ヤッホーブルーイング流チームビルディング──二桁成長を後押しした社内研修とは?
売り上げが伸びているのに暗い社内。成長するチームづくりの必要性
クラフトビールを販売する株式会社ヤッホーブルーイングでは、2005年から15年連続の増収増益を果たしています。「よなよなエール」「インドの青鬼」など、味も名前もバラエティに富んださまざまなクラフトビールを展開しています。
社内の雰囲気は明るく、ニックネームで呼び合うほどスタッフ同士の関係は良好。2017年から4年連続で「働きがいのある会社」にランクインしているほど、スタッフにとって働きやすいと評される会社です。
しかし、2008年ごろは、現在のような状況が考えられないほど、社内は暗い雰囲気でした。
地ビールブーム崩壊の影響もあり、1997年の創業から8年連続赤字が続きました。ネット通販に力をいれたことで2004年から徐々に売り上げを伸ばし、苦しい時代をやっとの想いで抜け出しました。
赤字から脱却した後、2008年に井手 直行が代表取締役社長に就任。会社として軌道に乗り、これからどんどん成長して行く時期でした。
しかし、そのような会社の状況とは裏腹に、社内の雰囲気は良いとはいえず、当時のスタッフからは売り上げが伸びていることに対して「忙しくなるのは困る」「残業が増えるのは困る」というネガティブな声ばかりだったといいます。
内田 「その当時はまだ会社のビジョンがしっかりと定まっておらず、共通の目標がありませんでした。そのため人によって向いている方向もバラバラで、良いコミュニケーションが取れている状態とはいえませんでした。
そこで井手は、会社の目指す方向として『クラフトビールの革命的リーダーになる』というビジョンを掲げました。しかし、それに対してもスタッフの反応はほとんどなく、ビジョンに対して疑問を持つ人もいたほどでした」
毎朝の朝礼も元気がなく、お通夜のような雰囲気。ひとりでの仕事はできても、チームみんなでやる仕事は成り立たず、他人任せ。当時はスタッフ20名ほどだったため、一人ひとりが仕事をしていれば会社は回っていましたが、チームとして団結しなければ、会社の成長はありません。
そこで井手は、チームづくりに力を入れることを決心しました。
TBPとの出会い──変化を起こすため、まずは自分が変わる
会社として成長するチームをつくるために動き出した井手。まずは朝礼を雰囲気良くやろう、など声かけをしてみるところから始めましたが、なかなかスタッフはついてきません。
チームになるために良い施策はないものか──抜本的に解決できる策を探していた中で出会ったのが、楽天大学の「TBP」でした。
井手は手がかりを求めて自ら受講。この「TBP」での井手の経験が、ヤッホーブルーイングのチームをつくる大きな鍵となりました。TBPとは、座学だけでなくアクティビティを通じて、体感的にチームビルディングを学ぶプログラムのこと。
このプログラムを通して、井手は成果を成し遂げるためにはチームとしての共通の目標が大事であること、チームメンバー同士の強みを理解することの大切さを実感しました。
まずは自分が変わること、理想を諦めてはならないことが大切だと学びを得た井手は、社内のメンバーにも同じ体験をしてもらえればチームをつくることができると確信。この体験を社内に共有するため、無謀にも自ら講師として社内で研修をしようと考えました。
2009年6月、早速TBPの社内開催準備をし希望者を募った結果、スタッフ7名が手を挙げました。初めて社長が提案したプログラムに興味本位で参加したスタッフもいたといいます。
道本 「社内でもTBPを受けた後の井手の変化に多くのスタッフが驚いていたそうです。なぜそんなに変わったのか理由を知りたいという興味で参加したというスタッフもいました。初回受講者ならではの動機ですね(笑)」
TBPは3カ月を通して行う長期プログラム。そのうちの5日間は終日座学とアクティビティを行います。アクティビティでは、さまざまなチーム活動を通して座学で学んだことを体験し、理解していきます。また、5日間以外の日常の中でも、3カ月間コミュニケーションの量を増やしてチームメンバーとの相互理解を深めていくという内容です。
