんなきっかけを提供できる場所でありたいと思っています」

ただmanabyは、国の障害福祉サービスの一環である就労移行支援事業のため、国や市町村の判断により、障がいを持つ人が使いたくても使えないケースが多くあります。

岡﨑 「たとえば、現在入院して療養サービスを受けている人は使えない、就労中の人は使えないなど、さまざまな制約があります。

そこで、利用者さんに月額料金をお支払いいただく有償サービスの提供もスタートしました。条件を問わず、サービスを受けたいと思った人が誰でもどこにいてもeラーニングコンテンツを利用でき、キャリア相談ができるようになっています」

有償サービスを実施するにあたり、コンテンツの内容だけではなく、どのくらいの価格帯なら利用してもらえるか、そして会社としての継続可能な価格帯のラインはどのあたりかについて、何度も話し合いながらすり合わせを重ね、サービス提供までこぎつけました。

全国でサービスを必要とする方のために、manabyを届けたい

▲支援員も利用者からパワーをもらっています

2020年は、関西に初めて事業所を出すなど、会社としてもチャレンジの幅を広げており、おかげさまで事業所開設以降多くの人に利用していただいています。

2021年にもいくつか事業所開設を予定しており、会社としてはスピード感を持ちながらも丁寧に事業展開を広げているところです。

岡﨑 「まだまだ求められる声に対して、サービスの提供が追いついていないと感じています。最近は、九州や北海道の方からもサービスを利用したいと問い合わせが増えているので、ここから数年間は、全国に事業所を広げつつ、学べるコンテンツの強化も図っていきたいですね」

在宅就労を含めて、障がいを持つ人の働く選択肢を増やすことを目指しているmanaby。

身体的・精神的な障がいなどさまざまな理由で外に出て働くのが難しい人たちが、どうすれば自分らしく働けるのか、自分らしく生きていけるのかを常に考えて、事業を展開しています。

普段、障がいを持つ人たちの働き方をサポートしている支援員も、利用者さんが自分と向き合いチャレンジしていく様子に、勇気とパワーをいただいています。

支援員は利用者さんに寄り添い、その方が長年自分のマイナス面だと感じてきたことを第三者目線でフラットに見つめ、一人ひとりにとってどのような道がベストなのか、寄り添いながら真剣に考えてサポートをしているのです。

岡﨑 「障がいを持つ人への就労支援事業について、身近にそういった人がいないことで馴染みがない方もたくさんおられると思います。また、私たちがやっている支援が、必要とする方々にまで届いていないと感じることもたくさんあります。

だからこそ、このような形で情報発信を続けていくのも含めて、私たちの使命だと思っています」

障がいを持つ人たちが働き方を選べる社会の実現を目指して、岡﨑の挑戦はこれからも続きます。