第一期TBPに参加した7名は、井手と同じように、研修を通してチームになることの大切さを実感。今まで一方的に自分の意見を押し付けていたスタッフが、人の個性を認め話を聞くようになるなど、参加者の変化にも結果が大きく現れました。
翌2010年には第二期を実施。研修を受けたメンバーを中心に、徐々に社内の雰囲気は良くなっていきました。2011年の第三期ではスタッフ数も増えてきたため、より多くのスタッフに参加してもらいたいと強制参加を促すことに。
しかし、「やらされ感」を感じたメンバーがうまくフィットしないなど、初めてチーム化できずに終わってしまったのです。その教訓を生かし、自主参加を絶対条件として、年に一度のペースで研修を開催し続けました。
変化の兆し──自主的に始まった社内の課題解決チーム
こつこつと毎年行っていた研修の効果は徐々に社内に見え始めていました。ビジョンに向かって進むことの大切さを少しずつ理解し、他のメンバーの業務に対して協力的になってきたスタッフたち。研修の効果もあり、売り上げは二桁成長を遂げるまでになりました。
今では、TBPはヤッホーブルーイングにとってなくてはならない、看板研修となっています。スタッフそれぞれがTBPを通じてさまざまな変化を感じていると言います。
内田 「私自身も、研修の中で考え方が大きく変わったひとりです。研修を通して、誰でも強みとそうでない部分があり、それを知ってお互いが生かし合い、助け合うことでチームとしての仕事がうまくいくのだと感じました。
研修後は『この人はどんな強みがあるのだろうか』と知ろうとしたり、自分の苦手なことを伝えてお互いの自己開示をしてから仕事をしたりと、研修で学んだことをとても大事にしています」
研修は毎年進化し続け、参加者の主体性も上がり、中にはチームになったと感じるまで自主的に社内の課題解決を行うチームも出てきました。
道本 「私は2017年にTBPを受講したのですが、研修の終わりを目前にして『まだ私たちはチームになれていないのでは?』という気持ちが残っていました。そこで、社内の課題をメンバーで協力し合い解決したときにチームになっているのではないかと考え、実行することを決めたんです。
スタッフ数が増える中でどうしてもコミュニケーションが少ない人が出てきてしまうという課題から、スタッフのニックネームと顔写真を使った掲示物をいろいろな場所に貼り、スタッフ同士の親近感が湧くようにしました。そこに至るまでのさまざまな議論や一緒に課題を解決しようとする過程を通じて、チームになった実感を得ることができましたね」
強みを生かしあい、ビジョンを実現する最高のチームを
2020年現在、TBPも11期目を迎え、多くのスタッフが参加しています。
また、一度受講したスタッフ向けに、外部講師を招いた研修「TBP1.5」やリーダー向けの研修「TBP2.0」。また、子育て中など時間がないスタッフのための3時間プログラム「TBP0.5」などさまざまな形でプログラムを発展させ、社内全体のチーム力向上に力を入れています。
その結果、TBP実施前のお通夜のような雰囲気からは想像がつかないほど、楽しくイキイキした雰囲気に。
そのチーム力は社外でも評価され、2017年には「働きがいのある会社」ランキングのベストカンパニーに選出されるまでになりました。
また、課題を解決する社内プロジェクトが自発的に、年間数十個も立ち上がるように。コミュニケーションの大切さを知ったスタッフからはコミュニケーションを活性化する施策がどんどん生まれています。
内田 「ビジョンを自分ごと化して頑張っていこう、というチーム帰属意識が社内全体に芽生えてきています。これからも、それぞれが強みを生かしあい、イキイキと仕事をすることで成長していくチームになれるよう、ヤッホーブルーイング全体のチーム力を磨いていきたいと思います」
長い時間をかけて独自のチームの形を作り上げてきたヤッホーブルーイング。彼らのチーム力はまだ進化の途中。クラフトビールで多くの人を幸せにするため、今日も走り続けます。